第25話 未来視
思いがけない客だった。
事情を聞いて、納得だけど。
相変わらず、ランは台風の目だ。嵐の真ん中でキョトンとしている顔が想像できて笑ってしまった。
彼はシャルナードというドラゴンで、ランの隣人になるために人間としてのイロハを教えて欲しいと言う。
生徒が三人になったなと思っていたら、二人減った。
ドラゴンの言うことには、ケットの姉妹の「色の黒い方の寿命が尽きている」らしい。
いつその日が来てもおかしくない状態だと言うから、手紙をつけて父親の元に姉妹を送り返した。
その日が来て、しばらくしてまた仕込みを受けたいと言うなら受け入れるけど、ケットはたった一人の跡継ぎを外に出すことはないだろうし、仕込みはここまでだ。いい臨時収入だったけど、仕方ない。
金のなる木を失ったけど、ドラゴンにものを教えるというのは、それ以上にやりがいのある仕事だ。
上手く行けば、未来を見るドラゴンに「先生」としてつながりを持つことが出来る。
無給でも、投資としては最上ランクの仕事になるだろう。
ジャウラに教えたように、表情の使い方、しゃべり方、ボディランゲージ等を教えた。
授業の後ドラゴンは睡眠もとらずに図書室の本を読み漁り、知識を増やしていった。その穴を埋めていきながら、能力を有効利用して移住資金を貯めた。
なにをするにも金が必要だ。
顔を変えて未来視の占い師として、荒稼ぎ。
手紙を見て怒鳴り込んできたケットから始まって、王族のメルリルまで。
新物好き富裕層からたっぷりいただいたので、資金は万端。メルリルから戸籍も手に入れた。
メルリルが何を聞いたのかちょっと気になるけど、あたしも秘密にしてるからオアイコだ。
そのうち、「選択」がすぎたら教えてくれるだろう。
着々と進む移住準備の間に、うちには芸術品の山が出来た。
変わり者の彫刻家として移住するために始めた彫刻だけど、あっと言う間に芸術品のレベルに達した。
練習台となったうちは、ありとあらゆる場所に彫刻が施されている。
不動産価値が上がったし、商売のはったりにもいい。掃除が大変だけど。
これらは授業料として好きにしていいと言うから、ちょうどあった芸術展に出品した。
狙い通り最優秀賞を獲得して商品価値をつけ、ミッツ商会の独占販売ということで値をつり上げた。
新進気鋭の彫刻家をミッツ商会に紹介した功績で、独占契約料の2パーセントを受け取れるようになったので、農園の権利の買戻しも進んだ。
無給だと思っていたのに、たいした利益だ。
ミッツ商会も潤っている。
ランの鼻歌に感謝だ。




