第10話 為政者と商人
絵本『ドラゴンと乙女』・『続・ドラゴンと乙女』は売れに売れている。
続巻の方は、映像球付き豪華版の売れ行きが良かった。
まぁ、女子の夢のような設定だから、売れるのは当たり前。
映像球には、ランがドラゴンを呼び出したシーンから、パーティ、海に消えるまでをロマンチックに演出して収めてある。
結局オーレスのシーンはランの顔が映っていないほうが良かったので、あの撮影者はメルリルの懲罰を免れた。
あたしは許さなかったけど。
ばっちり調べて痛い目にあってもらった。
結局良い結果につながったとはいえ、あの時点での罪が軽くなると考えるほど、あたしは政治的じゃないからね。
売上金をどうするか、メルリルと彼女の財務担当者と話し合った。
ふつう、絵本の著者には一割から三割の著作権料が支払われる。絵本の著者に一割。出演者の二人に一割ずつ。
ただ、事情を知らないランの両親が、娘のために代理請求訴訟を起こすと面倒なので「乙女の島にいるランに渡せない分」として二割渡して黙らせないといけない。
すると半分は関係者に支払う分として手をつけられない。印刷屋・製本屋・映像球屋に支払うと五分ほど残った。
100分の5とはいえ、小金だ。
ドラゴンと乙女はうちの国民じゃないから、税金を支払う必要がない。ということになっているので表立って徴収できない税金分として、これを充てることにした。
このショーの興行主としての報酬ってことだ。
この中から、目立った功績のあったスタッフたちに功労金が支払われるだろう。
メルリルはアメとムチ派だ。
あの日、人ごみをウロウロしたスタッフのうち、いい情報を拾って来た者もいる。
反対に、酔っ払ってスパイに引っ掛けられた者もいるらしい。
幸い、危険な情報漏洩はなかったらしいけど。
いくら優秀なスタッフでも、腕利きのスパイには食われてしまうこともある。
下手に隠し立てせずに、報告したので、手を打てたということだった。
あたしだったら、即刻クビだけど、メルリルは報告したことを評価して減点だけで済ませたらしい。
まぁ、側近からの転落って言うのが一番堪えるだろう。
メルリルのこういうところが、為政者だなと思う。
商売人には一度のチャンスしかない。
掴みそこねた者のことなど、知ったことか。




