眠る子に
暖冬だったのに、急に寒くなるらしい。
フローリングの床に、
ホットカーペットを敷こうとすると、
久美ちゃんが這いまわって、邪魔をした。
久美ちゃんは得意げに笑いながら、
今度は、カーペットを敷こうとする場所に
寝転んでしまっている。
「くみちゃん、邪魔しないでね」
私は、優しい口調で言った。
早く作業を終わらせて、
洗い物を片付けたり、洗濯物を畳んだり、
クリスマスの飾り付け片付けなきゃ。
久美ちゃんは、
そんな私の気持ちを見透かすように、
小さな手足を小刻みに動かして、
また、床を這いまわった。
「ああん、もう、邪魔しないで」
私は、イライラして、少し強く言った。
久美ちゃんは、動きを止めて、
私を顔を見上げると、
そのまま動かなくなった。
私も久美ちゃんの目を見つめて、
彼女の動きを見定めようとした。
どれくらいの時間だったろう。
久美ちゃんの顔が次第に歪んでいき、
目にいっぱいの涙が溜まり始めた。
あっ、ごめん、こわかったの?
私は、強く言ったことを悔いた。
えーん、うえーん、うえーん、
うえーん、うえーん……
久美ちゃんはありたっけの力で、泣き出した。
カーペットを敷こうとした床が、
涙とよだれで、べとべとになっていく。
「ごめん、ごめん、恐かった?
ごめんね、怒ってないよ。大丈夫だよ。
よし、よし」
床に正座して、久美ちゃんを抱きかかえ、
なんども頭を撫でながら言った。
胸のところに久美ちゃんの顔を持ってくる。
母親ならここでおっぱいを吸わせるの
だろうか。
子供の扱いに慣れていない私は、
なんとも心もとないまま、
久美ちゃんの背中を、ぽんぽんと
軽く摩りながら、ゆりかごのように、
上半身を揺らしてみた。
しばらくすると、
久美ちゃんは泣きつかれたのか、
私の腕の中で、眠っていった。
私は、久美ちゃんが好きだ。
他の子供達は、ちゃんとお昼寝してるのに、
久美ちゃんだけは、お布団で寝てくれない。
何時も私が抱っこすることになる。
予定していた仕事を、
今日も残してしまいそうだ。
「ねえ、あと一時間いいかな?
交替の田中さんがちょっと、遅れるらしいの」
同僚が扉から顔を出して言った。
「うん、いいよ。約束の時間変えてもらう」
私は、エプロンのポケットから
携帯を出して、彼にラインした。
“ごめん、仕事、手が離せなくて、
一時間ほど遅れるから。ごめんね“
私は、田中さんが来るまで、
久美ちゃんを抱っこしておこうと思った。
眠れよい子よ……庭や牧場に……