第6話 〜Return To The Living〜
本を読むという事は大切な事だと我々は教えられた。教科書以外にも何かしら読まなくてはならない。それが義務でありルールであり規律として 私達に突きつけられた。身体的な発達だけでなく脳みその強化もしなくてはならない事だ。だが、皆読者などに興味を示さなかった。皆の興味は別 の方向に向いていた。それが何なのかは人それぞれで別に対して興味はわかなかった。読書なんて好きな奴は根暗か一部の異端児ぐらいだと、当時 の私はそう思っていた。だが身体だけデカくなっている脳タリンになるのも真っ平御免だった。
私は10才になり10年生きたのだ。世の中には10才 になる事なく死んでいく人間もいると道徳の時間で教わった。何て運のない奴らなんだ、、そんな風にしか思わなかった。 人に殺される奴、災害に巻き込まれる奴、病気で死ぬ奴、理由もなく死んでしまう奴。この世は死であふれかえっている。天国も地獄も死人でいっ ぱいだ。狭っ苦しい場所が、嫌いな私は死ぬ事を恐れた。だから私は不老不死になる方法を考えた。リコ・キャンドルは生命の象徴である。決して 消えてはならない炎だ。
朝初めに読書の時間が始まる。私が最初に選んだ本は聖書だ。間違いないチョイスだ。これには、不老不死の方法が書いて あると直感で私は感じた。聖書の始まりは全知全能の神が7日間の間に世界を作る事から語られた。光と闇を作り、昼と夜を作り、大地と空を作り、 木や川、動物達を作り、最後に人間を作った。"なかなかいい感じゃないか"!私は興味をそそられた。神は楽園を築き2人の人間に動物達を管理さ せた。この中では人間は無敵だった。死ぬ概念などない世界だ。おまけに果実も食い放題ときた。一部の果実を除いて、、だが、悲劇は起きた。 イヴが蛇に唆され禁断の果実を食ってしまった。果実はイヴに知恵を授けてしまった。全裸でいる事に恥じらいを覚え服を着た。その後アダムがやっ てきた。彼は全裸だった。イヴの変化に驚いていたが、イヴの言葉に唆されアダムも"その果実を食べた"。アダムも知恵を授かり恥じらいを覚え服 を来た。その行為は神の逆鱗に触れ彼らは楽園を追放された。"男は勤労の苦しみ"、"女は出産の苦しみ"、神は罰を与えた。なんて馬鹿げた話だ。 その後イヴはアホみたいに子供を産み800年近く生きてそのガキ共も数百年以上生きてしまい、アダムはそのガキ共とメス豚イヴを養う為に1000 年近くアホみたいに働き、そして死んでいった。
"こんな馬鹿げた話があっていいものか"!イヴがあんな馬鹿げた果実なんか食わなければ世界は、 人で溢れかえったりせず、死ぬ事もなく我々人間は神と同じく不死身だったのに、、 なんて、バカな女だ。私は聖書を本棚に返し、別の本を探した。
偉大なる知恵の探求者リコ・キャンドルは、まだ諦めていなかった。 次に見つけた本は「フランケンシュタインの逆襲」とか言うタイトルだった。絵本であったので文字だけじゃなく挿絵があったので読みやすかった。 何よりも注目すべきはその内容だ。死体を繋ぎ合わせ1人の人間を復活させる。いや、まったく別な生命体を作るという感じの方が正しいのかもし れない、それは死と生の概念を脱却し神すら考えつかない行為。まさに禁忌、私は夢中になり本を全部読んだ。楽しい読書の時間になった。 だが、私には死体を繋ぎ合わせる技術は持ち合わせていなかった。そもそも、死体を探しに墓に行っても骨しかないわけだし、、
私は、また別の本を探した。次に見つけたのは、「吸血鬼ドラキュラ」だ。これもさっきの本と同じく絵本であり。読みやすかったし、何より表紙 が奇抜なデザインで私はすぐにこの本が気に入った。ドラキュラの事は多少知っていた。彼らもまた不死に近い存在だ。まず、年をとらない永遠に 美しいまま生きている。太陽の光を浴びるか心臓に杭を打ち込まれない限り死にはしない。彼らは死人なんだろう。死者はいつだって生者が妬まし い。血を吸う行為は凍った身体と心を満たす為にやってるんだろう。不死になり超常的な力を手に入れても満たされず生きていかなくてはならない 何百年も放浪し続けているんだ。魂は天に還る事なくずっと暗闇を歩き続けるんだ。この本も面白く次々とページをめくった。途中で女ヴァンパイ アが登場してきた。金色の髪、透き通った白い肌、少し尖った耳、何よりも特筆すべきはあの鋭く冷徹なまでに突き刺すような眼だった。黒いドレスを着て、貴族達が集まる舞踏会に登場する彼女はとても印象に残っている。誰もが皆彼女の姿に目を奪われる。彼女は楽園の追放者、イヴの成れ の果て、残骸の様な彼女を残骸にし尽くしたドラキュラ伯爵。彼女は決して人とは踊らない、他の美の追随を許さない気高さ、失墜を恐れない傲慢 さ。彼女は獲物を見つけたら、音もなく風の吹かぬうちに獲物に近づき魅了し自分の部屋に連れ込み、それを握り潰し果肉は捨てその汁だけを啜り とる。夜の貴族の嗜みを心得ている。幻想的な物語りを堪能した私は不死の存在達に魅了された。
本を読み終えた頃に読書の時間は終わり皆、教室 に戻る。"ドラキュラに成るにはドラキュラに噛まれるしかない"そんな事を私は考えていた。そんな時私の前を歩いている女の子に気づく。 その子は容姿が整っており、耳が少し尖がって肌が白く髪の色は少し茶色で他の子とは少し一線を引いていた。何よりも異質なのは、時折みせる その残虐性だった。
昔彼女と数人の友達とで私の楽園で遊んでいた時の事だ。皆はしゃぎ周り遊んでいたら、蛇が現れた。皆驚いてたが、彼女は靴 を脱ぎ裸足になり蛇を踏み潰し殺してしまった。なんの躊躇いもなく、私達は戦慄と恐怖で立ち尽くしていた。彼女は笑いながら私を見て命令して きた。「足が汚れたから洗ってくれる?」笑っているが目は笑っていない、瞬時にきづいた。
「嫌だね!汚れたなら、そこの池で足を洗えばいいだ ろ!」私は拒否をした。
「逆らう気なの?どうなるかわかっているの?」彼女は怒りを表している。皆私を見ている。誰も助けようとしない、、、 彼女は少しずつ滲み寄ってくる。私は近くに置いてあった、じょうろを持ち急いで池に行き水を汲み彼女の元に戻った。彼女は岩の上で座って足を バタつかせ待っている。暴君そのものだ。
「早く洗ってよ!」
苛立ちながらなのか、楽しんでいるのか、わからないが私に指示を出す。私は彼女の 足を洗った。彼女の白い足は蛇のどす黒い血で汚れている。気味が悪かったが、何とか洗いとった。
「もっと丁寧に洗いなさいよ!やり直し!」
彼女はまた命令してきた。
「はぁ?もう綺麗だからいいじゃん。それに俺はここの支配者だぞ!命令すんなクソ女」
私も我慢の限界だった。彼女は 岩から降りて、蛇の死体を拾い上げ両手でその死体を引きちぎった。蛇の血液が楽園に散らばる。私の楽園は汚されいる、悪の化身を招いてしまっ たのだ。彼女は癇癪を起こしているのではない、もっと別の何か私には理解できない感情に支配されている。数人の友達は姿を消している。 あの腑抜け共め!今悪魔と対峙しているのは私だけ、その恐怖も私だけに向けられている。
「早く洗ってくれないと、アンタの犬も殺すよ!」
彼女は本気だ!やりかねない、前にクラスで飼っていたリスも彼女が窓から放り投げて殺した事を思い出した。私の犬はヘラヘラ笑いながら舌をだ してこっちを見ている。私はまた急いで池に行き水を汲み彼女の元に戻る。彼女の足を何度も洗った。
「その調子、その調子、ついでに手も洗っ て!」
彼女は上機嫌になっていた。手も血で汚れていた。それ以上に彼女の手の爪が変に長くて不気味だった。人間の手じゃない、、私はそう思っ た。この世には絶対に勝てない存在がいる。恐怖という言いようのない暴力が存在する。彼女の手も丁寧に洗った。その最中彼女は鼻歌混じりで機 嫌が良かった。私も楽しくなってきた。
その後彼女は私にいろいろ話してきた。最近気が触れて弟の耳を引きちぎろうとした事や自分の父親が愛人 を作り浮気しているという事など話してきた。私は頷き相槌を返した。何より悲しかったのは自分が大切に育てたアサガオが枯れてしまったのだと 彼女は語った。その時の表情はとても悲しそうだった。
「俺の家にまだアサガオ咲いてるから持っていっていいよ。」
私も支配者らしくしなくては ならないと思った。
「いらない、、自分で育てたやつじゃないと意味ないもん。」彼女は即答で返した。
「花は自分で育てないと綺麗に見えないも ん。人の育てた花なんてちっとも綺麗に見えない。」
彼女なりの美学なんだろう、私には意味がわからなかったがそれでいいんだと思った。
「そう かぁ~またアサガオ咲かせたらいいね。」
返事を返す。「もうアサガオに興味ない!別の花を咲かせる。」一度滅んでしまった物に彼女は興味ない んだろう。「次は何を咲かせるの?」私は興味があった。「秘密!」彼女は笑いながら返事を返した。そして岩から飛び降りて裸足のまま帰っていっ た。「じゃあね!」私は別れの挨拶をした。彼女は手を振り返す。 支配者になるなら悪魔を自在にコントロールしなくてはならない。欲望を我慢してはならない、死にゆく者に目を傾けてはいけない、滅んだものは 捨てろ、強者の弱点を突け、玉座は1つだけで王冠は血に染めるな。恐怖は私を支配しまた私を魅了する力。蛇の残骸が目に入る。これは彼女の力 の証であり彼女の残り火だ。蛇を楽園に埋葬した。蛇は脱皮を行い古い骸を捨て新しく生まれ変わる。蛇もまた、不死に近い生き物だ。 そして、また彼女が私の前にいる。私は彼女に問いかける。
「お前って実はヴァンパイアだろ。」
「だったら、何?」
彼女は、はにかみながら返す 「俺も不死身になりたいんだよ」私は続けた。彼女は私を見ながら自分の手を噛みちぎり出血させた。血をハンカチで拭き取り私に渡した。 「これでも、舐めればいいんじゃない?」彼女は私など眼中にないといった感じだ。そして、すぐに立ち去った。私の元に血のついたハンカチが取り残された。私は思う、、奴は人間じゃない。