第4話 〜太陽と月の隣人たち〜
私は近所の子供達とよく遊んだ。昼も夜も関係なくよく遊んだ。とりわけよく朝早くから友達の家を訪れては友人の家族を困らせていた。 だが、子供の私には関係のない話だ。何をして遊んだかはあまり覚えていないが、よく遊んだ記憶だけは確かに覚えている。
私は、根暗で引き込み思案のタイプとはかけ離れていた。支離滅裂で何をしでかすかわからない、思った事はすぐにやる。有言実行タイプとまでいかないが 落ち着きのない子供で恐れを知らず決してどんな人にも目を逸らしたりしない子供だ。今言える事はこのまま大人になれたら真実からも目を逸らし たりせず今手に入れられなかったモノも全て手に入れられたかもしれないのに、、、
7歳くらいの頃私は男より女の子達との方が仲が良かった。不思議な事に私は受け入れられた。近所に住んでいた女の子確かその子と凄く仲良くなっ ていた。
名前は忘れた。でもイニシャルなら思い出せる。だから彼女を"k"と記そう。
記号の様に思わないで欲しい。彼女は記号でもキングでもなく 只のKなのだ。よく彼女の家のベランダで沢山の話しをした。たわいもない会話だったが、私達は楽しんでいた。
「私は大きくなったらお姫様になるの!」
彼女はよくその台詞を言っていた。
「女王様にはならないの?」私はそう返す。
「私は王様みたいに偉そうにしたくはないの!白いドレスを着て、大きいお城みたいな所に住みたいの!」私は頷きながら、意地悪な返事をする。
「お姫様になったら毒リンゴを食べさせられるよ!大人は 自分達よりも綺麗なモノを許せないんだ。」彼女は目を見開いて私に返す。
「そんな事ないもん。みんな私が好きだからそんな事ないもん。」彼女は続ける。
「お姫様は世界中の誰よりも綺麗だから誰からにも好きになってもらえるんだよ!」
私は彼女と一緒にいるとついひねくれてしまう。何 故なんだろう?言葉が上手く出なかったりして、もどかしい気持ちによくなる。
「僕は、大人になったらどうなるんだろう?」
不安げに彼女を見返す。彼女は笑いながら返す。
「ヒーローにでもなればいいじゃん!男子は皆ヒーローに夢中だよ!」
「そんなの絶対嫌だね!」
私は反抗した返事を返す。子供の頃からヒーローは嫌いだ。いや、正しくは正義の味方という者が嫌いなんだ。
「僕は悪者が好きなんだ!悪魔みたいな怪物になって、 全部ぶっ壊してやる!」
彼女は少し呆れていた。「悪魔なんてダサいよ~」ベランダの柵の隙間から足を出しパタパタさせながら喋っている。
「そんなんじゃ女子にモテないよー」
私はうなだれてしまう。彼女は天真爛漫だったのだろう。誰とでも仲良くし明るく聡明で元気が体から滲み出 ていた。男子からも女子からも人気があり、本当にお姫様になれるんじゃないかって思う。彼女は空を見上げて指を指している。「見て、見て、変な形した雲があるよ!」私も驚きながら返す。
「わぁー本当だ!ツノみたいなのが二本あってなんか悪魔みたいな形してる!」その雲は本当に 変な形をしていた。二本ツノみたいなのが生えていて、それ以外は丸い形で子供が描く悪魔のイラストそっくりだった。
「あの雲の中に悪魔がいたりして、」
彼女はにやけながら言う。
「悪魔がいたらきっとKは喰われるよ!」
彼女は、こっちを見返す。
「そうなったら助けてくれないの?」
「俺は悪者だからなぁ~」
私は意地を張ってしまう。
「悪者なんてダサいよー」
彼女も言い返す。私達は、それから雲が消えるまで雲を眺めていた。 途中何度かくだらない話しをしたりした。彼女のベランダから近所の公園が見える。男の子達が泥を投げたり空き缶を潰したりして遊んでいる。
「男子って時々凄い馬鹿な事してるよね」
彼女は呆れながら公園を見ながら言う。
「僕は馬鹿に見える?」
彼女に聞いてみる。
彼女は、少し間を 開けて笑いながら返す。
「自分の名前に聞いてみれば。」
私は一瞬わからなかったが、理解できると納得した。
「俺クラスで一番計算得意だもんね!」
彼女は笑って返す。
「字はクラスで1番汚いけどねー」
私は恥ずかしくなったが、何とか言い返したかった。
「Kだって字書くの汚いじゃん。」
「えーそうかなぁ?でも先生は褒めてくれるよ。」
私は彼女に言い負かされたくなかった。だが、それ以上に言葉が出なかった。不思議と彼女と言 い合いになっても不快感はなかった。怒る事もなく彼女も泣いたりせずに大抵は笑っていた。子供の世界は優しいのだと思う。
彼女と幾分か話していたら私達は彼女の家のソファーで眠っていた。とても柔らかく気持ちのいいソファーだった。
彼女の母親が仕事から帰宅して私達は目が覚めた。 彼女は笑って母親を出迎えた。母親も笑顔でかえす。
「おかえり、ママ!」「ただいま、K!」
2人は手を繋いでリビングに来る。
「もう、夕方だか らそろそろ帰った方がいいわよ」彼女の母親が心配そうに言う。「はい、そうします。」私も大人には従順だった。
玄関に行き、靴を履きドアを開 けて後ろを振り返り2人に言う。
「お邪魔しました。またねK」
彼女も返す。
「またね、、」
ドアを開けて外に出る。 外の世界は、研ぎ澄まされていていつもの私に戻してしまう。私はまた、はみだし者に戻りなんでもできてしまう感じになる。どうして、彼女の前だと、この感じになれないんだろう?不思議だった。
風は冷たく冬の気配を感じていた。空は夜空に変わりつつ薄っすら星が見えて月が白く光って いた。彼女は太陽で僕は月なんだろう。彼女はいつでも全てを照らして僕はいつも欠けていた。彼女の前では本当の姿になれない。僕が彼女を覆い 隠すとしたら、それは大変な事になるだろう。月が太陽を覆い隠すと皆んな不安になるんだ。彼女との記憶は確かここら辺で終わってしまう。 もう、あまりこの後は思い出せない。
半年後彼女は転校してしまった。隣町に、そんな遠い場所ではない。だけど、あれから1度も彼女の姿を見て いない。別れの言葉も思い出せない。もしかしたら全てが幻だったのかもしれない。太陽は昼を照らし月は夜を照らす。似た者同士なのに何で2人 は一緒になれないんだろう?子供の頃の疑問は今もわからない。