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四十話 後日、第一王子とその親友


 全てが終わった後、城の一室。……ゼニスの部屋では一連の騒動を収束させ、ようやく一息ついたゼニスとクロムが、終わったなと頷きあっていた。


 捕らえられたジェオルジは未だに訳の分からないことを喚いているが、叩けば沢山埃が出る男だ……。あの男が冷静になれば、相応の取り調べがあり、今のままでも精神に異常をきたしたとしても相応の場所に隔離される……どちらにしろ、表舞台に上がることはもう無理だ。


 ヴァイナスに薬を盛った侍女は、数名の人間とともに事切れた状態で発見されていた。


 数名というのは、城からヴァイナスを運びだした運び屋たちだろう。

 自ら毒を飲むという、死に方だ。初めから、こうするつもりだったのか、ジェオルジの失敗を悟ったからかは、わからない。


 ただ、彼女たちはジェオルジに並々ならぬ崇拝の念を持っていたようだが、一切省みられることなく捨て駒同然利用されたのだ。気の毒ではあるものの、同情する気などクロムにはなかった。


「……まぁ、これでセレストの周辺も平和になるだろう」

「そうだな」


 安心したように呟いたゼニスは「ただ」とクロムを睨んだ。


「……ジェオルジの屋敷に乗り込んだとき、セレストを囮にするとか言い出した時は、ヒヤヒヤしたぞ」 

「でないとあの男、奥方様から手を離さなかっただろ。それどころか奥方様を人質にして、往生際悪く足掻いた可能性がある」

「お前、セレストに甘いのか厳しいのか、いまいち分からんな」

「俺は、セレスト様の気持ちを考えただけだ。自分の大事な人が、危険視している奴に捕まってるんだ。すぐにでも助けたいと思うだろ」


 どうしても、弟を庇護すべき存在として見てしまうゼニスと違い、クロムはセレストが守られるだけの存在ではないことを知っている。


 かつては守られるだけだった少年が、守るための力が欲しいという望みを抱いている事知っている。


 それが気にくわなかったのか、ゼニスは口をへの字に曲げ「もういい」と手を振った。


「物は言い様だな、クロム。食えない奴」

「心外だな」


 ひょいっと肩を竦めたクロムは、そのまま扉の方へ歩き出した。


「なんだ、もう行くのか?」

「これでも、セレスト様の護衛だからな」

「そうか。……まぁ、可愛い弟夫婦だ。よろしく頼むぞ、親友」

「言われなくても」


 クロムの後ろ姿に、ゼニスが思い出したような声を投げかけた。


「おい、あの二人は、お前の目から見てどうだ?」

「あ?」

「だから、ちゃんと夫婦として上手くやっていけそうか?」


 なんだかんだと言いながら、弟夫婦を心配しているらしいゼニスにクロムは笑いかける。


「大丈夫。今はまぁ、淡い初恋とか庇護欲とか、そんなものだけど……。あの二人なら、この先もきっと仲良くやってけるさ」

「そうか」


 頷いたゼニスに向かって片手を上げ、クロムは部屋を後にする。

 扉を閉める直前、親友の独り言が聞こえた。


「――よかったな、セレスト」


 それは、とても穏やかな声だった。

 音を立てないように静かに扉を閉めたクロムは、ぐっと大きく伸びをする。


「さて、これから忙しくなるな」


 主の元へ急ぐ足取りは軽い。未来へ思いを馳せる彼の唇は、楽しげな弧を描いていた。

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