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三十二話 これからの約束


 王族間でのやり取りを終え、自室に戻る途中。

 廊下を並んで歩いていたセレストが、ふと口を開いた。 


「なぁ、妻殿」

「はい、どうかなさいましたか?」

「……僕は、貴方に会ってから変わったと思う」

「突然、どうしたのです?」

「突然じゃない、ずっと考えていた事だ。……貴方に会う前の僕だったら、きっと兄上の目を見て、自分の意見を話すなんて出来なかった。兄上に言い返すなんて、絶対に無理だった。……拒絶されたあの時から、一歩も前に進めないままだった」


 手を繋いだまま、セレストはヴァイナスを見上げた。


「……貴方のおかげで、僕はちゃんと歩き出すことができた。……だから、これからも僕が道を間違わないように、見ていてくれないだろうか……? できれば、ずっと……」


 ヴァイナスは、改まってそんな事を言い出すセレストの生真面目さを、好ましく思った。

 このまま真っ直ぐな心根で育てば、そうそう道を踏み外す事などないだろう。


 今でこそ、不安定な一面を持つが、ゼニスの言う通り、宰相の一件を何とかすれば、セレストにも平穏が訪れる。


 そうすれば、誰に憚ること無くのびのびと過ごせる。この先、様々な人と出会い人脈を広げる事も可能だ。


 すぐに、自分が見ていなくても大丈夫になってしまうだろう。


 そんな未来を身近に感じ、ヴァイナスは一抹の寂しさを覚えつつも、すぐに来るだろうセレストの明るい未来に思いを馳せて、微笑んだ。


「ええ、もちろん。セレスト様が望む限り」

「本当か? ……じゃあ、ずっとだ……! 約束だぞ?」


 セレストが、無邪気に笑う。

 この笑顔がもう二度と曇らなければいい――。

 ヴァイナスは、心の底からそう願っていた。



 約束を交わした後、二人はセレストの部屋へ戻って、アンナが入れてくれたお茶を飲みながら、これからの話をした。


と言っても、難しい話ではない。最近は剣術稽古に力を入れ始めたからこれまで通りとはいかないけれど、またあの馬に会いに行こうという話だった。


 ヴァイナスが笑って頷くと、セレストは身を乗り出す勢いで、さらに続けた。

 実は遠乗りに連れて行きたいのだとか、庭園で見せたい花があるだとか――全てが、微笑ましいお願いだ。


「それは、とても楽しみですね。私も、貴方と二人で色々な物を見たいです」

「それじゃあ、全部叶えよう!」


 セレストは、ずっと笑顔だった。

 そのまま他愛ない話を続けているうち、日が暮れた。ヴァイナスは「また明日」と挨拶をして、部屋を後にする。


 そして、いつの間にか見慣れてしまったイグニスの長い廊下を、後ろにクロムを従えて歩き出した。

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