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妖魔狩り戦記  作者: 岸根 紅華
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退却戦2

「ノリコ、右は任せた!」

「ヤー!」


 炎が頬をかすめ、背後の地面が爆ぜる。

 俺は背にチリチリと熱気を受けながら、撤退する自衛隊員に襲いかかる化け狸の腹を大太刀で切り裂き、ハンドガンを乱射して後続の妖怪を威嚇した。


「はぁぁぁぁ!」

 チラリとノリコを見れば、撤退する自衛隊の背を切りつけようとしたカマイタチを、双剣で切り刻んでいた。

 いや、その隙間に入り込もうと自衛官の背を蹴ったのは気のせいか?


「さあ、次!」

 興奮する彼女の感情を表すように、双眼が朱色に色づいていた。


 ノリコは鬼族と人間のハーフだ。

 北の鬼族にさらわれた人間の娘が、身ごもり、その腹を文字通り突き破って出てきたのがノリコだ。

 ノリコが産声を上げた時、鬼族は震撼した。


『人間に鬼の子は生めない』


 鬼の子は胎児でも人間には強すぎて、妊娠しても数週間持たない。

 それが数百年、あるいは千年を超すほどの常識だった。

 だがそれは、ノリコが生まれたことにより覆されたのだ。


 当然、故郷である北の鬼族でも彼女は異端児。

 扱いに困った北の鬼族は、彼女が五歳の時に人里に捨てられた。


 北の鬼族特有の赤い目は人間に受け入れられること無く、勝手に殺してくれるだろう。


 そう思ったのかは知らないが彼女は餓死寸前のところ、幸か不幸か国経営の孤児院(実験施設)に保護された。

 彼女とはそれからの付き合い。


「ノリコ楽しむな! 自衛隊員の撤収を優先させろ!」

 だから、彼女の性格は良く知ってるつもりだ。

「べ! 別に楽しんでない!」

 表情の変わらない顔で睨みつけられたが、あれは彼女が何かをごまかそうとする顔。

 彼女が妖怪を斬り伏せる際に蹴飛ばした自衛隊員は、決して邪魔だからではなく妖怪に狙われていたからだと思いたい。


「ここの部隊は、お前で最後か?」

 ごこちなく背中をさする隊員に確認の声を掛けた。

 背中にくっきり付いた靴跡が死鬼隊に配給されたブーツの裏底と似ているが、それは見なかったことにする。


「ああ、ありがとう。俺は大丈夫だ……」

 頬を引きつらせ必死で笑顔を見せようとする、泥や汗、その他の要因でボロボロの隊員に頭が下がった。

 同時に清潔な部屋で御託を並べる司令官の顔が浮かんで、はらわたが煮えくり返る。

 後であいつを殴ろうと決意した。


 だが、まだ終わっちゃいなかった。


「谷の窪みに負傷した仲間がどこからか攻撃を受け、それを助けようとして……仲間の二人が……俺は味方を呼ぼうとして……」

 思わず舌打ちしそうになった。

 どうやら妖怪の中にも、人間並み、いやそれ以上に知恵の回る奴がいるみたいだ。


 話を聞く限り負傷兵を助けると言う、人間の行為を逆手に取ってい戦法だ。


 囮になる負傷兵は殺さず、致命傷にならないところを傷付け悲鳴を上げさせる。

 そして、助けに来た者を隠れたまま狙い打つ。

 あまり褒められた戦法ではないが、効果は絶大だ。


「大丈夫だ。そいつは俺が必ず助ける。だから、お前は砦まで後退しろ!」

「…………」

 ジッと俺の目を見る自衛隊員。

 俺が視線を逸らさず頷くと、「頼む!」と一言苦しげに告げ、背中をさすりながら後退を始めた。

「ノリコ、索敵しながら進むぞ」

「了解」

 俺たちは十分警戒しながら、脛まである雪を掻き分け急いだ。


続きは明日投稿します!

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