退却戦1
「ひょー! こりゃまた……」
対戦車ライフルのスコープを見ながら、タクミが絶望的な戦場に奇声を上げた。
見れば連携の取れた人間の部隊に対し、妖怪は連携などというものが無く個々で戦っていた。
人間と違い、妖怪には部隊長とかがいないのだからしょうがない。
彼らは本能的にとか直感で敵の薄い部分を感じ、弱いとこを突いてくる。
野生動物のようなもんだが、妖怪は一匹、一匹の能力が違うので性質が悪い。
例えば人間が殴れば倒せる妖怪もいれば、数十発銃弾を受けても平気で暴れ続ける妖怪もいる。
なのに自衛隊員は人間と戦うそれでいる。
弾があたれば倒れるか怯む、左胸を撃てば、頭を討ち抜けば相手は死ぬ、と思っているのだ。
妖怪相手に、人間の常識なんて意味が無いのに……。
当然のように、あちらこちらで防衛戦は崩れてかけていた。
だが、完全に崩れていないのは司令官が無能な癖に、前線の隊員の練度が高いからだろう。
すでに妖怪との戦いに適応し始めている部隊も、ちらほら見える。
「タクミ、ノリコと新人連れて右に、コウジとユウナは左。俺は中央を死守する」
「それはダメ」
俺の命令に、否定の声を上げるノリコ。
「なんだノリコ。俺の命令に不服か?」
「当然。私はアキト隊長の側近。隊長の側から離れない」
それが正解とばかりに、凛と言い放つノリコ。
「いつの間にお前は俺の側近になったんだ?」
「今決めました」
俺の半眼の視線をシレッとした声で受け流すノリコ。
だが、言い争う時間が惜しい。
俺はこめかみに指を押し当て、深くため息をついてから視線を上げた。
「タクミ、新人と二人で大丈夫か?」
「……もちろん」
チラリとノリコの顔色をうかがうタクミが、残念そうに苦笑した。
そう言えばタクミって、ノリコのことが……。
だから、ノリコが一旦言い出したら誰の言うことも、もちろん俺の言うことも聞かないことも知っているのだ。
「分かった、それじゃ死鬼隊。出撃!」
声と同時に各々に動き出す隊員たち。
それを確認しつつ、俺も動き出す。
機嫌の良さそうなノリコの視線を背後に受けながら……。
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やはり、思った以上に胸にぐっとくるものがあります!
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