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2 大賢者、入学試験に挑戦する


 若返りの大魔法は、見事成功した。

 私は生来謙虚なタチで、三大賢者などと大層な呼び名を賜った際も

 「私などはただ悪目立ちしただけで、私より優れた魔術師などいくらでもいる」

 などと答えたものだが、今回に限っては自らを褒めたたえた。


 なんせ若返りの大魔法だ。

 古今東西、数え切れないほどの魔術師や錬金術師たちが挑戦し、ことごとく返り討ちにされてきた分野である。

 魔道を究める道のりは険しいが、これで私もようやくスタート地点に立てたことだろう! 300年間頑張ってきた甲斐がある!


 しかし、鼻を高くするのも程々にしなくてはならない。

 真に難しいのはここからである。

 すなわち、入学手続きだ。


 手続き、というのは私の苦手分野だ。

 面倒くさいったらありゃしない。

 魔法式なら鼻歌混じりでいくらでも書き込めるというのに、これには頭を悩ませた。


 まず入学には金が要る。学費というやつだ。

 これは問題ではない。

 なんせ今まで人里離れた山奥で仙人じみた暮らしをしてきたのだ。

 若い時分、魔道を究める旅の副産物として手に入れた金銀財宝の類がそっくりそのまま残っていたので、それを充てることにした。

 これを全て換金すれば何不自由のないキャンパスライフを送ることが出来るが、すんでのところで思いとどまった。


 多少の不自由なくして魔術が究められようものか。

 私は大賢者としてでなく、ただ一介の学生としてキャンパスライフを送るのだ。

 人並みの苦労をし、人並みに金に困ることも必要だろう。


 というわけでぴったり学費を払える分だけ換金し、残りはここへ置いていくことにした。

 一応気休め程度の魔術結界を張っておくが、不在の内に盗まれるのならそれはそれでいい。私には不要なものだ。


 さて学費の工面が終わると、あとはしち面倒くさい書類と三日三晩格闘し、ようやく出来上がったものを騎竜宅配に託してひと段落ついた。

 そして年甲斐もなくそわそわしながらラクスティア魔法大学からの返事を待っていると、ちょうど一週間後に大学よりまた別の書類が届いた。

 また面倒くさい手続きか……?

 げんなりして開封してみると、中には“ラクスティア魔法大学入学試験”と記された書類が封入されていた。


 どうやらこの書類には不正防止のため、開封時に受験する当人以外の存在を感知した場合、仕込まれた魔法式によってその場で燃え尽きてしまう仕掛けが施されていたようだったが、むろん私には関係ない。

 かれこれ200年ほど、この山奥で一人なのである。

 それに入学試験がどれほどの難関かは知らんが、誰が人の手など借りるものか!


 なにはともあれこの試験の可否で私が入学できるかどうかが決まる。

 私は輝かしいキャンパスライフのため、意気込んで入学試験とやらに取り掛かる。

 しかし問題文を読むなり、私は自らの頭にかっと血が上るのを感じた。


 問題文にはこうあった。

 “伝説の三大賢者が一人、マリウスが組み立てたマリウス式魔法式を、できる範囲で記しなさい”


 私はこの問題に出くわした時、一人喚き散らし、暴れ回りたい気持ちになった。


 マリウス式魔法式!?

 マリウスとは、あのいけ好かない七光り魔術師のマリウス・クレイアットのことか!?

 よりにもよって私の天敵――マリウスの組み立てた魔法式を、他でもない私に模倣しろというのか!?


 魔術は血によって決まると豪語し、富と名声のオマケぐらいの気持ちで魔術を学んでいたあの!

 人が従来の魔法式を最適化する作業に勤しむ間、親譲りの旧態依然とした魔術に頼っていただけの!

 そして魔族の王との最終決戦の際、あろうことか陰に隠れて小便を漏らしていたあの――!


 何が伝説の、だ!

 当時、あまりの情けなさを憐れんで失禁したことを黙っていれば、ちゃっかり三大賢者の一人に数えられやがって!

 ――ああ、思い出しただけで腹が立つ!


 私は怒りに任せて、“伝説の小便漏らし”ことマリウスの魔法式を受験用紙へ一息に書き込んでやった。

 あんな古臭い魔法式、私はそらで言える!


 しかしただヤツの魔法式を模倣するだけというのは癪なので、嫌味を込めて無駄な部分を全て省略し、最適化してやった。

 ふん、これでアイツの不格好な魔法式も多少は見れるようになった。

 これもまた騎竜配達に手渡して、大学へ郵送してもらう。


 ……試験官はいったい何を考えているのだ。

 大事な入学試験にマリウス式を採用するなんて。

 せめて私の好敵手、イゾルデ・フランケンシュタインのイゾルデ式魔法式ならば興も乗ったというのに、何故あのように無駄の多い魔法式を……


 と、そこまで考えてから気付いた。

 気付いた瞬間、思わず「あっ!!」と声をあげて、両手で口元を覆ってしまったほどだ。


 ――しまった! あれは引っ掛け問題だ!


 冷静に考えてみれば、大陸有数の教育機関と名高いラクスティア魔法大学が、間違ってもその試験問題にマリウス式魔法式など採用するはずがない!

 すなわち、あんな問題に馬鹿正直に答えた大馬鹿者は、落とされるのだ!

 きっと正解は“マリウス式魔法式など馬糞にも劣る”と書き込むことだったのだ!

 そうだ! そうに違いない!


 しかしそんな気付きも後の祭、騎竜はすでに行ってしまった。

 遥か彼方に遠ざかっていく地這い竜の背中を見て「ああああああ……」と崩れ落ちる。

 やってしまった、ここにきて痛恨のミスだ……私のキャンパスライフが行ってしまう……


 もはや入学は絶望的だろうと知り、三日ほど腐っていると、騎竜配達が一枚の封書を届けに来た。

 差出人はラクスティア魔法大学とある。

 不合格通知か……律儀なことだ。


 そう思って開封すると――なんと予想に反してそれは合格通知であった。

 何かの間違いではないかと六度ほど読み返したが、そこには何度見ても“合格”の二文字がある。

 それに同封されているのは入学案内だ。

 私は呆気に取られてしまった。


 どういうことだ?

 もしかすると、あの無駄だらけの魔法式を丁寧に最適化までしてしまった私の突き抜けた馬鹿正直さが買われたのだろうか?

 不名誉なことだが……しかし、うむ! これは喜ぶべきだ!


「――これで私も晴れて大学生だ!」


 私は合格通知を握りしめ、飛び跳ねて喜んだ。

 とんだラッキーパンチだが、なあに入学してから挽回すればいい!


 入学式は二ヶ月後に迫っていた。


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