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10 大賢者、機甲竜と戦う


「な、なんだありゃ!?」


「サバトの機甲竜だ! 新歓前で張り切ってまた今年もやりやがったなあいつら!」


「逃げろ! 踏みつぶされて入院でもしてみろ! 落単! 落単だぞ!」


「それだけはイヤだ! どけっ新入生! 俺はもう6回生なんだよ!!」


 学食に現れた、機械仕掛けのドラゴン。

 その登場によって場は一時騒然となり、あれだけいた学生たちがお互いを押しのけながら、悲鳴をあげて逃げ出した。

 機械仕掛けのドラゴンは、なるほどマジックアイテムのたぐいにあまり詳しくない私にも分かるほど、あからさまに暴走している。

 四肢やら首やら尻尾やらを滅茶苦茶に動かして、学食の天井と壁を削りながら、一心不乱にこちらへ向かってくるではないか。


「や、やややややばいよアーテル君っ!? ドラゴンっ! ドラゴンだよぉ!」


 機械仕掛けの竜に対し、よくできたものだな、などと感心していたらソユリに足を揺さぶられた。

 何故足なのか? そう思って振り返ると、腰を抜かしている。

 ……なんだ、ソユリはドラゴンが苦手なのか?

 心配するな、私も節足動物の類はあまり得意ではない。


「そのようだな、おかげで一気に席が空いたし列もなくなった、これですぐに注文が……ん? 受付に人がいないな……」


「当たり前だよ!? にっ逃げなきゃほら! 私たちも!!」


「こんなに広いのだから少し横に避ければ大丈夫だろう、最悪君の専門分野であるところの結界魔術で防御すればいい」


「う、嘘でしょ……?」


 なにやらソユリが絶望的な表情をしている。

 ふむ、相当なドラゴン嫌いと見える。

 そういえば大戦中、故郷をドラゴンに焼き尽くされて、それ以降爬虫類を見る度に我を忘れ、八つ裂きにして生き血を啜るようになった男がいたな。

 それならば、悪い事をしてしまった。


 さて、私は例の機械仕掛けのドラゴンに向き直る。

 見たところ、鉄の身体に詠唱式書き取り法でいくつもの魔法式を書き込んで動かしているらしい。

 きっと魔道機械の類だろう。

 しかしこの手のものは厄介で、たいていは体内に魔力を供給する核があるのだが、魔術をもってこれを傷つけてしまうと核から供給される純粋な魔力が一気に周囲へ発散――すなわち大爆発を引き起こす。

 さすがにドラゴンを模したものは初めて見たが、大戦中はこれを応用した自律兵器が、とある魔術師たちによって開発されていたのを覚えている。


 まぁそれはともかくとして、ただあのドラゴンを倒すと甚大な被害が出る。

 魔力爆発は純粋な魔力の発散、すなわち否定魔方式での打ち消しはできない。

 その爆発が起こった場合、魔術結界のある私やソユリはともかく、我が学び舎ラクスティア魔法大学の設備がことごとく破壊されてしまうのだ。

 それだけは避けなければならない。


 ならば――と、私はすぐそこまで迫った機械仕掛けの竜に、手のひらをかざした。


「お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください……私ソユリ・クレイアットは……」


 ふと、両手を合わせて何かぶつぶつと言っているソユリの姿が見えた。

 口唱法による詠唱だろうか?

 それならば私の助けなど無用かもしれないが、しかし、それもまた寂しい。

 何故なら、私は今――欲求不満なのだ。


「まずは発散される魔力に対して指向性を持たせるための魔法式を構築……」


 続いて、念のため口唱法で魔術結界を構築。

 更に、“巨人の手”と呼ばれる魔法式もまた、口唱法にて証明する。

 その他諸々、あらゆる可能性を考えて魔法式を組み、そして――完成する。


「出来上がった」


 私がそう言った直後、機械仕掛けの竜はその金属質な牙で私たちを嚙み砕こうとし、ちょうど手を伸ばせば触れられるぐらいの距離まで迫ったところで――その動きを止めた。


「……え?」


 ソユリが、固く閉じていた目を開く。

 機械仕掛けの竜は、完全にその動作を停止している。

 しかし、魔力の供給がなくなったわけでも魔法式の効果が切れたわけでもない。

 なんのひねりもない私の稚拙な魔術が至極単純にその動きを封じた、それだけである。


「そして、ふむ、これで証明完了だ」


 私はいつもやるように胸ポケットから羽ペンを取り出し、そして竜の鼻先に短い魔法式を書き込み、最後にたん、とエンドマークを打つ。

 その瞬間、竜の金属質な身体が悲鳴をあげはじめた。

 しかしそれもほんの一瞬のこと。

 機甲竜とやらは、さながら“巨人の手”によって握りつぶされるかのように、ぐしゃぐしゃと丸まっていって――最終的には人の頭部ほどの大きさの、ただの金属の塊になってしまった。


「なかなか綺麗にできたな」


 私は完全な球体となった元ドラゴンをまじまじと見つめる。

 核を潰さず、機械仕掛けの竜をこのサイズにまで圧縮したのだ。

 私が言うのもなんだが、美しい。玄関に飾りたいぐらいだ。

 ……しかし、よく見ると若干圧縮が甘いな。今度はもっと上手くやろう。


「えぇ……?」


 私の姿を見て、ソユリはなんだかよく分からない表情で、なんだかよく分からない声をあげていた。

 もしかしたら彼女も魔術の腕を振るってみたかったのかもしれないな……独り占めはさすがに大人げなかっただろうか……


 そんなことを考えていると


「あーーーーーー!!?!?」


 突然、無人の学食に声が響き渡る。

 今度は人の声だ。

 見ると、学食の出入り口からこちらを覗いて、驚愕の声をあげる一人の女性の姿が見えた。

 半分に切った果実のような帽子をかぶり、いかにも動きやすそうな服に身を包んだ、快活そうな印象の女性だ。


 彼女はすぐにこちらへ駆けつけてきて、元ドラゴンの前に膝をつき、涙を流し始めたではないか。


「ひ、ひどい……ウチのサークルで17代に渡って受け継がれてきた機甲竜が、こんな大きめの肉団子になっちゃうなんて……新歓は今日なのに……!」


 彼女はそう言いながら足元の塊を持ち上げようとしたが、それは叶わず、代わりに前へつんのめった。

 ……あのサイズのものをここまで圧縮したのだ、素手で持つことは不可能だろう。

 そう忠告しようとしたら、彼女は振り返って、きっとこちらを睨みつけてくる。


「……あなたでしょ? よく見てなかったし、どうやってやったのかは知らないけど、私たちの可愛い機甲竜をこんな姿にしたのは!」


「私、たち?」


「そうよ!」


 彼女は颯爽と立ち上がり、そして活発な見た目通り高らかに言った。


「――私は演劇サークル“サバト”の部長! 魔道具制作学科3年のシュリィ・メルスティナ! この落とし前はきっちりとってもらうわよ!」


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