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Skip!  作者: 糸瓜
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4話:今も昔も

「み、ミケを届けに……?」

「そう、ミケを届けに」



今昴はなんて言った?


「え、ちょ、それってどうゆう…」


昴は首を傾げて「聞いてなかったの?」と聞き返してきた。

聞いてなかったとは何の話だろうか。もしかして事前にそうゆう話があたしの耳に入る予定だったのか。ますますわけがわからなくなってあたしの頭が混乱した。

だって今あたしはミケが家から出てって行方不明だからこうやって夜中の夜道を探しまわっているというのに、なぜ昴がミケを?


「三日前ぐらいにさ、ミケが道端歩いてるの見つけたんだ。散歩とかしてるのかと思ったけど周りに誰もいなかったしまさか一匹で散歩するわけもないしとりあえず危なっかしいから俺が拾ったの。」


今度こそ眩暈がおこった。つまり脱走したミケをタイミングよく昴が見つけていたというわけだ。

何て言い訳しよう、あたしは冷静にそんなことを考えて目の前の昴を見た。怒ってるのかな、普通怒ってるよね、だってミケみたいな小さい子猫を家の外に出して危ない目にあわせてしまったんだから。

嫌われるかなぁ、そしたらあたしどうしよう。


「ちょうど母さんも一週間ぐらい出張で家にいないんだ。だからせっかくだしってことでしばらく家で飼ってたんだ。おばさんのとこに連絡入れたはずなんだけど聞いてないの?」

「は?母さんに?いえいえいえ、全く聞いてませんが!!つまり母さん全部知ってたってことなの?!」

「皐月知らなかったんだね」


馬鹿だねーと目の前でほわほわ笑っている昴。今この場にいない母親をどれだけ呪ったことか皐月はがくりと肩を落として大きなため息をついた。

どうりで、三日前ぐらいから母さんミケを探しにいかなくなったわけだ。あぁなんだ、そうゆうわけだったんだ。

どう謝ればいいんだろうとか、なんて顔すればいいんだとか、そんなことを思う前に口が勝手に開いた。


「昴、ごめん。あたしがしっかりミケを見てなかったから家を飛び出しちゃって…あたしのせいで」


あたしがしっかり見てなかったから


「いや、そんなことないよ。だってほらミケはまだ子猫なんだから何も知らないで勝手に家を飛び出しちゃったんだ。皐月は悪くないし仕方無いでしょこれは。」


だから罪悪感なんて感じてないで早く家に帰ろうと手を差し伸べてくれる昴にあたしは泣きたい気持ちになった。

素直に昴に手を引っ張られて道を歩く。


「本当はさぁ、皐月が俺から動物を引き受けて世話するのが嫌になったんじゃないかって思ったんだよね」

「は…?」

「皐月は何でも引き受けてくれるけど、本当は内心嫌がってるんだって、そう思ったんだ。ミケを道端で見つけた時にあぁ皐月はきっとミケを世話するのが嫌になって家の外に逃がしてしまったんだなってそう感じた。」

「そんなこと」

「うんわかってる。皐月はそんなことしないし、人一倍責任感が強いからね。」


昴は焦点の定まらない瞳で夜空にぼんやりと浮かぶ満月を眺めた。皐月も同じように満月を見つめる。


「ごめんね、俺頼りなくて。毎回毎回皐月に頼ってばっかで、役に立たなくて」


何でそんなことを言うんだろうとぼんやりと見える満月から再び視線を目の前にある昴の後頭部を向けるとちょうど昴も後ろを振り返った。

何とも言えないような表情でこちらを見てきてその瞳は少し霞んでいるように見えた。


あぁなんだかこんなこと昔あったなぁと過去の記憶がふと蘇る。






「皐月ちゃん!皐月ちゃん!」

「どぉしたの?」


それは常夏の日。太陽もてかてかと輝いていて夏の昆虫である蝉もいろいろな木にくっつき人のしゃべり声に負けず劣らず騒音で鳴いている季節。公園で幼稚園の友達と遊んでいる時だった。

困って泣きそうな様子で慌てて走り寄ってくる近所で幼馴染の昴にあたしは首を傾げた。一体何があったのだろうか。

当時昴より身長の大きかったあたしはあたしの目の前につくなり俯いてしまった昴に下から覗きこむように様子を確かめる。今にも泣きそうな顔である。


「……」

「黙ってちゃわからないよ。何があったの?」


あたしの着ていたフリルのついたキャミソールの裾を掴んで未だ押し黙ったままの昴は何か言いそうな雰囲気でもなく、一緒に遊んでいた友達がだんだん集まってきた。

周りの友達からも昴は人気で同級生だけれどまるで妹のように可愛がられているのだ。


「昴クンどーしたの?転んだの?」


隣の友達が言ったけれどまさか昴はそんなドジはしないと思っていたあたしは便乗するでもなく項垂れている頭にポンと手をおいて前後にわしゃわしゃと撫でた。

泣かないでーと言う周りの友達と同じで昴にはあまり泣いてほしくなかった。確かに昴には甘いところもあったが男の子なのだから泣くのを我慢ぐらいできなければいけないと思う気持ちもあった。


しばらくたつと昴がポツリと小さく呟くのか耳に届いた。本当に小さな声だったけれどでも聞こえた。


「帽子落とした…」

「え…?」


昴は今年、去年見たものとは違った帽子をかぶっていた。見たことのないその新しい帽子を見てどうしたのと問えばお母さんに買ってもらったのと嬉しそうにはにかむ昴を覚えている。とても気に入っていて、とても大事そうにかぶっていたのも覚えている。


「どこに落としたの?」

「……あそこの川」


昴の指出した先には公園の隣を流れる川が目に入った。そこまで大きな川でもないが子供が落ちたら簡単に流される可能性だってある川だ。小さい子には危険だからと低めの柵も立てられている。あそこに帽子を…?

どうやったら帽子を川に落とすんだろうと考えていると昴が「風に飛ばされて」と言うからあぁそうかと納得した。つまり強風に飛ばされて帽子が川の方へ飛んでいったのだ。

じゃぁもう流されているんじゃないだろうかと昴に言えばどうやら帽子は流されることなく川に倒れていた大きな枝に引っ掛かっているらしい。運が良いとゆうか悪いというか。

どうしようどうしようと涙目な昴に皐月は一息ついてから昴の両肩を掴んで真っ直ぐに昴を見た。


「よぉし、このあたしがとってきてやろう」


この場に大人がいれば絶対に怒って止めていたはずだ。このころは危ないという認識も薄く思い当たったらすぐ実行、周りのみんなもそうすればいいよと賛成してくれた。

調子にのったあたしは「じゃあ行ってくるけどすぐ終わるだろうし心配ないから皆は遊んでて」周りのみんなもはいはーいと元の場所に戻っていってしまった。昴とあたしだけが取り残されて、目の前の昴は「危ないよ」と小さく反対したが「だいじょーぶ」と押し切ってあたしは川へ向かった。

何より昴に頼られていることが嬉しかった。


問題の川について昴の帽子がどこにあるかを確かめる。


「あった!」


あれだね、と後からついてきた昴に聞けばうんと頷くのでようしと意気込んだあたしは靴を脱ぎ靴下を脱ぎ柵を越えた。「あぶないよ」昴はまだあたしに反対していた。でも帽子をとってきてくれるかもしれないという希望もあったのかそこまで強く止めたりはされなかった。

低い柵を乗り越えて川に足をつける。この川は真中に行くにつれて深くなっているが端はそこまで深くなく、むしろ浅い。帽子は幸運なことに川の端にある大きな折れた枝に引っかかっていた。大丈夫、近いからとれる。

足を滑らせないようにゆっくりと苔の生えている石が敷き詰められた地面を歩く。慎重にいかなければ滑る可能性があったからだ。


「よっしゃとった!!」


枝に引っかかっていた原因の帽子はすぐにとれた。あとは岸に上がるだけなので早足にその場を動くことにする。これを渡せば昴も落ち着くだろうと。


ぶに


「げ」


何か変なものを踏んだ感触がしてあたしは歩みを止めた。何か柔らかくてぬめりのあるもの。しかも動いているからつまりは生き物。ゆっくりと踏んだ方の足を上げて何を踏んだかたしかめるべくあたしはその感触がした位置に視線をおくった。

そこには黒いテカりのあるナメクジのような生き物がひっついていた。


――――――ヒルだ


あたしはそれを見ると一気に顔から血の気が引いた。幽霊も怖いが吸血生物も大嫌いだったのだ。自分の体からどくどくと血が吸われると思うと…あぁ気持ち悪くてしょうがない。

行動を停止したあたしに遠くから見ていた昴は疑問に思ったのか「皐月ちゃんどうしたの」とこっちに向って叫んだ。それに我に返ったあたしはうごうごと動きだす蛭を見て再び絶句。


血を吸われている!!??


「っうわぁぁぁあああ!!??」

「皐月ちゃん?!」


うわぁやばいどうしようあたしの血が吸われてるよどうしよう!ぁぁああ気持ち悪い!

あたしの叫び声に吃驚したのか何が起こったのかも知らずに昴は靴も靴下も脱ぐことを忘れて柵を飛び越え、ばしゃばしゃと水をかきわけながら川に入った。

おぼつかない足取りであたしに近寄る。


「皐月ちゃんどうしたの?!」

「ひ、ひるがぁ!!!」

「蛭?」


さらにこっちに近づこうと一歩踏み出したときだった


ずるっ


「わっ…?!」

「す、すばる?!」


今度は昴が滑った。

ばしゃんと豪快な音が聞こえて思わず目を瞑ってしまったあたしはゆっくりと目を開けるとそこには全身びしょ濡れで混乱している昴の姿が見えた。ここは浅いが今の昴は泳げないのだ。

どうやら混乱していて何が起こったのかわからずじたばたする昴を見てあたしは蛭どころではなくなった。昴が溺れている!


「昴、暴れないで落ち着いて!そこは浅いから足もちゃんと付くから!」


あたしの言った言葉も耳に入らないのかまだ水の中でばしゃばしゃと水しぶきをあげて昴は暴れている。このままでは危ないような気がしてあたしはその場から急いで昴のもとへと駆け寄った。

がっと昴の暴れる腕を掴んで引き上げる。ぷはっと水面から顔を出し息を吸ったのをみてほっと胸を撫で下ろしたあとに昴の両脇に腕を通して体を持ち上げた。自分より身長も小さかったので案外簡単に引き上げることができた。


「っはぁ、はぁ」

「もう、馬鹿!何でこっちに来たの。泳げもしないのに」

「だって、皐月ちゃんがぁ」


あれ、そう言えば蛭は?首を傾げる昴にあたしは思い出したようにあぁ!!と声を荒げた。そういえば足の裏に蛭がくっついているんだった!

ぎゃぁ血を吸われる!!!

急いで蛭のくっついた片足を持ち上げて確認するとそこには先ほどまでそこにくっついていたものがいなくなっていた。どうやらさっき水の中で走った時に衝撃でとれたらしい。

また胸を撫で下ろす皐月に昴は「皐月ちゃん」と再度溺れることがないようにがっしりとあたしを掴み返していた。それをみたあたしは苦笑して手に持っていた帽子を濡れている彼の頭に軽くかぶせる。


「帽子、ほら」

「うん…ありがとう」

「いいのいいの」


でも二人とも川の水でびしょ濡れだから早く家に帰ろうね、と素早くその川からあがって柵を越えた。

昴の手を引いてあたしが先を歩く。


「皐月ちゃん」

「ん?」

「ごめんね、僕のせいで…僕がしっかりしてないから、頼りなくて、役にも立たないし…」


馬鹿じゃないの?あたしは再び苦笑した。


「泳げないくせに助けにきてくれんだから、それでいいよ」









あぁあんなこともあったなぁと感傷に浸っていると「ねぇ聞いてる?」昴は少し不機嫌そうにあたしを見た。


「あぁごめん、ちょっと物思いにふけっておりました。」

「皐月ってたまにそうゆうことあるよね」


で、何?とあたしが聞き返せば昴は何か口ごもってその後前を向いた。

何なんだとあたしが眉を寄せていると


「だから、頼りないかもしれないけど相談ぐらいのってあげられるし、今回だってミケがいなくなって探してたんだとしたら…言ってくれれば一緒に探したのに」


げ、ばれてる

しかも拗ねてる。


少しおかしくなってあたしはふっと口元を緩めた。

今回はあたしを探して来てくれたことにすごい吃驚したけど、どうやら昴もあたしに頼ってばっかではいけないということを反省しているようだし


(別にもういっかぁ)


随分と放棄的な自分がいるわけで



「ありがと。探しに来てくれたことも、心配してくれたことも、すごい、嬉しい」



それが例え母さんに頼まれたことでも、良いんだって思えた。









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