プロローグ
「どりゃぁぁっ!!」
「わぁ皐月ちゃんすごぉい」
あれはいつの話だっただろうか。
幼馴染である水無月昴が当時この辺りのガキ大将だった男の子に絡まれいて、それを発見したあたしはすぐさま駆け寄り昴を後ろに庇った。
思わぬあたしという侵入者が現れたことに対し苛立ちを覚えたのかそのガキ大将は目を尖らせてこっちに殴りかかろうとしてきたのだ。
そして当時ガキ大将と並ぶほどにチビ暴れん坊将軍であったあたしはその手を寸ででかわし外にはじき、あろうことか背負い投げもどき。誰からも教えてもらったことがないのに何故あんなことができたのか。
多分野生のカン、とかそんなもんなんだと思う。とにかくあたしはガキ大将を地面に叩き落とすほどの男勝りな女の子だったのである。
一方昴と言えば小さくて、可愛くて、ピアノが上手で天然ボケボケな男の子だった。
初めて見る人には女の子と間違えられても仕方ないほど目がくりくりで髪がサラサラでそれはもう何とも言い難いカワイイ笑顔を見せるのだ。
ガキ大将は態度はでかいくせに心は小さいのか投げられたことで気絶し、伸びている。いや、それとも打ちどころが悪かったのか。まぁ死んではいないだろうとあたしは後ろでニコニコ笑う昴の手を引っ張りその場を去ろうとした。
彼の御守役はいつだってあたしだ。
「昴、あんたこんな奴に敵うわけないんだから絡まれたら逃げるの。わかる?」
「え?でも親切に何かくれたよ。」
「…は?何貰ったの?」
「これ」
昴の持っていた紙袋の中に入っていたのはキャンディの詰め合わせと小さなぬいぐるみ、そして手紙だ。
そのあまりにもプリティーな組み合わせにあたしはうっと行き詰まりとりあえず中に入っていたシンプルな手紙を取り出す。何が書かれているのだろう。果たし状か?それならばこっちが受けて立つけど。
貰った本人である昴の有無も関係なく勝手にベリッと手紙を破りすてて綺麗に折りたたまれた中身を抜きとる。中身は外見と違って可愛らしいものだった。ガキ大将にもこんな趣味があったのか。いや、別に否定はしないよ。趣味は人それぞれだしね、うん。
まぁ問題は中に何が書かれているか、なわけであるからして別にどんな紙に書こうが気にはしない。ただちょっと、いや、あまりにも以外すぎるだけだ。
「中、見るよ。」
「どーぞ」
封筒破っといて今更許可をとるのもなんだかとりあえず本人に許可を得る。あっさりと頷いた昴に「少しは抵抗しろよ」と思うが彼に対してそんなこと思うだけ愚かなことはわかっている。わかっているけど自分の性格上そう思ってしまうんだから仕方ないじゃないか。
綺麗に折りたたまれた紙をゆっくりと開く。紙は一枚だけだ。
「な」
中身を見た瞬間体に寒気、別名悪寒という部類のものが走ってあたしの体は見事に硬直した。いや、こんなこと過去に幾度かあったんだけどもね。やっぱり慣れないよ。
「何書いてあったの?」
覗き込んでくる昴から隠すように紙をクシャリと握りつぶしてズボンポケットに突っ込む。これは見せてはいけない、純粋な彼に見せてはいけないものだ。本能でそう察し笑って誤魔化して歩き出す。
あたしの突然の行動に不思議そうに後ろからついてくる昴は「何なのー?」と首を傾げているが教える気はさらさらない。これはすべて君のためだ。耐えるんだ昴。
まさか紙一面にピンクで大きく『好きです』って書いてあるなんて 言 え る か ! ! !
悪寒が、あぁ悪寒が。まさか彼にそんな趣味が…。少女趣味でホモか。こんな奴滅多にいないぞ。ていうかいないでほしい。
サムイボの立つ体を擦りながら歩く速度を上げるあたしに隣に駆け寄ってきた昴が腕を引っ張る。
「ねー、何だったの?教えてよ」
「ふ、大人だけが知って良いことさ」
「皐月ちゃん大人じゃないでしょ、僕と同い年でしょー?」
「うるさい精神的に大人なの」
「えー…」
無茶な言い訳をして不貞腐れた昴の頭を撫でて道を歩く。昴は単純だからそのうち忘れてくれるだろうことを祈るのみ。
先程言ったとおり、男の子からラブレターが来ることは何度かあった。別に皆そっちの趣味なわけではないと思う。多分昴と女の子と間違えているのだ。
彼のことをよく知っている人ならば男だということがわかるが、そうでない人は勘違いすることがある。そう、たとえばさっきのガキ大将みたいに間接的に昴を知っている人とか。
しかし見た目だけで男の子を惹いてしまう彼って何者。つーか昴より男の子らしいあたしって一体何だったの。
不甲斐無い文章ですがどうか気長にお付き合いくださいませ<(_ _)>