5話: 新居と懐かしい家
しばらくお茶を飲みながら、これから住むこの場所について説明を受けた。
大樹海の中心部にあるこのテーブルマウンテンは高さ2000m、頂上の広さは直径約40km、だいたい東京23区より少し広いらしい。想像しても分からないけどね。
家が建っているこの場所は中心からすこし南側に下がった所で、東から北に向かって森が広がっている。そしてこの台地の真ん中には泉があって万病に効くとか効かないとか。
そして西の端にはなんと小さな火口があるという。ほとんど火山活動はしていないけれど細いマグマの道が通っているらしくて地熱で辺りは暖かいと。
という事はですよ、ひょっとしたらひょっとするかも⁉
日本人の心と体のオアシス そう!温泉ですよ奥さん‼
絶対後で確認に行ってみようと決めた。
森の中には木の実や果物、薬草なんかも色々生えているらしい。それに動物もいるんだって。
ん?何でこんな高い場所にウサギやリス、猪までいるのか 二人も知らないそうなので、異世界ファンタジーのご都合主義って事でスルーした。
「これくらいかしらね。後は自分でおいおい調べてみれば良いわ。他には、ああそうだったわ、この家の説明をしなくちゃいけないわね」
そう言うとレイラはお茶を飲み干し立ち上がった。
「1階はこのリビングとキッチン、キッチンは現地仕様よ。この世界に慣れる為にも少しずつでも使ってみなさい。後は部屋が2つと仕事部屋、地下に貯蔵庫もあるわ。次は2階ね、付いてきなさい」
何だかレイラは楽しそうだ。結構自分でもこのロッジ気に入ってるのかも知れない。ちょっと可愛い
2階への階段をレイラの後に付いていく。またもやドレスに躓き鼻を打った
「ンギャ!」
「ああ大丈夫ですか?それでは歩き辛いでしょう」
そう言うと鼻を押さえる僕を抱き上げて階段を上がって行くレイン。
「リェインっ なにずるの⁉」
10歳くらいに見えるのにレインは軽々と僕を抱き上げた。凄い力持ち!じゃなくて、恥ずかしいから止めて欲しい。僕は鼻を打った痛みより恥ずかしさで涙目です…
「またドレスを引っかけたら危ないでしょう?大人しくしていて下さいね」
振り返って僕達を見ていたレイラはちょっと怒っているみたいな顔をしていた
「どんくさいわね!早くしなさい!」
「ご、ごめん」
僕が謝るとレインが小さな声で「羨ましいんですよフフっ」
何が⁉
「ここが2階で部屋は4つあるから好きな部屋を選ぶといいわ。奥の右側の部屋は書斎兼図書室になっていて、この世界の歴史や地図、それと植物図鑑なんかも置いてあるからしっかり勉強しなさい」
「ありがとうレイラ!地図や図鑑は助かるよ。落ち着いたら読んでみるよ。それから僕の部屋は図書室の向かいにするよ。その方が便利だしね」
「そう、じゃあ部屋へ行きましょう」
3人で部屋の中へ入った…木のベッドとタンス。小さな丸テーブルが真ん中に置いてあるだけ。
うん、それだけ。何と言うか…シンプルだね
「何ボーっとしてるのよ あんたはこの部屋で寝る訳じゃないでしょ!さあ今から異空間を開くのよ!」
はっ そうだった!僕には異空間に部屋があるんだった。懐かしのスウィートマイホーム!
「『ルーム』でも『ホーム』でも良いからキーワードを決めて唱えて見なさい」
レインに降ろして貰って、目を閉じて死ぬまで暮らしていたマンションの部屋を思い浮かべる
「『ホーム!』」
両手を前に伸ばしてキーワードを唱えた
…… ……あれ?
どうしたんだろう、空間が開かない。
もう一度やってみよう、今度は
「『ルーム!』」
やっぱり開かない
「やっぱりね。もういいわ、一度部屋を出ましょう」
「えっ⁉もう一度やらせてよ!今度こそ『ホーム』」
部屋は相変わらすシンプルなままだ
「何で?なんで開かないのさ⁉僕のトイレが!」
「いいから部屋を出なさい。大丈夫よ、ちゃんと部屋はコピーして異空間に復元してあるから。とにかく部屋を出てドアを閉めなさい」
「悠里大丈夫ですよ、一度部屋を出て落ち着きましょう」
俯いて泣きそうになっている僕の手を引いてくれるレインと部屋を出る
「いい?このドアは生前あんたが16年間暮らしていたマンションの玄関ドアよ。ドアを開ければいつもの風景が広がっているわ。思い出して強くイメージしなさい。毎日学校から帰ったらこのドアを開けていたでしょう?
大丈夫ね?さあもう一度やってみなさい!」
レイラに言われて目を閉じる
マンションのエレベーターから降りて右へ曲がって3つ目のドアが僕の家だ。
いつものようにドアを開けよう!あ、余分な事は考えちゃダメダメ!鍵はかかっていない鍵はかかっていない。
大丈夫だ。
よし!
「『ただいま‼』」