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42話 ユウリの葛藤と新たな仲間





「グスングスン」


誰からも突っ込まれずにいじけてしまったユウリは、膝の上に抱き上げたラーヴァに頭を撫でられあやされている。グジグシと泣きながらラーヴァに抱かれているユウリの顔に弾力のあるポワンポワンが当たっている。


(私ってついこの間まで男だったのにこのポワンポワンに反応しない…反応するモノも無いけど。外見に引っ張られて心も女の子になっちゃったのかな。言葉使いだって違和感無くなってるし…なんか寂しいっていうか負けた気がするよ。身体は幼女でも中身の芯は男でいたいなあ…言葉使い直すの止めようかな僕っ娘でも良いんじゃないかな…あ~このポワンポワンに雑念が湧いて来ないのがもうダメダメな気がする。ラーヴァって着痩せしてたんだな~いつか私も…違う違う!僕は僕は心までは女の子にならないぞ!ならないったらならないんだから!)


ユウリが現実逃避している間にシリウスとキリルの2人はロロの処遇について話合っていた。


「キリルは街へ行った事無いんだろう?これから1人で生きて行くのに知識を持った奴が必要だ。食事、買い物、冒険者ギルドについても何も判らないんじゃ困るだろ?俺達の事をある程度知っている奴を仲間に引き入れて知識を習得すれば良いんじゃないか?例えばこのロロとかよ」


「確かに俺には知識が足りない。だからこんな事になってしまったんだと今なら理解出来る。人間を知らない癖に人間を見下していたから俺はドラゴンになれなくなってしまった…それはもう良いんだ。あいつ…ユウリを見て、力を知ってからは見た目で判断してはいけないと思い知ったからな。それにシリウス殿の言う通り街での生活は俺の知らない事ばかりで正直に言うと少し不安だった。だからこのロロという人間が教えてくれるのならばありがたい。だが、秘密を知られてそのままにしておくべきでは無いのではないか?」


キリルは今までの自分の行動に思う所があったのか、人が変わった様に殊勝な発言をしている。


ユウリを撫でながら黙って聞いていたラーヴァの口もとが僅かに上がった。そしていつの間にか無意識だろうが自分の胸を触っているユウリに声をかけた。




「主殿、妾の胸が好きなのかえ?まだまだ幼い主殿じゃ、母の胸が恋しかろうな。じゃが今は少し皆の話を聞いてやってはくれぬかえ?後程たっぷり甘えさせてやるからの?」


「え?ええええっ⁉ちがっ違う違う!ごめんなさいっ決してイヤらしい気持ちじゃなくて!あのっこれは‼」


声をかけられるまで自分が何をしているか、自分の手が何を触っているのか判っていなかったユウリは真っ赤になって慌てて謝った。すぐに膝の上から飛び降りてシリューの後ろに隠れてしゃがみ込んだ。


(な、何をやっているんだ僕は⁉ラーヴァの胸…胸を触りまくって‼ああ~!)


「何だユウリは胸が好きなのか?やっぱりおと「ウルサイッ‼」イテッ」


後頭部を殴り付けてシリューの前に仁王立ちしたユウリは真っ赤な顔で怒りオーラがユラユラと目に見える程に立ち上っていた。


「シリュー?いったい何の話かな?ちょっと寝惚けていただけなんだからね!それだけなんだからね!わかった⁉」


「わ、わかったからそれ抑えてくれっ」


言われて一瞬判らなかったがユウリ以外みんな青ざめてフリーズしているのを見て、驚いた瞬間ソレは霧散した。


「……さすが主殿じゃの。妾がここまで押え込まれた事など何時振りじゃろうな。妾達は何とか耐えたがそこな人間の子は…」


シリウスとラーヴァはさすがだが、キリルはまだ顔を上げる事が出来ない。それほどの気を浴びたロロは…


「ッ‼ロロ‼ロロしっかりして!息は?息はあるねっ【気合い注入!】」


白目を剥いて気を失っているロロにユウリは思いきりビンタをした。


「お、おいユウリ!おま鬼畜だな!」


シリウスがドン引きしていたが、頬を叩かれたロロはパチリと目を開けた。


「あ、あれ?なんで俺…あっ!ドラゴンの群れが襲って来るって思ったら…あれ?ウワアッ」


ドラゴンの大群が襲って来る様な恐ろしく巨大な気を感じた瞬間目の前が暗くなって、次に目を覚ましたら超絶美少女が目の前で自分を覗き込んでいた。


「大丈夫?」


「あ、はいっ 何だかほっぺたがヒリヒリしますけど大丈夫です!」



ロロの言葉はスルーして、何も無かった様に平静を装いシリウスに話を聞く事にした。




「……つまり、ロロ君にキリル君のお世話を頼むって事だね?良いアイデアだと思うけど?私達は用事が済んだら帰るけどキリル君はこれから一人で街で生活するんだから協力者は必要だし、秘密を持ったまま一人で生きて行くのは結構キツいと思う。で、ロロ君はどうなの?」


シリウスから話を聞いて、ロロの意志を確認しようとしたが、ロロはポカンとしている。明らかに本人は意味が判っていない。


「ユウリ、そいつの意志は関係ない。断るなら死ぬだけだからな」


物騒な事を言い出すシリウスを睨みながらユウリはロロの意志を確認する。


「ねえロロ君、昼間会ったフェンリルがこの人だって気付いてるよね?実はラーヴァさんとキリル君はドラゴンなの。ロロ君の能力だとそこまでは判らなかったかな?でも凄く強い気配は感じてたでしょ?」


改めて言われた内容にロロは驚愕というより恐怖を感じていた。シリウスだけでなく隣に座るキリルとさっきまで女の子を抱いて笑っていた女性がドラゴンだという事は…全員人外というならば目の前の女の子は何だと言うのだ。フェンリルを殴り付け、ドラゴンに抱かれて胸をまさぐっていた幼女は?


思わず後ずさるロロを見てユウリはニッコリと笑って言った。


「私?私は普通の3歳児だよ!」



……………

……………………


「またなの⁉私変な事言った?ねえ⁉」


シリウスもキリルも目を逸らす中ラーヴァはクスクス笑いながら答えてくれた。


「ホホ 主殿が普通ならば妾達は道端の石ころじゃな。そんな顔をせずとも良いじゃろ?妾は嘘は言うておらぬ。のうロロとやら、妾達は確かに人外じゃが主殿、ユウリが人間の子であるのは間違い無い。普通かどうかは触れぬが幸い。良いな?」


微笑むラーヴァから発せられる威圧にロロはただただ首を縦に振り続けるしか無かった。




「で、ロロ君私達に協力してくれる?ラーヴァは冒険者だから街の事を知っているけれど妾達は用事が済んだら帰るの。でもキリル君はこれから街で暮らすから色々教えてくれる人がいたら安心なの。無理にとは言わないし、断っても殺すなんて酷い事しないから大丈夫。…でもちょっとだけ記憶を消させて貰うかな?【呪】を掛けて私達の事を喋らない様にしても良いけど、街で私達に会った時に怯えたりされても困るしね。ロロ君は冒険者なんでしょ?キリル君は強いから一緒に組んだらロロ君も強くなれるよ?どうかな?もちろんキリル君のお世話料はちゃんと払うよ?ね、ラーヴァ?」



ユウリはラーヴァに向かって笑いかけた。


「…主殿には敵わぬな。良かろう。キリルの面倒を見てくれるならば報酬を出すのは妾の役じゃな」




ロロはユウリに言われた事を混乱した頭で必死に考えて、協力する事にした。協力するしかないと理解していた。断っても殺さないと言ったけれど記憶を無くすのは嫌だった。フェンリルやドラゴンに出会った事、そしてユウリという名の幼女の事を忘れてしまうなんて絶対嫌だと思ったのだ。



「だが、やはり【呪】は掛けておいた方が良いと思うぞ。何かの拍子にウッカリ喋ってしまうかもしれないし、これから先何があるか判らないんだ。キリルが冒険者として注目される様になればやっかむ奴も出てくるし、ユウリの事もあるからな」


「へ?私?」


シリウスの言葉に首を傾げるユウリ。


「お前は目立つんだよっ。お前の事を探ろうとしてロロに近づくヤツだって居るかもしれないんだ。ロロに誓言させて【呪】で縛っておいた方が良い」


自分の何が目立つのか理解出来ないユウリだったが、小説に出て来たシチュにロリとか奴隷という言葉があったのを思い出して、悪寒が走った。


(フラグじゃないよね?誰も言って無いからセーフだよねっ)




誰にも話すつもりは無いが、ウッカリとかポロっととか話してしまう可能性が否定出来ず、自信も無かったロロの方から【呪】を掛けて欲しいと言われたので、お約束の【指切りげんまん】をする事にした。


『俺はシリウス様、ラーヴァ様、キリル様、そしてユウリ様の事は絶対に誰にも話しません!』


ロロが誓言した後、ユウリがロロの手をとり小指を絡ませた。


「【指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます】」


ロロが一瞬白い光に包まれて【呪】は成った。


「針千本飲ませるのか⁉なかなかキツい【呪】なのだな…」


キリルは若干引いていたが気にしない。




「じゃあロロ君改めてよろしくね!」


「はいっ あの俺の事はロロで良いです。君とか言われた事無いんで」


「あ、じゃあ私の事もユウリで良いよ。様なんて止めてね。それからシリウスの事はこれからみんなも『シリュー』って呼んでね。シリウスだと不味いらしいから。ラーヴァは私の事『主殿』呼び禁止ね」


生前人間だったシリウスは剣の達人として名を馳せていたのだが、その当時を知る長命のエルフ達がまだ存命なので隠したいらしい。容姿が16才程度になっているのだから大丈夫だとは思うが念の為だ。


ラーヴァは【深紅のラヴィ】と呼ばれ最高ランク3Sの冒険者でもあり、冒険者の間では伝説的存在なので、そのラーヴァがユウリを『主』と呼んだりしたらどうなるか…押して知るべしである。




「それであの、皆さんは街へ何しに行くんですか?」


あんな小さな街1つ落とすのに過剰戦力この上無いし、まさか攻めるつもりは無いだろうが一応聞いておかなければならない。街には母がいるのだから。


「ん?美味しい物食べに行くの!ロロ美味しいお店知ってる?私ね焼いただけのお肉は料理とは言わないと思うの!ロロもそう思わない?塩味以外の味の食べ物が欲しいの!それと甘い物!後は服屋さんと市場と道具屋さんかな。あっ冒険者ギルドにも行かないと‼」


ユウリが力説しているのをシリューは呆れた目で、ラヴィはユウリのする事全てが可愛いといった目で見ながら頷いている。キリルは…目を瞑り寝た振りをしていた。



「ア、アハハハッ」


ロロは何だか嬉しくなって笑いが止まらなくなった。ちょっと前まで死への恐怖に震えていた自分。樹海に来て良かった。足を怪我して良かった。

今はいない二人の冒険者に感謝するロロだった。


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