40話 睨めっことぺチッとな
「「………」」
一人と一頭は黙って見つめ合い動けなかった。
(な、なに?何でこんなモノが目の前にいるんだよっ⁉全然感知出来なかった!突然空中に現れて…こんな…物語の中でしか知らないぞフェンリルなんてっ!)
ロロは目の前に突然現れた白銀の狼、フェンリルに睨まれてピクリとも動けないでいた。
(ど、どうするか…まさか人間がいるとは…しかも子供じゃないか!おいユウリ‼どうするんだよっ⁉)
汗腺があればダラダラと冷や汗をかいているに違いないフェンリルであるシリウスは背中のユウリに助けを求めた。
『チッ、何やっているんだ!』
転移したらすぐに索敵をしようと意識を集中していたユウリはいきなり空中に出た勢いでシリウスの背中からずり落ちかけたところを助けたのは意外にもキリルだった。
服のリボンを掴んで持ち上げるとシーツの中へ放りこんだ。
『あ、ありがとう!びっくりした~』
『びっくりしたのはこっちじゃ!飛んでいる訳でも動いている訳でも無いのに落ちそうになるとは妾も思わなんだぞ!この中で1番見つかってはならぬのは主殿なのじゃからな!』
『ごめんなさい…索敵に集中しててつい…』
キリルに助けられラーヴァに叱られてユウリは小さな体を更に小さくして謝った。
『その努力も無意味だったな』
キリルは小バカにしたように呟いた。
『な、なによ?ちゃんと索敵したよ!人間が3人近くにいるって…』
『そうか。遅かったな。目の前に一人シリウス殿と睨み合い…ていうか体が竦んで目を逸らす事も出来ない子供がいるぞ?』
キリルはそう言ってユウリを自分の前に抱え上げてシーツの隙間からその子供の姿を見せてくれた。
『あらら…どうしよっか?』
『どうしよっか、じゃねえよ!ほんとどうするんだよユウリ…このまま突っ走るか?』
シリウスも困惑している声でユウリに問いかけてくるが、ユウリは別の事を口にした。
『ねえ、後二人いた筈なんだけど…急に反応が消えちゃったんだけどシリュー知らない?』
『………知らん』
『え~おかしいなあ、転移した時は確かに3人いたんだよね。でもって此処に降りたった瞬間に反応が2つ消えちゃ…っ…た…?って…まさか…』
『知らん』
シリウスはユウリに気付かれ無い様に後ろ足で何かを樹海へ蹴飛ばして、何も無かったかの様に目の前の子供を見つめていた。
座り込んだまま動けなかったロロは一部始終を見てしまったが、未だに指先はおろか声も出せない程固まったままだ。
『主殿、そんな事より目の前の子供はどうするのかえ?殺るのが1番良いが、このまま放っておいても同じ事じゃ。見れば足を挫いて動けない様子。何もしなくても死ぬじゃろうな』
『えええっ?やる?やるって何さ?まさか殺る⁉駄目だよ‼それに放っておくのも駄目!』
『だが主殿の姿を見られる訳にはいかんしの。樹海の中でフェンリルの背中に主殿の様な幼い子供が乗っているなど、どう言い訳するのじゃ?それに主殿は人間と余り関わってはならぬのだろう?』
ラーヴァの言う通り、フェンリルに乗った幼女なんて怪し過ぎる‼
目立ちたくないユウリにとって目の前の目撃者をどうするかなんて答は1つしかない。だからといっていきなり【殺る】は無い!それにあと2人はどうしたのか…さっきからシリウスが怪しい動きをしていたのは気付いていたのだが、まさか着地地点に2人がいてシリウスが潰してしまったとは知るよしも無い。せいぜいシリウスが後ろ足で樹海の中へ蹴り飛ばした、くらいしか想像出来なかった。
『それで、どうするか?いつまでも睨めっこしてても仕方がねえし』
シリウスと子供はさっきから視線を合わせたままだ。シリウスはともかく、子供の方は目を逸らしたくても眼球さえ自分の意思で動かせ無い様だ。
『そうだね…シリューあの子に話を聞いてみてくれる?名前とか、何故ここにいるのか、居なくなった2人とはどういう関係なのか。それと足はどうしたのか、歩けるのかを聞いてみて』
『俺がか?チッ仕方ねえな。じゃあ俺が聞くけど、お前は絶対に顔を出すな、声も出すなよ!いいな?』
シリウスは背中の3人がしっかりとシーツを被ってじっとしている事を確認して、目の前の子供に念話を送った。ちなみに今までの会話も念話であった為に子供には聞かれてはいない。
『ゴホンッ 人間の子供よ、名は何と言う?何故ここにいるのだ?』
シリウスが賢狼フェンリルらしく威厳を込めた声で質問をした。
『プッ』
こらえきれずにユウリが吹き出したのを慌ててラーヴァが後ろから抱き締めた。
「あ、あの俺はロロって言いますっ。仲間とギルドの依頼を受けて薬草と白茸を採りに来たんですけど、3日前に突然大きな声がして驚いた俺達は逃げ出したんだけど、俺は転んで足を挫いてしまって動けなくて…そしたらスコット、いや仲間が3日前の声は絶対ドラゴンの声で、ここは【竜の寝床】だからきっとドラゴンが降りて来た筈だから鱗が落ちているかもしれないって」
『そうか…。ところでその仲間とやらは…ああ良い、判った言わなくて良い』
ロロが思わずフェンリルの後ろ足辺りを見たのでシリウスは慌てて遮った。ユウリに知られたら面倒事の予感がビンビンする。
『それで…(どうするんだよユウリ?)』
(どうしようラーヴァ。ここに放っておけないよ!それに仲間の人達は何処へ行ってしまったのかな?)
(あの2人ならシリウスに蹴飛ばされて森の中じゃな。仮にも冒険者なのだから放っておけばよかろ。あの子供は足を挫いて動けない様子じゃがそれも放っておけば良い。あの子はここで命を落とす運命なのだろうからな)
(命を落とす運命って…!そんなの駄目だよ!街まで一緒に連れて行けば良いじゃない!)
(それはならぬ。死ぬ運命を主殿がねじ曲げては上つ方に睨まれてしまうのでは無いか?主殿は本来この世界に存在せぬ者じゃ。その主殿が命を助けてしまったら因果が変わってしまうのでは無いか?この事を上つ方は危惧しているのでは無いのかえ?)
(ううっ…でも見捨てるなんて出来ないよ!)
(ラーヴァよお、確かに因果律とか色々あるとは思うがそもそもこのロロって子供が足を挫いて動けないのは俺の遠吠えに驚いたからだろ?ユウリや俺が居なかったら足を痛める事も無く、無事に街まで帰れた筈だ。だからここで助ける事が本来の運命の道筋なんじゃねえのかな?)
(そ、そうだよね!シリューの言う通りだよ!あの子を助けてあげようよ!)
仲間の2人の事は気にしない事にしたユウリは目の前の子供を何とか助けようとシリューやラーヴァを説得する事に意識を集中した。薄々わかっていたのだがシリウスが踏みつけたらしい事や2人を樹海の中へ蹴り跳ばして無かった事にした事もこの際思いっきりスルーする事にしたのだ。
(それで、助けるったってどうするんだよ⁉言っておくがユウリの姿を見られるのは絶対駄目だからな!フェンリルに乗った幼女なんてあり得ないんだからな)
(う、うん。どうしよう…)
(人間の子供など放っておけば良いだろ。だが、どうしても連れて行きたいのならば眠らせてしまえば良いではないか?)
思ってもいない所から名案が出てきた。キリルである。どういった心境の変化なのか訝しく思ったが、キリルの言葉を聞いたユウリの頭上にはピカッと光る電球が現れた!…ように見えた。
(キリル凄い!頭良いね!そうだよね!シリューがあの子の頭をぺチッて叩けば気絶してくれるよね?シリューやっちゃって!)
(主殿!シリウスがぺチッとやったらグチャッとなってしまうぞ!妾が眠りの魔法をかけるゆえぺチッは止めておくれ?)
ぺチッとやったらグチャッ……冒険者達は…いや考えるのはやめよう。




