38話 人身御供とドラゴンの落し物
「さあ今日はお街へ行くぞぉ~!ニューヨークへ、じゃなかった『どっちでも』へ行きたいか~⁉」
「主殿は何をやっておるのじゃ?何かのまじないかの?」
「えっ?」
拳を突き上げたまま固まってしまったユウリは後ろを振り返った。
「ラ、ラーヴァさん!いつ来たの⁉」
「ん?今しがた来たばかりじゃが?今シリウスと【竜の寝床】へ斥候を出すか話しておったところじゃ」
「そ、そうなんだ?えっと…見てた?」
「何をじゃ?ああ、主殿が街へ行くのが楽しみではしゃいでいた姿など見てはおらぬが?ククッ可愛いのう我が主殿は!」
「もう!しっかり見てたんじゃない!ラーヴァさんのいじわる」
「良いではないか。妾も主殿と街へ行くのが楽しみであるゆえ。ちなみに主殿、街の名前は『ドッチデモ』ではない。『ドッジディーモ』じゃ」
ラーヴァは笑いながらユウリを抱き抱えてシリウスの元へ歩いて行った。
「ユウリ来たか。お前の感知能力で【竜の寝床】の付近を索敵出来るか?」
「無理。さすがに遠すぎるよ」
「そうか。どうするかな、ドラゴンの姿を見られる訳にはいかないし、冒険者達がいないか分かればいいんだが…」
「ねえねえ。そもそも何でドラゴン姿?私の【転移】で行くんだからここから人化して行けば問題無いんじゃないの?」
「「‼‼」」
シリウスとラーヴァは顔を見合わせてポンと手を叩いた。
「そうじゃった!妾はいつも【竜の寝床】まで飛んで、人化していたゆえ今日もそのつもりでおったわ。今は主殿の許しが無くば出られないのであったわ」
「俺もだ。樹海へ行くんだからフェンリルの姿でないと危険だと思い込んでいたぜ。だが、そうすると不味い事もあるな」
「不味い事?」
「そうじゃな。転移したところを見られるのはドラゴン姿を見られるより不味いかもしれないの。【転移】を使える人間はかなり珍しい、というかほとんど居ないと思うぞ。バレたら国に捕らわれ飼い殺し確定じゃ」
【転移】を使えば敵国に潜入する事も暗殺も容易に出来てしまう。だからこそ【転移】使いが現れたら強制的に国が徴用し奴隷化してしまうらしい。
「へっ?奴隷⁉嫌だよ!ん~ちょっと待って考える!」
【竜の寝床】に転移したところを見られてはいけない…私が【転移】使いだとバレなければセーフ。という事は…
「シリュー!シリューがフェンリルのままでいて!それで私とラーヴァさん、キリル君は毛布かシーツ被ってシリューの上に乗るの!そのまま転移すれば良いじゃん!万が一見られても【転移】を使ったのは幻の獣フェンリル様だよね!」
「おお!さすが主殿じゃ。たとえ見られても国から追われるのはフェンリルだけじゃな」
「ちょっと待てユウリ!俺を人身御供にするつもりか⁉」
「それでね、ポイントの少し上に出れば、下に誰かいるかすぐ分かるし踏み潰してしまう事も無いよね?」
「良いではないか。転移してすぐに索敵して近くに人間が居なければ良いのじゃ。もし居たとしても、そのまま森の中へ走り去れば問題無い。それに【竜の寝床】から街道筋まで普通に歩けば3日はかかるゆえ主殿の為にもその方が良いかもしれぬ」
「ぐっ それはそうかも知れないが…」
「ね、シリューお願い!着いたら直ぐに広範囲で索敵かけるから!安全だって分かればみんなで一緒に歩くから!」
「仕方ないか…良し判った。だが安全が確認されてもユウリは俺の背中から降りるなよ。今一自覚が無いようだから言っておくが、お前は今3歳の幼児なんだ。喋り方や態度に気を付けろ。お前はは攻撃力皆無の幼女設定なんだからな!」
「それでは出発…ってキリル君は?」
そもそも今回街へ行くのは、人間を見下しユウリを襲い誘拐したキリルの人化を固定させて人間達の中で生活させるのが目的でもある。もちろんユウリが街で美味しい物を食べたいとかお買い物したいとかゴネた結果である事が大きいが。
「キリルならあの木に繋いである。主殿の近くには寄らせはせぬから安心して欲しい。あやつも大分反省している様じゃが念のため主殿とは離しておる」
「そ、そうなんだ…。じゃあこっちへ連れてきて。固まらないと一緒に【転移】出来ないからね。あ、シーツ被らなきゃ!シリューはフェンリルさんになってね!」
「何で私がこんな事を…」
キリルがブツブツ言いながらフェンリルの背中へ乗った。1番前にキリル、ラーヴァ、ラーヴァの膝にユウリだ。キリルには【従属】の術が掛けられていて逃げ出したり歯向かう事は出来ないという。街へ着いたら解除するつもりだとラーヴァが言っていた。
全員フェンリルの背中に乗ったところで寝室から持って来たシーツを被った。フェンリルの毛が純白に近い銀色なので茶色い毛布より白いシーツの方が良いと思ったからである。
今回は残念ながらパルドはお留守番となったが次回は必ず一緒に行こうねと約束した。
サラとパルドの見送りに手を振ったユウリは目を閉じて【竜の寝床】に転移するために意識を集中する。一度行ったので容易く出来そうだ。
「じゃあね、【行ってきます】」
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「な、なあ帰ろうぜ。ヤバいって!あの恐ろしい声をお前も聞いただろ!あれは絶対ドラゴンだ!ここは【竜の寝床】なんだから、きっと俺達が入った事を怒っているんだ!なあスコット‼」
「うるせえっ だからこそここに来たんだろ!ドラゴンが舞い降りて来る場所だからお宝があるんだよ!あれから3日絶ってる。あの後一度も声を聞いてねえんだ。もう近くにゃいねえよ!それよりモートンも探せよ。ドラゴンの鱗1枚でもありゃあ酒場の借金払っても1ヶ月は遊べらあ!」
スコットと呼ばれた男は生い茂る草をかき分けてドラゴンの落し物を探している。『落し物』と言ってもウ〇〇では無い。ウろこである。樹海の中に稀にある空き地は【竜の寝床】と呼ばれ、ドラゴンの鱗や生え変わった牙が落ちている事があるという。
スコットとモートンはそのドラゴンの落し物を探しに来ていたのだ。そしてもう一人。
「あ、あの…」
「ああん?てめえも自分の回りを探せ!足を挫いたからって目ん玉はケガしてねえんだ、這いつくばってお宝を探せ!」
おずおずとスコットに声をかけた子供は怒鳴られてもまだスコットを呼ぶ。
「あのスコットさん…」
「何だよ!うるせえな!」
「あのこれ…」
そう言って子供が差し出したのは1枚の鱗。
「あ?お、おいこりゃあ!ドラゴンの鱗じゃねえか⁉」
子供から引ったくる様に奪った物はまさしくドラゴンの鱗だった。
「おいロロ!これはどこにあった⁉さっさと言え!」
ロロと呼ばれた子供は足を挫いたために寄りかかっていた大木の根元を指差した。
「どけっ‼」
「あっ」
スコットはロロを突き飛ばして大木の回りを探し始めた。モートンはそれを見ていたがそれよりも空を不安そうに見上げたり森の木立の方を目を凝らして見たりという事を繰り返していた。




