37話 美味しいご飯とこれからの心構え
間が開いて申し訳ありませんでした。
「ただいまっと」
「ユウリ様!」
【竜の寝床】より帰って来たユウリ達に、声を掛け近付いて来たのはラーヴァの屋敷にいたサラだった。
「あれサラさん?どうしたの?」
「エスカが少し体調が悪いので、私がラーヴァ様よりユウリ様に料理を作って差し上げろと言われまして…」
「ああ!そうだった!エスカさんは悪阻かな?お大事にしてくださいね。じゃあサラさんよろしくお願いしますね。えっと食材何も無いんですけど、シリューが狩って来た猪と兎ならあります!」
「充分ですよ。里から食材も持って来ましたから。ユウリ様はお嫌いな食べ物はございますか?」
「無い…というか私まだこちらの世界の料理って食べた事が無いので、何が好きで何が嫌いかも判らないんですよ。だからサラさんにお任せします!」
ずっとレンジでチンした物とサラダくらいしか食べていなかったし、シリウスは肉を焼くしか出来ないのだから、何が美味しいのかなんて知らないユウリは改めて自分の食生活を思いだし、そっと涙を拭った。
「そうですか。では月並みですが、野菜炒めとスープ、里から持って来た鳥を焼きましょうか」
「くぅ~ 聞いただけで涎が出ちゃう!まともなご飯!手作りご飯!今夜は宴だあ~!」
「おいユウリ!本当に涎出てるぞ!」
「えっ?あ!エヘヘ。じゃあサラさん中へどうぞ、【いらっしゃいサラさん】」
「く~!美味しかった!サラさんごちそうさまでした。ありがとうございました!」
「お口に合って良かったですわ。デザートはバイナのゼリー寄せです」
バイナというのは桃そっくり、というか桃だった。色が黄色くて黄桃って感じ。
「ポットにお茶がはいっていますから。それと、明日の朝用にパンを焼いておきましたから召し上がって下さい。私はこれで失礼しますが何かラーヴァ様に伝える事はございますか?」
「ああ、さっき俺達は【竜の寝床】に行って来たんだが、近くに人間の気配がした。もしかしたら野営をするつもりなのかもしれない。一応少し脅かしておいたが、3日後に転移する前に確認した方が良いかもしれないと伝えてくれ」
シリウスがサラさんに今日の事を説明しているのを聞きながら、ユウリは【竜の寝床】付近にいた人間の事を考えていた。
(第1異世界人発見!とかなるのかなあ。シリューもラーヴァさんやサラさんも人化してるけど人間じゃないしね。冒険者かあ~テンプレだよね。会ってみたいけど怖い人達だったらどうしよう。シリューが子供の気配もするって言ってたけど冒険者なのかなあ)
「そうですか。冒険者がいたとしても排除すれば良いだけだとは思いますが、今回はユウリ様がいらっしゃいますからね…。分かりました。帰ってラーヴァ様に伝えます」
「ああ頼む。万が一冒険者達が野営していた場合は何とか追い出すしかない。ユウリがいるからな、穏便に済ませたい」
「分かりました。では私はこれで失礼します」
「サラさん本当にありがとうございました!ラーヴァさんによろしく伝えて下さいね」
「ねえシリュー、もし3日後に冒険者達がいたらどうするの?さっき今回は私がいるから穏便に済ませたいって言ってたけど、私がいなかったらどうしたの?」
「まあ…普段なら排除するだろうな」
「排除って…まさか⁉」
「ああ、目ざわりならば踏み潰して終りだろうな。だが今回はお前がいるからな、脅かして遠ざけるだけにするだろう」
「そんな…ラーヴァさん達は人間を殺すの⁉」
「あのなあユウリ。ラーヴァやサラはお前の前では人化しているが、実体はドラゴンだぞ?この世界の生態系の頂点にいる者が足元をチョロチョロしている者に注意をはらうか?ユウリだって歩いている時に蟻を踏み潰しているかもしれない。蝿が飛んで来たら叩いて殺すだろう?ラーヴァ達ドラゴンにとって人間なんてその程度の存在なんだ」
「で、でもラーヴァさんは冒険者でもあるんでしょ?人間の知りあいだっているんじゃ…」
「さすがに顔見知りを踏み潰す事は無いと思うが…その辺はきっちり線引きしてるんだろうな。ユウリお前のいた世界は平和で安全な世界だった様だが、ここは違う。命が軽いんだ。この世界で生きている者達は皆知ってる事だ。命も生も死も羽の様に軽いんだ。だからユウリ、これだけは言っておく。前の世界の常識や良心は捨てろ。目の前の命を救おうと思うな。自分の命だけに執着するんだ。いいな」
「そんな事…」
それ以上ユウリは言葉にする事が出来なかった。ラノベやアニメでは主人公が奴隷の子を助けたり、魔物に襲われている人を救ったりしていた。前世では引きこもりでコミュ障の主人公がチート能力を得て人間性まで変化して、わざわざ揉め事に首を突っ込んだり、助けた人達と仲良くなったりしていた。
前世では誰かが苛められていても見て見ぬ振りしたり、不良に絡まれている人がいたら回れ右していた人間が異世界に来ると突然正義の味方になっている事に違和感は確かにあるけれど、かといって目の前で命の危機にある人がいたら本能的に助けるのではないかとも思う。
黙ってしまったユウリにシリウスは声をかけた。
「なあ、これは極端な話だが、命を救われた者が元の生活に戻ればまた命の危険があるとしたらユウリならどうする?奴隷とかはそうだな。その時救われてもまた悲惨な生活が待っている。後々まで面倒見るのか?」
「それは…出来ないけど、でも!」
「責めているんじゃないぞ?ただ、そういう優しい人間につけ込む奴もいるからな。ユウリもどこかできっちり線引きをする覚悟だけは持っておけ、という話だ。それに、もしもこの先ラーヴァや俺…俺はまあ前世が人間だからさすがに踏み潰すとか無いが、ラーヴァ達が人間を殺してもラーヴァ達を責めるなよ。あいつらは人間じゃないんだ。ドラゴンなんだからな。価値観が全く違う生き物なんだと理解しておけ。俺だって今はフェンリルの本能も持っている。好き好んで人間を殺す事は無いが、俺はユウリの護衛でもあるからな。ユウリを守る為ならば殺す事もあるだろう。ラーヴァだってユウリを守ると誓っているしな。ユウリに非難されても攻撃されたら叩き潰すしかない。それは譲れないんだ」
「う…ん。私がシリューやラーヴァさんを嫌いになったり非難する事は無いよ。私もこっちの人間と関わり合うなって言われているから…」
そう言ってはみたが、目の前の命を見捨てる事が自分には出来ないんだろうなと確信しているユウリだった。




