33話 可愛いパルドと賢いシリウス
翌朝、恐る恐るカーテンを開けて庭を見ると、そこにはもうキリルの姿は無かった。
ホッとしたユウリは朝御飯の仕度をするために異空間リビングに入った。
トーストとインスタントカップスープ。幼女体型なのでガスレンジは使えない。椅子を持ってきてフライパンで目玉焼きでも作ろうかと思ったが、フライパンが重くて持てなかった。
(はあ、いい加減食生活を何とかしないと…)
現代チートがあっても、3歳児では使いこなす事が出来ないという悲しい現実に漸く向き合おうと考えるユウリであった。
「ねえシリューは料理しないの?」
一縷の望みをかけて質問してみた。
「料理?あ~肉を焼くのは得意だな。というかそれしか出来ない」
「そうやっぱり…ねえ異空間のキッチンの使い方覚えてみない?私じゃ届かないから何も出来ないのよね」
「覚えても良いが、それは肉を上手く焼けるのか?」
「肉を焼く、から離れてよ!煮たり炒め物を作って欲しいな」
「肉を煮るのか?旨いのかそれ?」
「美味しいよ。シチューとか水炊きとかハンバーグ…あ~食べたい!せめてちゃんと調理された料理が食べたい!シリュー街へはいつ行けるの⁉」
「お前なあ…街へ行く為には解決しなきゃならない問題があるだろ?先にそっちを何とかしないと街へどころか、この家からも出られないぞ?」
「ううっシリューは意地悪だ…」
「何だ現実逃避したかったのか?諦めろ。こっちに近付いて来る気配がひとつ…ん?小さいのもいるな。ラーヴァと…誰だ?小さすぎて判らないな。とにかく、面倒事が向こうからやって来たんだ。さっさと解決して街で旨い物食おうぜ」
「んもうっ 他人事だと思って‼」
玄関を開けるとそこにはラーヴァともう一人、ユウリより少しだけ年上に見える子供が佇んでいた。
「いらっしゃいラーヴァさん、と…誰?」
「パルドじゃ。さ、ユウリ殿にご挨拶をせい」
「お、おはよござまス?パルドだ、でス」
ペコリと頭を下げた子供はユウリが里に行った時に鱗を拾って来てくれたパルドだった。
「すまぬな、今日初めて人化したので、まだ言葉が上手く出ないようじゃ」
「ううん、パルドおはよう!とっても可愛い!」
「おいおいユウリ、パルドはどう見てもお前より年上だし男だぞ。可愛い、は無いだろ」
「え?そ、そうか私よりお兄さんだったんだよね。えらそーにしてごめんなさい」
「いイ。ユウリ、パルドのあるジだかラ。パルドしんパイした。ユウリだいじょブ?」
「パルドまで……。うん大丈夫だったよ?ありがとう。さ、パルドも【いらっしゃい!】」
「それで、朝っぱらからやって来た理由を聞こうか?」
とりあえず1階のリビングで話す事にして、ラーヴァには紅茶をパルドにはりんごジュースを出してユウリとシリウスは飲みかけのコーヒーカップを持ってきて座った。
パルドはりんごジュースをひと口飲んでびっくりしている。そしてコクコクと飲み干してしまってから我に返ったようで、恥ずかしそうにユウリを見た。
「美味しかった?まだあるから大丈夫よ?」
パルドのカップにジュースを注ぎながらユウリはこっそりラーヴァとシリウスの様子をうかがった。
ラーヴァは無言でシリウスの問いに答えない。
「ねえ、パルドはどうして来たの?私に何か用だった?」
仕方無くユウリはパルドに話しかけた。多分ラーヴァは昨日の件や、これからの事について話しに来たのだろうが、そんな大事な場にパルドを連れてきた意味が判らない。
「パルドしんぱイだっタ。あいツ許さなイ。パルドはユウリ守ル」
「そっか、ありがとうね。私は大丈夫だよシリューもいるしね」
「シリュー…だれ?こいツだレ?」
パルドはさっきからユウリの隣に座る人化したシリウスをチラチラ見ていた。
「ああ隣のお兄さんはシリュー、じゃなかったシリウスだよ。パルドも会ったでしょ?一緒にいたフェンリルなんだよ」
シリウスがパルドに片手をあげてニヤリと笑うとパルドはビクッとなったが、ペコリと頭を下げた。
「シリウス、フェンリルわかっタ。強イもわかル。でモ、パルドもユウリ守りたイ」
「そうか、じゃあパルドと俺は仲間だな?よろしくなパルド!」
シリウスが大人の対応力を見せるとパルドは赤くなってコクりと頷いた。
「か、可愛いいい!」
「可愛いは止めろって!」
そんなやりとりで場が和んだ所でラーヴァが口を開いた。
「結界の件じゃが…」
「ちょっと待て。その前にアイツはどうなったんだ?捕まえたのか?夜明け前にこの庭に入って来てたぞ?」
「なんじゃと⁉キリルめ…。主殿すまん、怖い思いをさせたな。じゃが安心しておくれ、あやつは今朝方自ら戻って来たゆえ妾の屋敷の結界の中に投げ込んでおいた。近いうちに処刑する事になっておるゆえ、もう二度と主殿に迷惑を掛ける事は無い」
「処刑⁉キリルを殺すって事⁉何でそんな……!」
「当然であろ?主殿を拐い殺そうとしたのだ。幸い無事だったが万が一主殿が殺されていれば妾達はここから死ぬまで出られなかった。更に外にいるドラゴン達は里に戻れず出産も出来なければドラゴンという種が絶えてしまうところであった。あやつのした事はそれほどの大罪なのじゃ。生かしておく訳にはいかぬ」
「で、でもキリルはラーヴァさんの子供なんでしょう?そんな…」
「…妾は竜王じゃ。ドラゴンの行く末を導き守らねばならぬ」
ユウリの言葉に一瞬苦しそうな顔をしたが、はっきりと竜王としての務めを口にした。
「でもやっぱり処刑なんて!私は無事だったし他に何か…」
「だがなあユウリ、結界があるせいでキリルはここから出られない。という事はずっとアイツはこの地にいる事になるんだぞ。いつまたお前を狙うか判らないんだぞ?」
「そうだけど…でもラーヴァさんも最初はキリルを樹海にって言ってたよね!今回もそうすれば」
「なかなか残酷だなぁユウリ」
「え?」
「ドラゴンとはいえあんなガキが樹海に落とされたら1日も持たずに魔獣に八裂きにされて食われちまう。ある意味処刑より残酷だ」
「うっ!そんなつもりは…じゃあどうしたら良いの?」
「そうだな…アイツがユウリを目の敵にして憎むのはユウリが人間だからだ。そうだろ?」
「うむ。あやつは自分より弱く蟻のように群れている人間達を見下しておる。弱いくせに国を成し発展し勢力を拡げる人間を見ると踏み潰してやりたくなるらしい。だから主殿がこの地の主になり、自分よりも上位に立つ事が許せなかったのであろうな」
「そうか。ならアイツには人間になってもらおうか」
「「はっ⁉」」
ユウリとラーヴァの驚いた声にシリウスはニヤリと笑うと指を折りだした。
1つ ラーヴァは竜王としてキリルを処罰しなければならない。
2つ ユウリはキリルを殺すのは嫌だ。
3つ シリウスはキリルがこの地にいるのは安心出来ない。
「ならどうするのか?簡単だ。アイツにとって最も嫌がる事をすれば良い。つまり自分がさんざん見下してきた人間にされたらアイツにとっては最低最悪、ある意味処刑より残酷な罰じゃないか?」
「…人化を永続的に固定するのか?出来ぬ訳では無いが呪に近い術になるの…それでどうするのじゃ?」
「別に永続的でなくてもアイツの凝り固まった脳ミソが柔らかくなるまででも良いさ。人間になって街で暮らして貰うのさ。人間と親しくなって友人や仲間が出来たら許してやれば良い。そうすれば3つの懸案は解決だ」
「確かに!厳しい罰、でも殺さない、そしてここから居なくなる…スゴい!シリュー頭良いね‼」
「じゃが…少し甘いのでは無いか?あやつがそう簡単に人間と親しくなるとは思えぬが、仕出かした事と釣り合いが取れぬ」
「良いの!被害者が許せば罪は軽くなるんだよ!だからシリューの案に私は賛成です!」
「そ う、か…済まない……感謝するシリウス殿!」
「止めろよシリウス殿、なんて気色悪いわ!」
照れ臭そうに手を振るシリウスにラーヴァは立ちあがり頭を下げた。
「良かったね!これで万事解決だね」
ユウリも嬉しくなってパルドと手を繋ぎ万歳した。
「いや。お楽しみはこれからだ!」




