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30話 崖っぷちと幼女の怒り




加護の衝撃からどうにか立ち直り、レイラにお礼を言ってリビングを出たユウリは、待っていたシリウスとラーヴァの前に立った。



「ユウリ!どうなった⁉何とかなりそうなのか?」


「ユウリ殿!」


「二人とも落ち着いてよ。まあ何とかなりそうだからラーヴァさん安心して。とりあえず山の縁、境界線の崖まで行かないとね。ラーヴァさん今ここの回りに飛んでいる雌ドラゴンさんはどれくらいいるかわかる?」


「あ、ああ、妾に念話を飛ばして来たのは3頭おる。その内1頭は翼に怪我をしていてあまり長く持たないだろう…本当に何とかなるのか?あの結界は強固じゃぞ。ユウリ殿は破る事が出来ると言うのか?」


「ううん、出来ない。でも破壊しなくても何とかなりそうなヒントを貰ったからやってみるよ」



「そんなっ 破壊せず巨大なドラゴンを3頭も引き入れる事が出来るものか!いい加減な事を言うてくれるな。この期に及んでぬか喜びは笑い事で済まぬぞ」


「おいラーヴァ!勘違いするなよ、結界はユウリが張った訳じゃないし、俺らの神サマがやった事だ。異世界から来たユウリに責任も関係も無いんだぞ!それにこんなちびっこを威圧するなよ!こいつだっていろいろ考えて何とかなると言ったんだ。駄目元で賭けるしかないだろ。こいつはまだちっちゃくてこの世界に来て1ヶ月も経っていないんだぞ、過大評価してやるなよ」


「だがユウリ殿はこの山の主じゃ!幼くとも主としての責任がある!それにユウリ殿が来たから結界が張られたのじゃ。関係無い訳なかろう‼」


二人が言い争っている中ユウリはブツブツと何かを呟いている。

(…そうじゃない。この言葉じゃイメージ出来ない!あんなに大きなドラゴンを通り抜けさせるには…待って!大きさって関係あるの?…無いでしょ!よし!)





「何やってるの?さあ行くよ!」


「行くって…おいどこに行くんだよっ?」


「だから崖だよ!ドラゴンさんがいる所に行かなきゃ!」


シリウスとラーヴァは顔を見合わせて、あわててユウリを追いかけた。


「ユウリお前、場所判るのか?」


「あうっ シリュー乗せて行って!」


「待て。崖まではかなりある、妾の方が速いし雌達が飛んでいる方向もわかるゆえ、妾に乗れ!」


外へ飛び出し、瞬時にドラゴンに戻ったラーヴァに飛び乗り…いやシリウスに乗せ上げて貰ったのを確認するとラーヴァは翼を広げ飛び立った。





「あの辺りじゃ!」




森を抜け草原を越えた先には、まるで切り取ったかの様に地面が無かった。そして遥か下にはどこまでも続く大樹海が広がっていた。

初めて見る景色に圧倒されていたが、少し既視感もあった。生前テレビで見たギアナ高地。エンジェルフォールは無いが(探せば有りそうな気はするが)テーブルマウンテンや、下の樹海の風景はドキュメンタリー番組で見たギアナ高地に良く似ていた。


ここに来た理由を一瞬忘れ、景色に感動していたユウリは遠くからこちらに近づいて来る何かに気づいた。

鳥か?飛行機か?いやあれは、ドラゴンだ!


「フワアアッ!来た!来ちゃったよ!おっきいのが来たよっ!」


「落ち着け!ラーヴァが呼んだんだ。あいつらをこの中へ入れてやらなきゃならないんだぞ!わかってるなユウリ!」


シリウスの声に、そうだった!と思い出したユウリはラーヴァに降ろしてくれるように頼んだ。


「ユウリ殿……頼む。あやつらを、腹の中の卵を助けてやってくれ」


「判ってる!ラーヴァさん、翼を怪我してるドラゴンさんから通すから伝えてくれる?」


「ああ、判った!すぐにここへ呼んで構わぬか?」



「そうね、ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着けるから少しだけ待って。私が合図したら、真っ直ぐ飛び込んで来て」


ラーヴァはまだ少し不安そうだが、ユウリを信じるしか無いという事は判っていた。

ユウリは目を瞑りイメージを固めて行く。難しい事は何も無い。名前を呼んで招けば……!


「ラーヴァさん大変!私あのドラゴンさん達の名前知らないんだった!名前を知らないと出来ないよっ!」



「なに⁉はあ…本当に大丈夫なのか?いや良い。最初に来るのは『エスカ』じゃ」



「『エスカ』ね。判った!」


フーッと1つ深呼吸をしてからユウリは一歩前へ出た。そして両手を広げて名前を呼ぼうとした時に、後ろから誰かの声がした。


「母上‼」



またお前か‼


うんざりしながら振り向けば、あのキリルという少年と、その少し後ろをラーヴァの屋敷にいたサラがこっちに走って来るのが見えた。



「キリル!何故お前がここへ⁉屋敷から出てはならぬときつく言ったはずじゃ!サラ‼お前か⁉」


「申し訳ございません。ですが、此度の事は里の者達も不安を感じて降ります!それに、キリル様も里の事を心配しての行動だったのだと思います!ですから、ご自身でユウリ様のお力を確めれば良いと思いまして、ここへお連れいたしました」


「サラよ、お前もか…お前もユウリ殿を認められぬのだな?」


「いえ、私はラーヴァ様を信じておりますから」


「ならば何故ここへ来た⁉何故キリルまで連れて来たのじゃ!」


「ですから、ラーヴァ様が認めたお方の力を直にお見せした方がキリル様も納得なさるのでは無いかと…キリル様はラーヴァ様が『騙されている』と、そればかり叫んでおりましたから」


「そうか…」


「母上!母上はあの子供とフェンリルに騙されているのです!結界を張ったのもあの子供に違いありません!自作自演で母上に恩を売ろうとしているのです!」


キリルはユウリを指さし憎々し気に叫んだ。ラーヴァやサラの手前近づいて来なかったが、許しさえあればすぐにでも飛び掛かる気まんまんだ。


「キリル‼お前はまだそんな事を…!」


「うるさーい!ごちゃごちゃ言わずに黙って見てなしゃい‼今大事なのは外にいるドラゴンしゃんの事でしょ⁉時間が無いんだから喧嘩しゅるならあなた達を外に放り出しゅよ‼」


「シリューその子押えてて!」



ユウリはぶちキレていた。

卵を抱いたドラゴン達はずっと飛び続けて疲労しているだろう。翼を怪我してるエスカというドラゴンはもう限界に違いない。そんな雌ドラゴン達の事を見向きもせずに、竜のプライドなのか人間である自分を見下して邪魔をするなんて!


(許せないね。ああいう自己チュードラゴンはお仕置きだね!レイラ達に言いつけてやる!)


自分はやらないスタンスはユウリ的には基本なのです。面倒事は大人に丸投げが正しい生き方だと信じているユウリでした。





あらためて両手を広げて名前を叫んだ。


「エスカ!【いらっしゃいませ】!」

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