29話 いい加減な神様と最強なレイラ
「ここは?ユウリ殿の部屋か?ユウリ殿?シリウス?どこにいるのじゃ?」
ラーヴァが入った部屋はベッドと小さな机が有るだけの部屋。先に入ったはずのユウリとシリウスの姿は見えない。もう一度廊下に出てみたが、やはり二人は居なかった。
「どこに行ってしまったのじゃ…ユウリ殿よ、どうか我が一族を助けておくれ」
呆然としたラーヴァはベッドに腰をかけ、顔を覆って声を殺して涙を流した。
「おいユウリ、ラーヴァがいないぞ!どこ行ったんだアイツ?」
異空間リビングに入ると直ぐにユウリはパソコンを開いた。シリウスも後を付いて来てソファの上に飛び乗ったのだが、後ろにいたはずのラーヴァの姿が無い。
「やっぱりね。気にしないで想定内だから」
レインにメールするために文字を打っていきながら冷静に答えるユウリに、苛立ったシリウスはユウリの膝に前足を乗せた。
「邪魔しないでよ。急がないと雌ドラゴンさん達が卵産めなくなっちゃうでしょ!ラーヴァさんはね、弾かれたんだよ。ここには私とシリュー以外入れ無いんだよ。私の世界の物がたくさんあるからね。こっちの世界の人は入れちゃ駄目ってレイラが言ってたんだ」
「じゃあ何でラーヴァに一緒に来ても良いって言ったんだ⁉」
「だって納得しないでしょ。ラーヴァかなり焦っていたしね。目の前で私達が消えれば諦めるだろうし、少し一人にした方が良いとおもったんだよね」
「だが、ここと外では時間が違うだろう?俺達が用が済んで出て行った時ラーヴァの時間は部屋に入る時で止まったままじゃないのか?一人で冷静になる時間なんて無いだろ?」
「ああそれは大丈夫。ここにある食糧やソファとかあっちの世界の物だけ時間を止めて劣化防止して、私達の時間は外の時間とリンクするように設定し直したから、ラーヴァさんが一人で考える時間は十分あるよ」
メールを打ち終り、後はレインの返事待ちなので冷蔵庫からアップルジュースを出して来たユウリは隣に座るシリウスの毛を撫でながら言った。
「だってさ、この部屋にいる間は私の時間止まってるでしょ?ここでお昼寝して外へ出てもまだお昼寝前の時間な訳。レイラが言ってたんだけど、ここで過ごす時間が長いと、それだけ成長が遅くなるんだって!私はねシリュー、早くおっきくなりたいの!でもこのリビングも大好きなの。やっぱり懐かしいっていうか落ち着くのよね。じゃあどうする?って感じで考えたら出来ちゃった」
「出来ちゃったって…いろいろ無茶苦茶だなお前…」
シリウスが呆れながらもちょっと嬉しそうに膝に顎を乗せて来た。
「あっ来た!」
ピコンという音と共に届いたレインからのメール。
「なになに?『その結界は神様がやりました。ユウリを危険から守る為に、というのは建前で、そこで引きこもっていろ、というメッセージみたいです』はあ⁉」
ここの神様何なの?
ユウリは思わず立ち上がって叫んだ。
「馬っかじゃないの‼」
「落ち着けよ、ほらまた来たぞ」
ピコン、ピコンと何通ものメールが届いた。中には知らないアドレスもある。
「何なのよ!誰これ?」
レインからの2通目のメールには、レイラが設定しておいた転位ポイントは生きてるので、それを使えばユウリ達の生活に支障は無い筈だ、とあった。更にどうも神様はおおざっぱな性格のようで、山の縁だけ張れば良いのに面倒くさいと、天上からフタをするようにパカッとやったらしい…
次のメールはレイラからだった。
『やらかした神・サマの所に怒鳴り込みに行って来るから待っていなさい!必ず竜王に詫びを入れさせてみせるわ!」
レイラ様ご立腹の御様子です ガクブル
「……シリュー、レイラが神様の所へ殴り込みに行っちゃった…」
「はあっ⁉何やってるんだアイツは!」
頭を抱えたシリウスにユウリも溜め息をつくしかない。
最後の知らないアドレスメールを開いたユウリは思わずシリウスの耳を引っ張った!
「ち、ちょっとシリュー!来た!神様からメール来ちゃったよ‼」
「痛ててっユウリ引っ張るなよ!それで何て書いてあるんだ?」
『我ハ悪クナイ。全テハオ主シダイ。レイラヲ止メテ!』
「「…………」」
どうしようこの神様
ユウリとシリウスは顔を見合わせて溜め息をついた。
「何だか…ラーヴァが可哀想だよね。どうしたら良いのか書いてないし…レイラ待ち?」
「いや、全てはお主次第って事はユウリが何とかしなきゃ駄目なパターンじゃないのか?」
「ええ~?私が?私は結界の解き方なんて知らないよ?どうすりゃ良いのよ…」
ピコン!
『ユウリ!あんたがイメージすればドラゴン達は結界を通り抜ける事が出来るわ!結界はコイツの力だから無効化するのはあんたには無理よ。無効化するように脅し…説得するから!そして竜王に謝罪させてみせるわ!だからあんたはそっちで何とかしなさい‼』
「「…………」」
どうしようこの管理官レイラ。
ユウリとシリウスは顔を見合わせて溜め息をついた。本日2回目。
「と、とにかく!シリューは一度出てラーヴァに説明してくれる?私は少し考えてみる。私のイメージが大事ってレイラが言うし神様も私次第だって言ってたから、どうしたらドラゴンさん達が入れるかイメージしてみるから」
「わかった。じゃあ何とか出来そうなら念話で知らせてくれ」
そう言うとシリウスはリビングから出て行った。
「さて、と。私の魔力は攻撃魔法には使えないし、神様の結界は壊せない。だけど私次第で何とか出来ると…イメージねえ? 壊さずに大きなドラゴンさんを無事にこっちに入れるには?う~ん、うん無理だわ」「何が無理よっ!」
ペシッと頭を叩かれて振り向けばそこにヤツ、じゃなくてレイラがいた。
「痛いよレイラ… どうしたの?神様シバきに行ったんじゃ無いの?あんまり酷い事しちゃ駄目だよ?一応この世界の神様なんだから」
「一応って…あんたも何気にひどいわね。ええ、神サマとの話はついたわ。適当で後先考え無い結界張ったお詫びに全ての雌ドラゴンに加護を下さるそうよ。後で竜王にも謝罪するって言ってたわ」
「凄いねレイラ、神様に謝罪させちゃうなんて!ひょっとしてレイラ最強?」
「別に大した事じゃないわ。ただ、あんまりいい加減な事してユウリを困らせるなら由理の魂は渡せないって言っただけよ」
「…最強の脅し文句だね。でも、そんな事言ったら駄目だよ?僕、じゃなくて私がこの世界で生きる事を認めてくれた神様なんだからね?」
「良いのよ!それだって神様の計…いえ何でも無いわ。ところでユウリは結界をどうにか出来そうなの?」
「ううん…無理。だって神様の結界だよ?どうイメージしても破れないよ」
「はあ…あんたってバカね。何で破壊しようとするのよ?別に壊さなくてもドラゴンが結界を通り抜ける事が出来れば良いのよ。そうね…たとえばこの土地全てをユウリの家だと考えたら?」
「この家?」
「ええ。最初にシリウスが玄関で待っていたのはなぜ?」
「レイラがシリウスの事忘れていたせい」
「違うわよ!違わないけど私の言いたいのはねっ」
「あっ判った‼そうか私が招待すれば良いのよね⁉雌ドラゴンさんをこの土地に入るのを私が認めれば良いんだ!でも本当にそんな簡単な答で合ってるかな?」
「やってみれば良いわ。神サマもユウリ次第と言ってたでしょ?」
「うん、そうだね。私やってみるね!ありがとうレイラ!」
「良いのよ。これはこっち側のミスだしね。それよりユウリ、当代の竜王はどうやらユウリを認めて好意的みたいだけど、その他のドラゴンには気を付けなさい。特に力の強いドラゴンは人間を見下しているし、ここの所有者であるユウリを許さないドラゴンもいると思うのよ。だからあまりドラゴン達には関わらない方が良いと思うわ。一応神サマからも【所有者を害する事許さず】とお達しが下る筈だけどね。とにかく気を付けなさい」
…既に現場で事件は起こっていましたレイラさん。
もう少し早くその忠告聞きたかったと思うユウリであった。
「それじゃ早く試してみないとね!あ、そういえば神様がドラゴンさん達にあげる加護ってなあに?私も神様の加護なら欲しいな!」
「…あんたには必要ないと思うわ」
「何で?私もドラゴンさん達の為に頑張るから、どんな加護でも良いからレイラお願いしてよ」
「【……】よ」「え?」
「だから、【安産】の加護よっ!」




