28話 戸惑う幼女と焦る竜王
「ん、んん~」
「目が覚めたか?大丈夫か?どこか痛い所は無いか?」
気が付くとユウリはベッドに寝かされていて、ベッドの横にはシリウスが前足をベッドの上に乗せユウリの顔を伺っていた。
「ここは?」
「ああ、お前の部屋だ。キリルに落とされて地面に叩き付けられるギリギリで俺の背中に乗せたんだが、その後気を失ったんだ。葉っぱや枝で傷ついた箇所は何とか治したが2ヶ所程深い傷があって、それは俺には無理だったんだ。すまん痕が残るかもしれない。痛みはどうだ?筋肉痛とかは寝てれば治るだろうから、暫くは大人しく寝ていろ」
落ちた時の傷よりシリウスが森を暴走した時についた傷の方が酷いと思う。走る勢いで枝がグサッて左手に刺さったのは覚えているが言わない事にした。
「ありがとうシリュー、後は自分で治せると思うから心配しないで。それよりもあの子は?ラーヴァさんが飛んでいた気がするけど…あれからどうなったの?あの子キリル君だっけ?樹海に行ったの?」
「いや、ラーヴァが崖の手前で捕まえてボコボコにしたらしい。俺は気を失ったユウリを家に運ぶ為に直ぐに場を離れたからな、後の事はラーヴァに聞いてみれば良い」
「そうなんだ。まあ樹海に行かなくて良かったよね。で、ラーヴァさんは?」
ラーヴァさんの性格なら絶対に、「謝罪する」「看病は妾が」とか言って私の側に居そうなんだけど。
「ああ、ラー婆なら外にいる。俺がユウリを家に連れ帰って暫くしたら来たんだが……」
「ん?来たのにどうして外に居るの?シリュー意地悪しないで入れてあげてよ」
「違うわ!この家はユウリの許可が無いと入れない魔法がかかっているだろう?だから玄関前でずっと立ってるぜ」
この家はレイラが建ててくれたのだが、ユウリの許可が無い者は誰も入る事は出来ない。それがたとえ最強と言われる竜王であってもだ。万が一、竜王が敵意を持って家を攻撃したとしても、地震に強い〇〇〇ホームじゃないが無キズであろう。つまり最強の要塞。引きこもっていれば安心安全!コレ大事!
「ちょっとシリュー!早く言ってよっ!い、イタタッ」
あわててラーヴァを迎い入れる為にベッドから起き上がったユウリは、全身の筋肉痛に悲鳴をあげた
「おいっ大丈夫か?ここから許可出せないのか?」
「うん、初めての人は私が玄関で、いらっしゃいって言わないと駄目っぽい」
「ぽいって何だ、ぽいって?」
「判んないけど頭の中のイメージがそうなってるんだもん!だから早く玄関に行かなきゃ!シリュー連れて行ってよお願い!」
シリウスに乗せてもらって玄関にたどり着き、急いでドアを開けるとそこには綺麗に纏め上げられていた髪がほつれ、真っ赤なアオザイ風の着物の裾は土と草の汁で汚れていた。顔だけは不敵で妖艶ないつものラーヴァだったが心無しか疲れているように見えた。
「ラーヴァさん!お待たせしてしまってごめんなさいっ!さあ早く入って下さい」
「…良いのか?」
「もちろんですよ!何言ってるんですか?今すぐに暖かいお茶を淹れますから」
「此度は申し訳無かった。何と詫びれば良いのか判らぬ。妾に出来る事は何でもする。だから我らドラゴンを許してくれまいか?どうか里を、ドラゴンを滅ぼすのは堪忍して欲しい!」
異空間から紅茶を出してテーブルに…届かなかったのでラーヴァが運んでくれたのだが、椅子に座ろうとせずにその場に跪まづいて頭を下げた。
「は?滅ぼす?私がドラゴンを⁉そんなムリムリムリ!だいたい何故私がそんな事しなくちゃいけないの?」
もうラーヴァさんが何を言ってるのか理解不能。3歳児の私がドラゴンを滅ぼすとか、あり得ないでしょう‼
「あ~ユウリ、ラーヴァが言ってるのは力技でドラゴンを滅ぼすという意味じゃない。ユウリが何もしなくてもこのままだとドラゴンは滅んじまうんだ」
「…どゆこと?」
ラーヴァもシリウスも何を言ってるのか判らず、ユウリはコテンと首を傾げた。
「頼むユウリ!いやユウリ殿!これは妾の逆鱗じゃ。それからこれは先代竜王の角から造った【竜殺の炎角剣】じゃ。これで妾を殺して【竜玉】を受け取ってくれ。他に望む物があれば何としても用意する。あの愚かな子の命が欲しければ直ぐに殺って来よう!じゃから頼む!結界を解いてくれっ‼」
そう言うと髪に刺した紅玉の簪を外し玉の部分に触れると、簪は形を変え、一振りの剣になった。ユウリの身長程もある片刃の剣、片刃だから刀と言うのか。地金は黒く刃紋から先は禍々しい程に紅い。変な比喩だが、今にも刀身から水が滴り落ちそうに艶やかに濡れている。その刀の横に1枚の深紅の鱗を置いた。それがラーヴァの逆鱗なのだろう。紅いのに真珠の様な不思議な輝きを放っている。
「おいっ!その逆鱗はまさかラーヴァ生身から剥がしたのか⁉」
「ああ、逆鱗を剥がした所をその剣で切ってくれ。さすれば容易く竜玉が取れるゆえにユウリ殿でも出来よう」
「バカ野郎!逆鱗剥がしたら弱点丸見えじゃねえか!竜王がそんな事してどうすんだよっ それにその剣は幻の竜殺剣か⁉お前本気か?」
「竜王だからこそじゃ。里を、同族を守るのは妾の努めゆえな」
二人が言い争っているがユウリにしたら何が何だかどうしてこうなっているのか全く意味不明で置いてきぼり感が半端無い。
「ねえ、いったいどういう事?判るように説明してよっ!」
「ああ、すまん。実は…」
「いや妾から話そう。そうだな…ユウリ殿はこのテーブルマウンテンに結界、シールドと言った方が良いか、頂上のこの土地を囲むようにシールドが張られているのを知っておるか?」
「シールド?ううん知らないけど、それって一番端っこの崖から獣が落ちないように張って有るんじゃないの?」
「うむ。用途としてはそうじゃろうな。だが今までは無かったのじゃ獣達は本能で近づかないようにしていたのだろうし、妾達は火山の麓に里が有るゆえ幼いドラゴンが森を抜けて崖まで行く事は不可能、パルドでは少しキツいがキリルくらいなら落ちても怪我くらいで済むじゃろう。だから今まではシールドなど必要無かったのじゃ」
標高2000~3000程もある所から落ちても怪我で済むとか、さすがドラゴンと言えば良いのか?翼があるから何とかなるのかな?それにしてもねえ…
「どうやらシールドが張られたのは俺たちがここに来てかららしいぜ」
「え、そうなの?じゃあレイラかレインが私を心配して張ってくれたのかな?それともこの世界の神様が張ったのかなあ。ここでじっとしてろって意味でさハハッ無いかな?」
「なるほど。ユウリ殿が張ったのでは無いのじゃな?では、そのレイン、レイラとか言うお人はどの様な御仁かな?」
「えっと…言って良いのかなシリュー?」
「ああ、ラーヴァその二人は俺たちをここに転生させた…神様の代理人と言うか、ぶっちゃけると魂の管理者だ。全ての魂の輪廻転生を管理しているんだ」
「ち、ちょっとシリュー!そんなにぶっちゃけて良いの⁉」
「かまわないさ。竜王であるラーヴァやまだ会った事は無いが精霊王には神サンの方から俺たちの事を通達済みらしいからな。神サンがぶっちゃけてるんだから今さらだ」
「そ、そんなもんなの?何か軽い…」
「ああ、そんなもんさ」
「そ、それでユウリ殿はその魂の管理者という御方と話が出来るのであろうか⁉」
「う、うん。レインには連絡できると思うけど?」
ラーヴァの勢いに押されながらもユウリは答えた。何故ラーヴァが両手を胸の前で合わせてせっぱ詰まった声でユウリに尋ねて来たのか判らないユウリは無意識にシリウスのモフモフの毛に手を伸ばした。
何か不味い事が起きてる?何なの?どうしてラーヴァさんはこんなに必死なの?
「ユウリ、ラーヴァ達ドラゴンはあの火山の麓で卵を産むと言っただろう?だが、今シールドが張られているせいで産卵の為に帰って来る雌ドラゴンが里に入れ無いんだ…既に何匹かこの山の回りを飛んでいるらしいが、このままだと危険な樹海で卵を産むしか無くなる。それでラーヴァは何とかシールドを解いて貰いたくてユウリに会いに来たんだ」
「頼む!シールドを解いてくれる様、ユウリから頼んで貰えないか‼」
「はっ?あ~もう何でもっと早く簡潔に言わないんですか⁉判りました!直ぐにレインに連絡取りますからラーヴァさんはここにいて下さい。シリュー!急いで部屋に連れて行って‼」
「待ってくれ!妾も、妾も行っては駄目か?竜王としてレイン殿に直接会って頼みたいのじゃ!頼む!」
「それはえっと…ああもう!ラーヴァさんも一緒に来て!」
2階の部屋の前まで来たユウリは急いでドアを開けた。
「ただいま‼」




