26話 親子喧嘩と誘拐事件
少年が怒っている原因を全てすっぱり神様とラーヴァに丸投げしたユウリはエグエグと泣き続け、涙を拭う手の隙間から少年を盗み見た。
案の定、ユウリが責任転嫁した相手が自分よりも上位の存在であるため動揺しているようだが、泣いている3歳児をこれ以上責める事はしなかった。
「ヒック、シリューどうじであのお兄ちゃんはユウリを苛めりゅの?ねえラーヴァしゃん、ユウリはここにいだらいげないの?ヒック」
少年が戸惑いながらもユウリを責めるのを中断したのと裏腹に、ユウリは攻撃の手を緩める事はしない。シリウスにしがみついて顔だけをラーヴァに向けてウルウルと見つめる。
「お前…あざといなあ。小さくても女は女か…怖ええ」
「うっさい!黙ってて!」
小声でシリウスと会話しながらチラチラとラーヴァと少年を観察するユウリ。
いい加減、放置はやめてあげて。ラーヴァが動かないと収まらないんだよっ
ほら、少年がいたたまれ無くて顔が赤くなってきたよ!
目で訴えていたユウリをじっと見つめていたラーヴァだったが、おもむろに少年に近づくと…きれいな後ろ回し蹴りをかましたのでありました⁉
ナニシテルノサ…
「グッ!な、何をするのですかっ⁉」
「何を、じゃと?己れが何を仕出かしたのかも判らないのかえ?だいたい何じゃその姿は?」
「あ、あの!」
それまで扉の所でオロオロと立っていたサラが口を挟んだ。
「何じゃ?そなたは黙っておれ」
「いえ!お客人に挨拶をしたいと仰るので、私がキリル様に石をお渡し致しました。ラーヴァ様のお許しを得ぬまま勝手を致しました。申し訳ございません!」
「…で?サラから石を取り上げ人化してここへ来たお前はいったい何をしたかったのじゃ?」
「それは…それはそこにいる人間の子供がっ!人間ごときがこの聖なる土地の所有者になるというのは本当なのですか母上っ⁉」
母上え~⁉
なんかそうじゃないかな~とは思ったけれど、我が子に回し蹴りかまして踏みつけるかなぁ…ラーヴァさんパないわ。いや竜の親子ってこれが普通?まさかね…
蹴られて倒れたところを踏みつけられているにも関わらず、ユウリを指さしながら訴えていた。
「そうじゃ。このユウリ殿がこの土地の所有者、地主殿であり、妾の主よ」
「「はあっ⁉」」
期せずしてユウリと少年の声が揃った。
「ちょっ、ちょっと待ってラーヴァさん!所有者とか地主とかは判るけどラーヴァさんの主って何なの⁉」
「そうです!何故母上がっ このような人間の子供を主と言うのですか⁉この世界で最強のドラゴンの王、炎竜王が何故⁉」
「ふふふ それはの妾がユウリに惚れたからじゃ!」
「なっ!」「…はあ?」「まったく…」
ラーヴァ以外の三者三様の反応に可笑しそうに笑うラーヴァ。
「お前なあ、ここはふざける場面じゃねえだろ?見ろよお前の足もとの小僧を。驚きと怒りで今にも人化が解けそうだぜ?」
ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうなほど噛み締めた歯が徐々に鋭く尖っていく。
「愚かな事よの」
そう言うと少年を踏みつけている足をグリグリとえぐる様に力を込めた。
「グウッ は、母…うえ 何を…」
「キリルよ、ユウリがどの様な立場なのか今はどうでも良い。妾が怒っておるのは妾の顔にお前が泥を塗ってくれたからよ。わかるか?」
「な、何の事ですか?私は母上に何も…」
「わからぬか…のうキリルよ、妾は誰じゃ?」
「は?母上は我らドラゴンの王、炎竜王でございます!」
「そうじゃ。妾は炎竜王。その炎竜王が自ら招いた客に貴様は何をした?この屋敷は炎竜王の屋敷。許可無き者は入れぬ屋敷。貴様は誰の許可を得てここにいるのじゃ?」
「そ、それは…しかし私は竜王の子ですっ 母上の屋敷に入るのに許可などっ!それに、息子だからこそ母上の為を思い、この人間に厳罰を!」
「黙れっ‼竜王たる妾が招いた客に無礼を働く事は妾に無礼を働く事と同義じゃ!ユウリが人間だからと、子供だからと、侮りおって!上つ方から認められた事に異議を唱えるなどと貴様は何様じゃ!」
ラーヴァの怒りのボルテージがどんどん上がっていき、全身から赤いオーラが立ち上っていた。
「し、しかし私は竜王の息子としてっ このような人間の子供にこの土地を治めさせるなど到底許せる訳がっ‼」
「戯言を抜かすな!貴様は確かに妾の子じゃが、ラーヴァの子であるだけじゃ、竜王の子ではない!竜王は血筋で継ぐ物では無いのじゃっ!妾の他は皆同じ立場なのだと何度言えば判るのじゃ?」
そう言ったラーヴァは疲れたように溜め息をついた。
「以前からお前が竜王の息子だからと好き勝手をしているのは知っておったが、ここまで愚かだとは…」
「母上‼」
「キリルよ、竜王は血ではなれぬ。力だけでもなれぬ。智が無ければただの暴君よ。キリル貴様に智はあるか?神より認められた土地の所有者と炎竜王の親睦の場に押し入った貴様に智はあるか?」
「ぐっ…」
「炎竜王たる妾に恥をかかせおって…今この時に親だの子だのは何の言い訳にもならぬわ。 ユウリ殿愚息が申し訳無かった。この通りじゃ」
ラーヴァはその場に両膝をつき両手を胸の前で交差し頭を下げた。
「母上⁉」
「ら、ラーヴァさん⁉ やめて下さいっ 私気にしてませんから!」
あわててユウリはラーヴァのもとに走り寄り抱きついた。丸投げした結果ユウリこそがラーヴァに恥をかかせた張本人だ。良い気味だと内心キリルを笑っていたユウリは真っ青だ。
「母上⁉何故母上がそこまでするのですかっ竜王が膝を折るなどという事はあってはならない事です!」
ユウリに抱きつかれたままラーヴァは頭を上げる事無く固まったままだ。しかし胸で交差した両手はいつの間にかきつく握りしめられていた。
ラーヴァに踏まれ、倒れていたキリルは立ち上がるとラーヴァに抱きついているユウリを引き離そうと手を伸ばした。
「いい加減に、しろっ‼」
シリウスがキリルに飛び掛かり、前足でキリルの肩を押さえつけた。
「まだ判らないのかっ 竜王がお前の言う汚らわしい人間に頭を下げているのは何故だ?誰のせいでラーヴァは人間に膝をついていると思っているっ⁉」
「良いのじゃシリウスよ。ユウリに竜の里を見せたいと、ここにいるドラゴン達と仲良うしてくれれば良いと招いたのじゃが…嫌な思いをさせてしもうた。妾の不徳よ。こやつは下界へ降ろす。この里には置いておけぬ。どうかそれで許して欲しい」
「なっ!母上‼私を下界へ、樹海へ降りろと言うのですか⁉私はまだ成体になっていません!今降りたら私は!」
「成体になってもいない奴が竜王に恥をかかせたのかえ?妾に恥をかかせたのじゃ、まさか今まで通り里にいられるとは思うておるまい?」
ゆらりと立ち上がったラーヴァは冷たく笑っていた。
「母上…」
「ラーヴァ様‼どうかお許しを!元はと言えば私がキリル様に石を渡してしまったからでございますっ お屋敷の門の前にいたキリル様を中に入れてしまった私が悪いのでございます!どうか責めはこのサラに!キリル様を下界に降ろすなどと恐ろしい事はお考え直してくださいませっ 」
サラさんがラーヴァの前に膝まづき懇願するがラーヴァは冷たく見下ろすだけだ。
「ねえシリュー下界って樹海の事?そこへ降りたらどうなるの?」
小さな声でこそっとシリウスに聞いてみると、成体のドラゴンならば危険は無い、むしろドラゴンが災厄となる。だが、子供のドラゴンが樹海で生きて行くのは難しい。ドラゴンといえども成体になっていない子供なら簡単に殺されてしまうだろう。それほどに樹海の魔物は強い。奥へ行けば行く程強い魔物が多くなる。このテーブルマウンテンは樹海の最奥、樹海の中心部にあるのだから、真下にはどれだけ強い魔物がいるのかシリウスでも判らないらしい。
そんな話をこそこそと話していると、シリウスに押さえつけられていたキリルがシリウスを突き飛ばし立ち上がった。
「母上!母上は私よりも、我が子である私よりもこの人間の子供が大事と仰るか‼」
「さっきからそう言っておるが?」
いやいや、それを言ったら駄目ですよラーヴァさん!このお年頃の男の子は普段は母親なんてって態度だけど基本的にマザコンで自分が一番でないと許せないんだから…僕だって生きてた頃は双子の由理ばっかり大事にされてるのを毎日見ていて寂しかったんだから…
「…わかりました。ならば母上の仰る通りに下界へ参ります。だが、一人では降りません!諸悪の根源であるこの小娘も一緒に連れて行きます!それが私の務め!すべてのドラゴンの為に‼」
そう叫ぶとキリルはユウリを小脇に抱えると廊下に走り出した。
「なっ!」「おいっ!」「ンギャアアアアッ⁉」
ね、だから言ったでしょ⁉このお年頃の男の子は追い詰めちゃダメなんだってばああ!
グラングランと頭が揺れる中、ラーヴァを怒鳴りたくなったユウリ。
シリュー!あんた私の護衛じゃなかったの⁉
伝説のフェンリルなんて嘘っぱちだったのね!
やっぱ駄犬よ、駄犬!ラーヴァさんに躾直してもらうんだからねえええ‼
どうしてこうなった…?
ユニーク3000越えました。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




