24話 竜の屋敷と変化の石
ラーヴァにからかわれたり、父親の鱗を再びくわえて走って来たパルドから3枚の鱗を貰ってホクホク顔のユウリ。
「なあユウリ…お前顔が変だぞ」
シリウスの背中から降りて今はパルドと共に歩いているユウリは、道の脇の岩の陰や枯れ草の固まりをじっと目を凝らして見ていた。時々横をトテトテと歩くパルドと何か話している。
「ふんふん、牙はあまり落ちて無いのね?え?小さいのなら落ちているって?ああ乳歯って事かな?ドラゴンも歯が生え変わるのかな」
「なあ、なあユウリ、おいっユウリ!」
「えっ?ああシリューなあに?私今忙しいんだけど」
「何が忙しいだっ!そんなに目をギラギラさせやがって『欲に目が眩む』ってヤツを初めてリアルに見たわ!みっともないからそんなにがっつくなよ」
「なっ、何を言っているのかな?別に私は牙とか爪とか探している訳じゃないわよっ。ただ…そうよ、ただ勿体ないなあって考えてイタダケダヨッ」
「ふ~ん?なら危ないからよそ見をするなよ?さっきから何度も躓いているじゃないか。ほらっ後ろを振り返るな!」
言われた側から危うく転びそうになるユウリをパルドが後ろからくわえて助けていた。
「あ、ありがとうパルド」
「キュッ」
「ほほっ その辺に落ちている物は妾達にはゴミじゃ。ユウリにはもっと良い物を渡すゆえ、今からそんなに拾わなくても良いわえ」
ラーヴァにまで言われてユウリの顔は赤くなった。さっき転んだ拍子に見つけた小さな牙をポケットに入れたのを見られていた様だった。
「それはそうとユウリ、さっきからその小さいドラゴンと話しているみたいだが、何言っているのか分かるのか?」
「ああ、うん。鱗を貰った時にね、パルドと話が出来たら良いのに、って思ったら出来ちゃった」
「出来ちゃった、ってお前なあ…」
「さすが地主殿、という事かの。この土地を治めるに相応しい能力持ちじゃの」
やがて前方に巨大な岩が見えてきた。武道館ほどもある巨岩の下の方に、修学旅行で行った京都や奈良のお寺で見た事がある様な朱色の門が現れた。
門の前まで来たユウリは、上を見上げてポカーンと口を開けたままフリーズした。
朱色の大きな門はまさしく東大寺の赤門とそっくりだった。朱色の柱に朱色の瓦が葺かれていて、異世界にいるのを忘れてしまいそうだ。更に驚いたのは門の後ろの巨岩だ。
ラーヴァが門の前に立つと自動で門扉が開き、そこには巨岩にぽっかりと開いた穴があった。
「ここいらは火山の影響で暑くての。竜の姿であれば心地良いものじゃが、人の姿ではちと暑いでの。岩の中なら涼しかろうと掘ったのじゃ。さあ中へ入ろうぞ。ユウリも喉が乾いたであろ。冷たい飲み物を用意させよう」
さらっととんでも無い事を言ったラーヴァに手を引かれてユウリは大きく口を開けた洞窟に入って行こうとしたが、何故かパルドが着いて来ない。振り向いて手招きしてもパルドは門の前から動かない。
「どうしたのパルド?一緒にいこ?」
「キュッキュキュッ」
パルドは首を振って動こうとしない。
「ここから先はドラゴン達は入って来ない。まあ、入って来ようとしても大きさ的に無理だがな」
「でもパルドは小さいから入れるでしょ?」
「だがパルドは入ろうとはしないであろ?妾はこれでも一応竜王なのだよユウリ。王の屋敷に普通の子供が入るかえ?例え妾が許可してもパルドは入る事はあるまい。何故か分かるか?」
ぶんぶんと首を振ってラーヴァを見上げた。
「それはな、分というものをパルドは判っているからじゃ。ユウリの前世では王侯貴族の屋敷に気軽に入れるのかえ?違うであろ?妾は別に気にはしないが里の者が気にするでな。妾達と一緒にここまで来ただけでもパルドは里の者に羨まれたり、あるいは責められるかもしれぬ。それでもパルドはユウリと共にいたくて歩いて来たのじゃ。だからな、もう里へ帰しておやり」
「そんなっ⁉じゃあパルドは里へ帰ったら苛められちゃうの⁉」
「キュキュッ キュー!」
「本当に大丈夫?パルドはそんなに強いんだ⁉」
「キュッ!」
心配するユウリにパルドは頭を反らして胸を張った。どうやらパルドは里の子供達には負けないらしい。
「ほほ この子の父親は里の中でも一目置かれている。なあパルドよ、お前も強かろう?」
「キュキュッ!」
「そっか。じゃあ一度ここでお別れだね。また明日里に行くから一緒にカネ…じゃなかった、貴重な鱗や牙を探そうね!」
「キュッ!」
一声鳴くとパルドは今来た道をトテトテと走って行った。
「ねえラーヴァ、ドラゴンにも身分とかあるの?」
「そうさの…妾達は力が物を言う種族じゃからの、人間達程は身分とか関係無いが古い血を持つ者には敬意を祓う。じゃが、基本的に妾達は群れないのでな上の者に会う事も下の者に会う事もそうは無いのじゃ。この里は産卵と、ある程度まで子竜が成長するまでの里ゆえ成体は母竜だけじゃな。それゆえ尚更妾の存在が突出しておるのじゃよ」
「そうなんだ。明日またパルドに会っても良い?」
自分が竜王ラーヴァの招きで来た客なのだと理解したユウリは、パルドに会わない方が良いのか一瞬悩んだが、とにかくラーヴァに聞いてみた。
「良いとも。但し明日はパルドだけでは済まないと思うがのクククッ 人気者じゃなユウリは」
ラーヴァが何を言っているのか理解出来なかったけれど、とりあえずパルドと会っても良いというのが判ってホッとした。
パルドが帰って行った道の先に何匹かの竜の気配がしているのをラーヴァとシリウスだけが気付いていた。
「はあ…明日も面倒事がありそうだな…」
シリウスの独り言に気付く事もなくユウリはラーヴァと洞窟の中に入って行った。
「お帰りなさいませラーヴァ様」
洞窟に入るとそこは和風旅館の様な佇まいがあり、部屋の前に立っていた女性がラーヴァに頭をさげた。
「うむ、こちらは此度この土地の所有者になられたユウリ殿とぺ、護衛でフェンリルのシリウス殿じゃ。妾がお招きした大切なお客人ゆえ、粗相の無いように」
「かしこまりました。では先ずは冷たいお飲み物をお持ちいたしましょう。こちらのお部屋でお寛ぎ下さいませ」
そう言って女性は部屋の扉を開けユウリ達を部屋の中に案内した。
磨き抜かれた濃茶の木の床に藤の椅子。金糸銀糸で刺繍された緋色のクッションがあちこちに置かれていた。
壁には簾がかかり、正面には床の間まであって大輪の花が活けられていた。
「ふわああ!素敵なお部屋だねえシリュー!シリュー?」
ユウリが何となく懐かしい思いに駆られて感動している間に、シリウスはさっさと高そうな緋色のクッションを集めてその上で寛いでいた。
「し、シリュー何してるの⁉そんな綺麗で高そうなクッションの上に乗ったりしちゃ駄目だよっ」
「いえ、この部屋の物はご自由にお使いになられて結構でございます。申し遅れましたが私はサラと申します。この屋敷の管理を委されている者でございます。どうぞよろしくお願いいたします」
「あっ、私はユウリです!そこにいるフェンリルがシリュー、じゃなかった、シリウスです。こちらこそよろしくお願いしましゅ!」
噛んだ!やっと普通に話せる様になって来たのに!
赤くなった顔を見られたくなくて俯いてしまったユウリに柔らかな笑みを向けたサラは静かに部屋を出て行った。
「はあぁ緊張しちゃったよお。ねえシリュー、あのサラさんもドラゴンなの?」
「ああ、気配は確かにドラゴンなんだが人化出来る程の力は感じなかったな。完璧に人化出来るのはラー婆くらいだと思っていたんだが…」
「ラーヴァじゃ!この駄犬は躾が足りん様じゃな。後で躾直してくれよう」
部屋に入って来たラーヴァに踏まれているシリウスだったが、人化の疑問をラーヴァに聞く事にした様で、踏まれたまま口を開いた。
「なあ、あのサラって女もドラゴンなんだろ?大した力も無さそうなのに何故人化出来るんだ?」
「なに簡単な話よ。【変化の石】を使っておるのよ」
「魔法石か‼だ、だが【変化の石】は素材が秘匿され、最高位の魔導師だけが作成可能だと言われるくらい難易度が高い代物だと記憶しているが良く手に入ったな?」
ユウリにはちんぷんかんぷんな話だが、要するにアイテムを使って人の姿になっているという事らしいが、シリウスの興奮具合から相当レアアイテムなんだろう、という事は分かった。
「クク お主はその素材が何か知っておるかえ?」
「いや知らん。魔導院が厳重に秘匿している物なんだぜ。俺なんかが知るわけ無いだろう?」
「剣聖とまで言われたお主も知らなんだか。確かに素材を集めるのは人の身には 難しかろうな。じゃが、妾達ドラゴンであれば道ばたの小石を拾うのと同じくらい簡単な事」
「おいおいまさか⁉」
「クククそうじゃ。【変化の石】の素材は竜の鱗でな。まあ普通の鱗と違い、逆鱗が素材なのじゃが見た通りそこらに落ちておるゆえな、【変化の石】を作るのは造作も無い事じゃ」
「マジかよ…」
「そうじゃ、お主も今は自力で人化が出来ないのであったな。欲しければ明日にでも逆鱗を拾って来れば作ってやっても良いが?」
「ほんとか⁉よし!ユウリ明日は宝探しだ!逆鱗拾って人化するぞっ‼」
「お、おお~⁉」
シリウスの勢いに押され、若干引き気味になりながらも拳を上げたユウリであった。
「これ駄犬よ。ユウリを付き合わせるでないわ。ユウリは妾と一緒に里へ行くのじゃ。のうユウリ明日もパルドと会うのであろ?妾が良い所へ連れて行ってやろう」
「良い所?」
シリウスをチラッと見たがパルドとの約束の方が先だったと思いだしたのと、ラーヴァの言う良い所が気になったユウリ。
「うむ、ユウリはきっと気に入るはずじゃ。里の奥、火山に近い所に熱い湯が出る場所があってな」
「まさか温泉⁉ラーヴァ温泉があるの⁉」
「ホホホ その通り温泉じゃ!明日はパルドを連れて温泉に行こうと思うがどうだえ?」
「行く!行くよ温泉‼私温泉大好き‼ラーヴァありがとう!」
「何だよユウリ…俺の逆鱗手伝ってくれないのかよ…!」
シリウスには申し訳ないがラーヴァの言う通りその辺を探せば逆鱗の1枚2枚すぐに見つかるだろう。それに人化してしまえばモフモフ出来ないのだからユウリにしてみれば人化しなくても良いのだ。
それに、温泉!それは日本人には魔法の言葉だ。ラーヴァが知っている筈は無いが、ユウリの心は既に温泉一色に染まっていた。
「何を甘えた事を言うておるのかのう。探し物と『取って来い』はお主の得意技であろう?犬だけに、の?」
「だ、か、ら、俺は犬じゃねえええぇっ‼」




