23話 カネ目の物と竜の逆鱗
拙作を読んで頂いてありがとうございます。
20年振りに雪景色を見てまいりました。息子の入学式も無事見る事が出来たので、これから頑張って書いていこうと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
片や興奮度MAXと片や瀕死、という対照的な空の旅をしばらく続けていると正面に頂上から煙を吐く山が見えてきた。富士山の様に孤高の一山をなんとなく懐かしい思いで眺めていると、山のふもとに礫砂が広がっている場所に向かって高度が下がって行った。
『ユウリ見えるか?あそこが妾達ドラゴンが産卵するための里じゃ。降りるぞ』
「うわぁあ!ちっちゃいドラゴンがいっぱいいるっ」
まもなく地上に到着するという高度まで降りると、ワラワラと子竜が集まって来るのが見えた。
ラーヴァがゆっくりと降り立った場所は岩がごろごろとしていて所々から湯気が出ている。地熱で暖かく汗ばんでくるくらいだ。
「はあはあ やっと着いたか!って暑いな!」
高所恐怖症のシリウスはラーヴァの背中にいる間中、目を瞑ってべったりと伏せていた。時々薄目を開けては唸り声を上げていたのだが、地面に足が付いたとたんに元気になったようだ。しかしフェンリルにとってこの暑さは堪える様で自慢の毛がペタリと寝てしまっている。
「シリュー大丈夫?モフモフのフェンリルにはこの暑さはきついかもね。そうだ!」
ユウリは異空間にある冷蔵庫の冷凍室からクラッシュアイスを取り出し大量にコピーした。
あっという間にシリウスの前に氷の山が出来ていき、そこに扇風機をイメージして風を送った。
「おおっ!涼しい風が来たぜっ ユウリ魔法上手くなったな!」
シリウスは冷風を浴びて生き返った様だ。風だけでは満足出来ないのか氷の山に頭を突っ込んでいる。
「そんな駄犬は放って置いて良いからこちらへおいで」
人の姿になったラーヴァがユウリを呼ぶ。ラーヴァの回りには子竜が集まってキュウキュウ鳴いている。それを遠巻きに大型のドラゴン達がぐるりと取り巻いていた。
「す、凄いね…だ、大丈夫?」
ラーヴァが声を掛けたユウリにドラゴン達の目が集まって、ちょっとビビってしまったユウリ。高性能パンツだから大丈夫!…多分。
「どうしたユウリ?ああ怖いのかえ?ほほっ大丈夫じゃ。ユウリを食べようとしている訳ではない。人間の子供が珍しいのだ。というか人間を見た事が無いゆえ興味があるのであろ。さ、こちらへ来やれ。里を案内してやろう」
ラーヴァはそう言うけれどユウリの足は動かない。いや動け無い。腰が抜けそうなのをかろうじて耐えているユウリは泣きそうになりながらシリウスを呼んだ。
「し、シリュー!こっち来て助けてよぉ」
氷の山から頭を出してニヤリと笑うとシリウスはマメシバからライオンサイズになってユウリの側に来ると、ユウリをくわえてポンと背中に乗せた。
「なんだユウリはドラゴンにビビってるのか?あんなに見たがって興奮してた癖にどうしたんだ?」
「だって!こ、こんなにたくさんのドラゴンさんに囲まれるなんて、思ってなかったんだもの!」
半べそをかきながら背中にしがみついたユウリを乗せて、ゆっくりとラーヴァのもとへ歩いて行った。その間も大型ドラゴンから見下ろされ、子ドラゴンは今にも飛びかかりそうに尻尾をブンブンと振っていた。
「ユウリは怖がりじゃの。妾がいる限りユウリに悪さをする者はおらぬよ。さあ少し歩けば妾の屋敷がある。歩きながら里の説明をしようかの」
「ラーヴァしゃんのお家があるの?ドラゴンさんのお家!おっきいんだろうねえ?」
「いやいや、妾は普段人の姿になっておる事が多いゆえ屋敷を造ったのじゃ。街にも屋敷があるぞ。ユウリが街に出掛ける時には妾の屋敷を利用すれば良い」
「ラーヴァしゃん街にもお家⁉ひえーお金持ちでしゅねえ」
「ほほ金目の物があちこちに落ちている里じゃからな。その辺で鱗を2~3枚拾って街に行けば1ヶ月は街で暮らせるぞ?」
それを聞いたユウリはシリウスの背中から降りようとしたが、ラーヴァに笑われてしまいシリウスの首に顔を埋めてしまった。でも、ここへ来た理由が理由なので今さら感満載である。
ユウリはいまだに後を着いてくる子ドラゴン達をチラッと見たがお宝が落ちているとなればかまっていられない。シリウスの背中から身を乗り出して道の脇や岩場でキラリと光る鱗を見つけては、物欲しそうに後ろを振り返っていた。
ユウリがずっと岩場を見ていたのに気がついた一匹の子ドラゴンがトテトテと走り出し岩場に向かって行った。そして1枚の大きな鱗をくわえるとユウリ達を追いかけて来た。
「あっ シリュー止まって止まって!」
怪訝そうに背後を振り返ったシリウスは、ユウリの言葉に納得すると足を止めてユウリを降ろしてくれた。
ユウリ達に追い付いた子ドラゴンはユウリにくわえていた鱗を差し出した。
「わあ!おっきい鱗だねえ。え?くれるの?」
「キュッキュッ」
キラキラと赤銅色に輝く鱗はユウリの顔ほどの大きさで岩場に落ちていた割には傷1つ無かった。裏側には細かい尖った突起があり血の様に赤かった。
「なかなか良い物だな。だが火竜の鱗にしては色が少し違う様な」
「どれ?…ああ、これはアスタの物じゃな。アスタの父親は地竜でな。地竜の色が出て来た様じゃな。アスタは何度目の脱皮だったかの?これ程の大きさの鱗であればもう良い大人になっている筈じゃ。火竜と他の竜とのハーフは珍しい故、高値が付くじゃろ。ユウリ良い物を貰ったな」
ラーヴァが鱗をくれた子ドラゴンを撫でながら教えてくれた。
「キューキュー!」
ラーヴァに誉められ頭を撫でられている子ドラゴンは嬉しそうにラーヴァに体を擦り付けている。
「えっと、あのありがとう!私ユウリって言うの。あなたは?」
「キュッ?キュッキュー!」
「ああ、『パルド』だと言っているな」
「キュウキュッ」
「なんだ、お前はアスタの子かえ。そうか、初めからアスタの鱗があそこに有る事を知っていたのじゃな。父親の鱗をユウリに献上するなど、やるではないか!クククッ 善きかな善きかな」
「キュッキュッキュー!」
何を言っているのか判らないがバルドという子ドラゴンは嬉しそうに鳴いた。
「ありがとうパルド!でもお父さんの鱗を貰ってしまって良いの?」
「キュッ!」
「ありがとう!大事にす、る……」
そうだった。街でお金に替えるんだった…
その為に来たんだけど………
「うん!パルドのお父さんの鱗大切にするね!」
「ユウリ…」
「だっ、だってパルドのお父さんの鱗だよ!せっかくくれたのに売るなんて!」
シリウスが呆れているがユウリはこの鱗を売るつもりは無かった。初めて近づいて来てくれた子ドラゴンがくれた物だもの。売れないよ…
「クククッ ハッハッ!ユウリよ、脱皮した成竜の鱗が1枚しか無いとでも思うているのかえ?フフフッ 遠慮せずに売れば良い。なあパルドよ?」
「あっ‼」
ドラゴンの成体の大きさに思い至り、ユウリはチラッとパルドを見た。
「キュッ?キューキュッ!」
パルドは何かを察し、また岩場に走って行った。
「ユウリ…お前切り替え早すぎだよっ」
シリウスに呆れられたけど良いじゃない!
「だって1枚しか無い貴重な鱗だと思ったんだもの…たくさん有るなら1枚位売っても良いかなって…」
「クックッハッハッハッ!そうじゃな、たくさんあるのならかまわぬなあ!だがな、鱗にも特別な1枚というのがあってな。竜の体を覆う鱗には1枚だけ逆向きに生えている鱗がある。竜の逆鱗というのじゃが知っておるかえ?」
「はい、ええと書物の中の知識だけど聞いた事あります。触れたら死ぬとか呪われるとか」
「うむ、呪いはせぬが、竜の逆鱗に触れた者を竜は許さない。必ず殺すと言われておるな」
「こ、殺すんですか?」
ラーヴァの声音が真面目な色を帯びて来たのを無意識に感じたユウリはいつの間にか幼児言葉が直っていた。
「竜の逆鱗は竜にとって唯一の弱点でもある。それ故逆鱗に触れた者を生かして返す訳にはいかぬ、という訳じゃ。因みにユウリが今貰った鱗はまさに逆鱗じゃな」
言われてユウリは両手で持っている鱗をまじまじと見つめ、そっとラーヴァを上目遣いに伺った。
「あの…これお返しするので、許してもらえませんか?」
おずおずとラーヴァの方へ鱗を差し出したユウリを黙って見つめたラーヴァは溜め息をついた。
「…ならぬな」
「えっ!そ、そんな⁉私知らなかったんです!」
貴重な鱗を貰ってホクホクして、更に欲を掻いてパルドに無言のお願いまでしてしまったバチが当たったのかもしれない。ユウリは青ざめて何とか許して貰おうとラーヴァを見上げた。
「鱗を返すなどと言うてはせっかく持って来たパルドが可哀相ではないか。あやつはその特別な1枚をわざわざ選んでユウリに、新しい主様に献上したのじゃ。返すのはならぬな」
口もとを扇で隠したラーヴァの目はいたずらが成功して、してやったりと笑っている様だった。




