17話: 下心と三人称(仮)
17話: 三人称にチャレンジ…三人称って文体が少し硬くなる?う~ん
ドラゴンさんをおもてなしする為にユウリとシリウスは頑張った。特にシリウスはユウリに頼まれて森を走り回り、兎、猪、鹿といった肉類や熟れて食べ頃の果物、更には魚、茸、木の実など、これからユウリと二人暮らして行くのに支障が出るのではと不安になる程に集めまくった。
「なあ、これだけあれば良いだろ。だいたい食べるかどうかも判らないんだ。多分あの深紅のドラゴンは食わねえと思うって言ってるだろ!」
突然現れた深紅のドラゴン。シリウスが言うには普通のドラゴンではなく高位のドラゴン、もしかしたらエンシェントドラゴンかもしれないと。
一般的なドラゴンは人語を話す事も理解する事もないが、位階が上がると人語を解す者も出てくる。更に高位になると会話も可能な者が稀にいる。あの時出逢った深紅のドラゴンは流暢に人語を操り会話をしていた。そしてこの土地の所有者であるユウリに挨拶しに来たと言っていた。という事はあのドラゴンは火山帯にいるドラゴンのトップではないか。
強いドラゴン程、体色が濃くなり黒に近付いて行くという。現在は確認されてはいないが過去には漆黒のドラゴンがいたらしい。もうおとぎ話でしか語られていないほど昔の話だが、何処かの王城の奥には漆黒の鱗が保管されているとかいないとか。
あの深紅のドラゴンはだいぶ色が濃かったので相当強く高位に違いない。高位になると、あまり大地の恵みを食べる必要が無くなるらしい。空気中の魔素を取り込む為に食事が必要無くなるという説がある。
「だからなユウリ、あのドラゴンは相当高位で強い。その気になれば俺達なんて指先でプチっだ。あの時俺は戦うのがキツいと言ったが嘘っぱちだ。普通の下位ドラゴンならユウリを守りながらでも勝てるが、アイツは別次元の化け物だ。そんな強いドラゴンが挨拶しにわざわざ日を改めて来るって言ったんだ。友好的とは言わないが、こんな大層なもてなしをしなくても話が出来ると思うぞ」
「わかってないねシリュー!確かに敵意は感じられ無かったし、単純に地主に挨拶しに来ただけってドラゴンさんも言ってたけど、ボクの生きていた世界には引越蕎麦というのがあってね、新しく引っ越しして来たらお隣さんにお蕎麦を持って挨拶するという伝統があるんだよ!本当ならボクの方から挨拶にいかなきゃいけなかったんだよ。それをドラゴンさんの方から挨拶に来るなんて‼ボクはなんて礼儀知らずなんだろう⁉だからせめてものお詫びにおもてなしをしないといけないと思うんだ。ねえシリューそうでしょ⁉」
まくし立てるユウリの勢いにタジタジになりながらシリウスは注意するのは忘れなかった。
「興奮し過ぎてボクって言ってるぞユウリ。ドラゴンが来た時にちゃんと喋れるのか?それに、いやに張り切っているがお前もしかして俺の時みたいにまさか…」
「な、なに?別に下心なんて無いよ?ただ仲良くなれたら良いなって。仲良くなれたら少しくらい触らせてくれるかもとか背中に乗せて貰えたりするかもなんて…」
「それを下心と言うんだ……」
ユウリは巨大な椅子やテーブルを創ろうとしたのだが、シリウスに止められ断念した。では自分に何が出来るだろうと悩んだ結果、座布団を創る事にした。お客様を迎えるには座布団が必要だ。また止められるかもしれないからシリウスには当然内緒にした。
異空間リビングにあった淡いブルーのクッションを見本にして、まずは普通の大きさの座布団を創って徐々に大きくしていく。最終的に25mプール程の巨大座布団が完成した。シリウスが森から帰って来るドラゴン前に異空間に収納したのでバレずに済んだ。思いの外フカフカで上手に出来たのでユウリは大満足で機嫌が良い。シリウスが胡乱な目で見ていたけれど気にしない。
とりあえずシリウスが集めて来たご馳走?を収納して準備完了。
「ところでシリュー、おっきくなっちゃったままだけどお家の中に入れないよね?小さくなれる?」
「ああ。何とか魔力の調節は出来る様にはなったが、まだまだ少し不安定だから今日は外で寝る事にする。起きている間は意識して魔力の流れを調整出来るが寝てる間は多分まだムリだからな。まあ明日には自在に調節出来るくらいにはなってみせるさ」
ドラゴンとの突然の出逢いでユウリを守ろうとして咄嗟に巨大化したフェンリル。レインがかけてくれた魔法を破ってしまい小型化出来なくなってしまったシリウスは家の中に入れない。
「ごめんなさい、ぼ、私のせいでレインの魔法が…」
きっと森の中で何度も小型化出来るか試していたはずだ。いつも煌めいていた毛艶が消えてパサついている。魔力が尽きかけて相当疲れているのだと思う。
「ねえ私にブラッシングさせて?森の中走り回って土や草が付いているから先に綺麗にしないとね。それが終わったら私もシリューと一緒に外で寝る!」
「おいおい、【浄化】は有り難いがブラッシングは無理だろ!今の姿でお前がブラッシングしたら朝になっても終らないからな、気持ちだけ貰っとくわ。それに何でユウリまで外で寝るんだよ?お前フカフカのベッドじゃないと寝れないだろ?俺の事は気にしないでゆっくり寝ろよ?」
「嫌っ シリューと一緒に寝るの!フカフカよりモフモフが良いの‼」
「本音出まくりだなオイ。あ~そうかそうかユウリはまだ3歳だもんな。一人で寝れないんだろう?ん?それにお前の寝相ひどいもんな。俺が居ないとベッドから落ちまくりだしな」
シリウスと寝ても落ちるし。それに転げ落ちそうになっても助けてくれなかったのをユウリはしっかり覚えている。
「そんな事無いもん!一人で寝れるしっ!それに落ちないし!シリューの方こそ明日になったらちゃんと小さくなれるの?小型化を維持出来ないとずっとお外なんだからね。あっ そうなったら私がシリューのお家創ってあげる。それでね、入口に『シリューの家』って表札をくっ付けるの!」
「俺は犬じゃねえフェンリルだ‼」
シリウスがガウッと唸るとユウリは汚れて艶が無くなったフェンリルの足にしがみついた。
「ごめんねシリュー。守ってくれてありがとう…」