15話: 残念なコーディネートと未知との遭遇
朝目覚めたらそこは天国でした。
上半身はフェンリルのたてがみの様な長い胸毛の中に埋もれて、下半身、私の足はしっかりとフサフサの尻尾を挟み込んでゲットしておりました。
んん~モフモフ幸せ!
もぞもぞと動き出した私に気付いたシリューは上体を起こそうと頭を動かしたけどそうはさせるかっ 手と足に力を入れてギュッとしがみついた。
「ユウリ目が覚めてるだろ?そろそろ起きて離れてくれないか?」
自分から動いたら私がベッドから転げ落ちてしまうと心配しているみたいなシリューは困った様に話しかけて来た。
だが断る!
「シリューおはよ~ もうちょっとだけこのままでいたいよ~」
頭をぐりぐり押しつけてモフモフを堪能する私
「そうか…ではもう一寝入りするか?だがユウリ今日は森へ行くんじゃ無いのか?」
そうだった!
ガバッと起き上がった拍子にコロンとベッドから転げ落ちたのはお約束ですかね?
普通ここは落ちる寸前助けてくれるのが本来のテンプレでは?
「大丈夫か?俺は朝飯食いに行ってくるからな。ユウリも早く朝飯食べて支度しておけよ」
笑いながらシリューは窓から外へ飛び出して行った。ここ2階だよ?
シリューはフェンリルの姿でいる間は森で食事をするという。昨夜食べたパスタは気に入ってくれたけれど食べにくいし、量が足りないと言うので仕方がない。人の姿に変化出来る様になったらユウリの世界の料理を楽しむ事にすると、一人で食事をしなければならなくなって不満顔の私の顔を優しく舐めた。
グラ〇〇ラに牛乳をかけて急いで食事を済ませると、森へ行く為に何が必要なのか調べる事にした。
危険な魔物は居ないというので今日は散策しながら果物や木の実を探そうかな。
一応何か武器になる物を持った方が良いかな。だけど3歳児に持てる武器ってナニ?
う~んん?武器って刃物とは限らないよね!
キッチンにて、取り出したのは唐辛子、胡椒、カレー粉にマスタード粉末缶。更に冷蔵庫から和辛子とわさびチューブ。うふふ
涙と鼻水拭きながら作業に没頭し完成品をラップに包んでおしまい。
マジックバックが無いから由理が持っていたポシェットをイメージしたけど失敗。『肩からぶら下げる小さな袋』とイメージしたのに何故かタスキとお守袋が出来た。箱根は走らないから‼
仕方がないので1番思い出に残っている物をイメージして創ってみた。
今度は成功。黄色い肩掛けカバン。幼い頃由理と二人で通った幼稚園のカバンは自分が使っていただけあってイメージが鮮明で、ポ〇〇ンのシールもそのまま再現されていた。
カバンの中を異空間に繋げてファンタジー必須のマジックバックが完成した。
後は日常生活でも足りない服や靴。今は浴衣と一緒に入っていた赤い鼻緒の下駄を履いているけれど、森へ下駄では行けないし、虫刺されとか嫌だから出来ればブーツが欲しい。 実物があれば細かくイメージ出来るしサイズも調整出来るはずだけど、悲しいかなブーツどころか靴も無い…。
服だって女の子の服なんて細かくイメージ出来る訳無いじゃん。こちとら16年間男だったんだから!レイラはイメージが大切だって言ってたけどぼ、私がイメージ出来るのは由理が来ていたブレザータイプの制服と休日に着ていた渋谷系?ファッション、ちょっと上品でちょっとセクシーでちょっとアブない感じ…つまり私には超ハードル高いの!
うんうん一人で悩んで結局再現出来たのはジャージでした。創造力貧困でごめんなさい。仕方ないじゃんジャージならあんまり男女関係無いから簡単だったんだもん。創ったのは由理が持っていた黒地にピンクのラインが肩から胸元に入ったなかなかジャージにしてはオシャレな感じの物。もう当分コレで過ごす事に決めた。だってジャージズボンだよ?スカートじゃ無いから抵抗感ゼロだしね。
自分自身をカスタマイズした結果、ジャージに黄色い幼稚園カバン、赤い鼻緒の下駄…酷すぎる!ワンモアトライ‼
下駄がダメなのよっ 靴、靴…スニーカーは紐のところが思い出せないっ
そうだアレなら単純だから成功するかも!
頑張ってイメージした結果、爪先が黄色の上靴が出来ました。
下駄よりマシ下駄よりマシ…
黒髪をツインテールに結んで黒ジャージに上靴、黄色い肩掛けカバンを下げた非常に残念な幼女が完成しました。ぼっちで良かった、異世界で良かった…
ラップに包んだブツをカバンに入れて準備完了!庭先のウッドデッキでシリューが帰って来るのを待っていよう!
「お散歩お散歩嬉しいな~」
拾った小枝を振り回しながら上機嫌で歩く私の後をシリューがノシノシ歩いている。何が可笑しいのか時折「グフッ」って笑ってる。私の格好を笑っているのなら泣いてやるから!でも振り返ると大きな尻尾を振っているのが見えたからシリューもお散歩が楽しいのだろうと思う事にした。
「ユウリ右側の木の根元にある黄緑の草は造血剤に使える。回復ポーションでは流した血は増えないからな、冒険者の間では必須な薬だが、材料となるその草がなかなか貴重で樹海の外縁部では殆ど見つからないんだ。だからかなり高額で取引される。街へ持って行けば金になるぞ」
「お金になるの⁉儲かる?判った。沢山採ろう!他には?お金になるヤツ教えてっ!」
私の剣幕に驚いて退いていたけれどシリューはその後も金目のゲフン貴重な薬草や木の実を教えてくれた。私には薬を作るスキルが今のところ無いのでマジックバックに貯めておこう。いつかは自分でも作れる様になりたい。だって製品にした方が儲かるからね!
「シッ!ユウリその木の後へ隠れろ」
良い気分で歩いていると突然シリューが立ち止まり緊張した声で言った。私は後を歩いていたシリューが突然前に出たのでびっくりしたけれど、すぐに木の後ろにしゃがみこんだ。
な、なにがいるの⁉怖いもの見たさでソッとシリューが睨みつけている前方を見ようとしたけれど、「動くなよ」というシリューの声が低い声だったので止めた。
どれくらいそうしていただろうか、しゃがみ込んでいた足が痺れて来た頃シリューが私の側に来て背中に乗る様に言った。
シリューの首筋のたてがみの様な長い毛をギュッと掴んで落ちない様にした私を乗せてゆっくりと森を進んで行く。
「ね、ねえシリュー何かいたの?」
「ああ、俺も2度程しか見た事は無かったが…ドラゴンだ。それも子連れだな。レイラに聞いていたが本当にここにはいるんだな」
ドラゴン⁉本物のドラゴン⁉見たいっ!
私の心の声が聞こえたのかシリューは少し緊張しながらも小さく笑った。
「良い度胸だな、怖くは無いのか?だが今はダメだ。子育て中は気が荒くなっているだろうからな。そのうち火山の方へ連れて行ってやる。レイラが言うには火竜の誕生と永き眠りの地になっているそうだから、年を経て穏やかな性格のドラゴンもいるだろう。長命のドラゴンの中には人語を解する奴もいるから挨拶くらいは出来るだろう。なんたってお前はここの地主様だからな、向こうもいきなり襲う事は無いと思うぞ」
そっかあ今はダメなんだね残念。でも火山に行けば沢山のドラゴンに会えるんだね。仕方ない、ここは遠くから姿を見るだけで満足しよう。
そう考えてシリューにお願いした。少し躊躇したシリューだけど、我儘を聞いてくれてドラゴンの姿が見えるギリギリの所まで進んで一際太い木の陰に私を降ろした。
「良いか絶対に声を出すなよ、ああ不安だ…両手で口を押えろ、そうだそのままその大きな葉の影から覗いて見ろ」
両手で口を押えて、うんうんと声を出さずに頷いた私は言われた通り、目の前の大きなフキの様な葉の影からのんびりと寄り添って歩くドラゴンの親子の姿を見ようと一歩前に出た。
……凄い凄い!リアル異世界リアルドラゴン‼漆黒と見誤う様な深い紅の大きなドラゴンと親よりは少し明るい朱色の子ドラゴン。
もっと良く見たくて前に出そうになる私のジャージをくわえてシリューが押さえているけど、もうちょっとだけだからお願いっ 前にあるこの葉っぱが邪魔で全身が見えないのっ!
邪魔な葉を避けて、これで尻尾の先まで見えるとワクワクしながら改めてドラゴンを見ようとしたら、ドラゴンさんはじっとこちらを見つめていました。
..リアル未知との遭遇…どうしよう‼