14話: 小さくなったフェンリルと女の子のワタシ
一人称が難しくなってきました。三人称だと硬くなるかなあ。暫く試行錯誤。
シリューは魂が安定するまでフェンリルの姿で生活しなければならない。だけどフェンリルは大きすぎて家の中に入れない。という事で僕達、レインとレイラも庭に出ています。
僕の「小さくなれないの?」発言にレイラが一生懸命脳内検索をかけ、何とかフェンリルを小型化する方法を見つけてくれたのだ。
今目の前には巨大なフェンリルがお座りしている。
「いい?魔力だけでなく自分自身の血肉も力も全て身体の中心に集めて固めるイメージよ。ちょっとっ!体勢を小さく丸めてどうするのよ!頭の中でイメージして体内を巡る血液を心臓に戻す感じで、その流れに魔力も乗せてっ そうよ、そのままイメージを固定してっ ユウリのそばに寄り添える位の大きさよ!もう少し小さくっ今よレイン‼」
しばらくはフェンリルに何の変化も無かった。だけどレイラがアドバイスして少しずつ、まるで騙し絵の様にいつの間にかひとまわり小さくなってきて、更にレイラの厳しい声がかけられると、目に見える程のスピードでどんどん小型化していった。そしてライオンくらいの大きさになった所でレイラがレインに合図した。
「今よ!」「はいっ」
レインがフェンリルに向かって魔法を放った。なんでも、小型化したフェンリルの姿を固定するためコーティングして形状記憶させる魔法らしい。小型化に成功したフェンリルだけどまだ安定していないので、ちょっと気を抜くとボンッと大きくなってしまうのを防ぐ為にしばらくはレインの魔力で包んで置くのだそうだ。
「ふうっー 何とか出来たわね。今はレインが包んでいるから安定してるけど、感情が昂ったり怒りで頭に血が上ったりしたら保証は出来ないわよ!外でならまだしも家の中で戻ったりしたらユウリが潰れちゃうわよ」
レイラが何か言ってるけど僕は小型化したフェンリルに駆け寄ってスリスリするのに夢中だしフェンリルは自分の姿に戸惑い前足を上げたり尻尾を振ってみたり確認するのに忙しそうだ。
「シリューシリュー!良かったねっ これで一緒に寝れるよ‼人間のシリューに暫く会えないのは寂しいけどフェンリルも私大好きだから嬉しいっ!」
「ユウリっ⁉」
レインが呼んでるけどゴメン!今はモフモフ堪能させて下さい!
「ところでレイラ、俺はいつまでフェンリルで居れば良いんだ?近いうちに一度街へ行きたいんだが。何しろ俺は身一つで来たからな。剣も無いし狩りをしても加工する道具も無いんだ。ああそうだ、ついでに金も無いな」
「何言ってるのかしら?フェンリルに剣は必要無いでしょ。お金なんて自分で何とかしなさいな。ここには希少鉱もあるし色々探せば換金出来るわよ。人の姿にならずに1ヶ月と言うところね。途中で変身したらまた1ヶ月延びるわね」
1ヶ月…その間シリューは人の姿になれない。
1ヶ月…その間モフモフし放題!
「えっと僕は構わないよ。街へ行くのが遅れるけど、まずはこの場所を探検しないといけないと思うし」
シリューはフェンリルの姿なので表情は判らないけれど不満そうだ。まあ不便なのはわかるけどね。
「…判った。1ヶ月だな。俺も自由に大きさを変えられる様にならなきゃいけないし、この土地をまだ詳しく調べていないしな。とにかく1ヶ月やってみるさ」
「次はユウリね。家の中を改造するのは構わないけど、何かを創るのなら細部までイメージ出来ないと失敗するわよ。先ずは簡単な構造のモノ…例えばお鍋やフライパン、お皿とか見て直ぐに再現出来そうなものが良いと思うわ。それと、この土地には魔物はいないけど猪や鹿、熊もいるかもしれない。フェンリルがいるから大丈夫だとは思うけれど、ユウリは年相応の攻撃力しか無いんだから防御魔法を練習しなさい」
年相応のって、3歳児の攻撃力しか無いって事⁉
「ああ言ってませんでしたか?ユウリの魔力量で攻撃魔法使ったら大変な惨事になりかねませんし、目立つ事間違いなしです。なのでユウリの魔力は攻撃には使えない様になっています。万が一危険な場面に遭遇した時の為にシリウスさんが居るのですからユウリは戦おうとしてはいけませんよ」
レインが投下した爆弾にボーゼン…僕は戦う手段を持たずにこの世界を生きて行かないといけないらしい。…いやいや戦う事がある前提で考えてはいけない。僕は冒険者になんてならないし、ダンジョンも行かない。危険な場所へも行かないし戦う必要なんて無い…と思う。
「その為の俺だ。そんな不安そうな顔するなよ、俺が必ず守ってやる」
フェンリルが僕の顔をペロンと舐めた。シリューに舐められたと考えるとちょっと恥ずかしい。レインが何故か睨んでいる。どうしたのレイン?
「ユウリ貴方は女の子なんですからね、そんなに簡単に肌を許してはいけませんよっフェンリルはシリウスさんで雄なんですからね」
「何訳判らない事言ってるのレイン?まあ女の子というのは確かね。ユウリも口調を女の子らしくしなさいよっ!」
げっ 忘れてた。レイン達だとつい今まで通りになっちゃうんだよね。
「気を付けます…」
「じゃ、私達は行くわよ。もう下らない事で呼び出さないでちょうだい!ホントは干渉するのはいけない事なのよ。それをホイホイ嬉しそうにレインたら!さ、帰るわよっ」
ぶつぶつ言いながらレインを引っ張って帰って行った。ありがとうって言う間も無かったな。
さてと、先ずは家のカスタマイズだね。
ぼ、私達はそれぞれの部屋の間取りから変える事にした。2階の図書室兼書斎は1階に移して、私は右側シリューは左側を使う様にして隣の部屋の壁を取り払ってバスルームとトイレ、洗面所を創った。暫くの間シリューは使えないだろうけどね。あっフェンリルのトイレってどうするんだろう?砂とか用意した方が良いのかしらん。
シリューに聞いたら「要らないっ」と怒られました。 理不尽だと思う…
ベッドや寝具はあっちの物をコピーした。ベッドはこっちの布団て中身干し草なんだもん。枕だってチクチクするし硬い。何を詰めているのだ、かしら。
1階のキッチンで調理器具やお皿を創ってみた。レイラの言う通りお皿やお茶碗みたいな継ぎ目が無い物は簡単だったけれどお鍋は把っ手を付けるのが少し難しかった。異空間キッチンから持って来てコピーすれば良かったと後から思い出して、ちょっとだけ涙が出た。
1番難しかったのは水道の蛇口。形はコピー出来たけど中の構造が判らない。仕方がないから頭の中で「水出ろ~水出ろ~蛇口ひねったらきれいな飲料水が出ますよ~に!」と何度も唱えていたらチョロチョロ…チョロチョロ…ジャアァァッ‼
見事にきれいなお水が出ました。出ましたが、どうしよう止まらないっ
「シリュー‼大変大変!お水止まらないっ部屋が水浸しになっちゃう‼私泳げないよ~‼」
「落ち着け!魔力を流すのを止めれば水も止まる筈だ」
パニくる私をくわえて椅子の上に乗せてからアドバイスをしてくれたので、何とか気を落ち着けて言われた通り魔力を止めたらお水も止まりました。フゥー
「服がびしょびしょだな。ああ床もか。ユウリ【浄化】と【乾燥】の魔法は使えるか?判らないならイメージしてみろ。きれいに乾くイメージだ」
「判った、やってみる【浄化、乾燥、きれいになあれ】」
一瞬の間の後に床も服もシリューもきれいに乾いた。魔法便利!超便利!洗濯機も掃除機も要らないじゃん‼
その後、蛇口をキッチンと庭のウッドデッキの下に付けました。2階の水回りは異空間ごとコピーしたので心配無し。排水も異空間の何処かに消えます。どこに消えちゃうんだろうねえ。異空間にウ〇〇が漂ってる?イヤすぎ!浄化と乾燥は自動的に作動する仕様にしておこ。
ふうっ
密度の濃い一日でした。死んで、真っ裸見られて、無くして女の子になっちゃって、しかも若返るし、イヤ若返り過ぎて幼女だし。
シリューと会ってフェンリルにも触れたし、初めての魔法も使えました。
夕飯は二人でチンパスタ。私はカルボナーラ、シリューはボロネーゼ。明日は食料関係を何とかしよう。いつまでも冷凍食品には頼れない。シリューと森に行ってみようかな。
「ねえ明日は森に行こうね!食べられる果物や木の実が欲しいな。シリューが一緒なら大丈夫だよね?」
「ああ、ここには魔物はいないしな、俺からすれば手応え無さすぎのつまらない森だが、使える薬草や換金出来そうな物も探してみるか」
そうですか。フェンリルには物足りないという事ですね。安全が1番だよ!そこのところ理解してますかぁ?
夕食後、「お風呂一緒に入ろうっ!」と言うと「フェンリルに風呂は必要無いっ!」と断られました。そんな訳無いじゃん!そのうち絶対一緒に入ってモフモフをゴシゴシするんだから!
仕方なく一人で入って髪と体を洗った。改めて女の子の体になった自分を見た。は、恥ずかしくないからねっ!年頃の女の子だったらさすがにショックだけど、幸い3歳児の体だし由理で見慣れてるしね。トイレで既に見てるから、うん大丈夫。
湯上がりホカホカの私は本日最大のイベントに向かいます。それはもちろんフェンリルさんとの添い寝だよ!モフモフに包まれて極上の安眠をプリーズ!
「シリュー約束したよね一緒に寝よっ!」
シリューの部屋に突撃したら、フェンリルさんはお留守でした…お外でトイレ?
湯冷めしちゃうと風邪をひくので、シリューのお布団に入って待つ事にしました。
早く帰って来ないか…な…