10話: 若返ったフェンリル?と残された二人
もうすぐ、きっともうすぐお外へ冒険に行く…ハズ
お外へ散歩、もとい見回りに出たフェンリルさんを迎えに玄関を開けたら、そこには生前の僕と同じくらいの年恰好の少年が立っていました。
何処にでもいる、ちょっと不機嫌な普通の少年。しかしてその正体は…フェンリルだったのです。
そんなおとぎ話の様な事を真顔でのたまう少年シリウスさん。
信じられるはずも無く目の前のシリウスさんを胡散臭げに見てしまうのは仕方ないと思う。
「信じられんか?この姿は…まあ社交用というか、人と接する時フェンリルだとマズイ場合がある。例えばこうやって建物に入る時とかだな。フェンリルのままだとドアが通らないし、こうして座ってお茶も飲めぬのでな。何なら後で本体になってやろう。話が終わったら庭に出るか」
僕は目を輝かせてコクコク頷いた。
「ところで、その姿はどうしたのですか?お亡くなりになったのは確か60半ば位だった思うのですが?どう見ても16.7にしか見えませんし、髪の色も違いますよね、生前は銀髪でしたよね?」
えっ?レインは今なんて言った?60才過ぎてる?この人が?ええーっ じゃあフェンリルさんておじいさん犬?いやフェンリルが犬科かどうかは知らないけど……
「ああこれか、今生の俺はフェンリルとして存在しているのだが、今言った様に不便な場合がある。そこで人としての姿になれる様にしてもらったのは良いが、レインが知っている生前の俺のままだとチト都合が悪い。何故なら長命種のエルフや竜人、後は精霊の類か、そいつらの中には死ぬ前の俺を知っている奴がいる。だから生前の姿でウロウロするのはまずいのだ」
「生前の姿になるのはまずいというのは理解しましたが、なぜそんなに若くなっているのですか?更にムダにイケメンになっている理由は?」
何だろう、レインから黒いオーラが出ている様に見える。顔は穏やかに微笑んでいるのに目が笑ってないんだ。
お~いレイン帰っておいでよ~
「ん?いや別に俺が頼んだ訳では無い。俺には家族が無かったし戦いに明け暮れた人生だったからな、今生では穏やかに田舎で子供の世話でもして暮らしたいと言ったらレイラに捕縛…いや依頼されてここに来る事になったのだが、その時にレイラにこの姿にされた。何でも、『思ったより小さく成りそうだから大人の男性だと怖がられるから若いお兄さんキャラが良い』らしい。後は…ああ『面白くなりそうだから』とも言っていたな。何が面白いのか判らんが俺はこの姿に不満は無い」
「そうですか、姉さんが……」
れ、レインどうしたの⁉レイラの言う通り大人のゴツい男の人は恐いから僕はありがたいんだけど…ちょっとこのお兄さんも恐いけど服似合ってるって言ってくれたんだよ!きっと良い人だよ?
「…僕も急用を思い出したので戻る事にします。シリウスさん、ユウリは剣で戦う事も無く魔法も無い、魔物もいない世界から来ました。ですからこの世界で生きて行く為に必要な事を教えてあげて下さい。そして守ってあげて下さい。彼女にはここで生きて行く上で制約もあるのですが、詳しい事は本人に聞いて下さい」
「ユウリ、僕は行くけど何かあったら連絡して下さいね。そして彼はフェンリルで中身はおじいさんですからね、それを忘れてはダメですよ?」
「う、うんわかったよ。忙しいのに来てくれてありがとう。その…プレゼントも助かったよ」
おじいさんのモフモフなんだね。大丈夫優しくするしちゃんとお世話するよ!
パンツ、と言うのはシリウスさんがいるから恥ずかしいので、小さい声でお礼を言った。するとレインがどこからか小さな包みを出して僕にくれた。
「これは僕からです。アレも可愛かったですけれど、年相応のものが普段は必要だと思いましたので。気に入ってくれると嬉しいのですが」
コレはアレだ!
確かに一枚しか無いのは不安だった。だけど…だけど何で今よこすのー‼
貰った包みを握りしめて僕は顔が熱くなるのを押さえられずにいた。
「それではシリウスさん、ユウリの事お願いしますね」「ああ了解した。レイラに一度降りて来いと伝えてくれ」「ええもちろん!必ず伝えますね」
僕がワタワタしている間に二人は挨拶を済ませ、レインは帰って行った。
「さてユウリと言ったか?おおよその事は聞いている。俺の人生は人を切り、魔物を倒し、ただひたすら戦う事しか無かった毎日であった。死して英霊と呼ばれ神の1柱に祭り上げられるのも業腹だったのでな、頼まれた時にこれはちょうど良いと思ったが、まさかこんなに小さな子供だとは思わなかった。だがこうしてお互い新しい生を始める事になったのだ。こんな山の上でジジイと二人きりというのも心細くはあるだろうが、まあ上手く折り合いを付けて生きて行こうではないか?」
レインがいなくなった途端に心細さが募り、まだ良く知らない他人と二人きりになってしまった事に動揺して泣きたくなって、手にした包みをギュッと胸に抱きしめていた僕に、シリウスさんは不器用に頭を撫でてくれた。
優しい手の温もりに安心して嬉しくなった僕はシリウスさんに抱きついて泣きながら頼んだ。
「モフモフしゃんに会いたい!フェンリルしたいでしゅー!」
あ、逆だったわ。