パシリが友達だとはよく言ったものだ
「朱里ちゃんの馬鹿! なんで百合香を見捨てたの!?」
わんわんと泣きながら朱里にしがみついてる百合香ちゃん。あの後、窓辺に居た百合香ちゃんを部屋の中に引き入れると、開口一番がこれだった。あまり大きな声を出すと近所迷惑になるんじゃ。
「あなたが童女志士だったから仕方が無く見捨てました。私の迷惑になってないんだから褒めるべきです」
無表情でお前は何を言っているんだ? 完全に俺様主義の発言だぞ?
「あっ、そっか。それなら仕方ないのか」
百合香ちゃんも百合香ちゃんで、さっきの怒りがどこに行ったのか。そして何を納得したのか。確かに朱里の迷惑にはなってないし、むしろ僕もあれで助かったけど。百合香ちゃんにとっては大問題だったのではないか?
「朱里ちゃんは昔から、百合香に優しかったもんね。ありがとう」
「いえいえ、あなた程ちょろい。もとい、従順な下僕。あらため、友達はいませんよ」
「朱里ちゃん? 凄い貶された気がするよ?」
「気のせいです」
こいつらの関係性が、完全にSとMで分かれている気がする。ロリでMか……ありだな。
「今お兄ちゃんが変態なことを考えたような気がするんですが?」
「気のせいだよ朱里ちゃん。僕は紳士だからそんなことは考えない」
まあ嘘だけど。
「いや~。でもまた朱里ちゃんに会えてよかった~。あの後もブラックサ○ダーでなんとか乗り切ってさ~」
そういって百合香ちゃんは、その薄着のどこに隠し持っていたのか。某お菓子であるブラック○ンダーを一つ取り出した。あれでどうしたんだ? どっかの漫画みたいに煙幕とかに使ったのか? あれはうま○棒だったけど。
「でもこうしてまた巡り会えたんだから、奇跡だよね!?」
「私はそんな軌跡御免こうむりますけどね」
なんか見たなこのやり取り。
「それより朱里ちゃん」
「なんです?」
「……寒い」
今この部屋は暖房器具はおろか家具や衣服すらない。室温は外となんら変わらない。なんせ白い息がでるくらいなのだから。でもそんなことはわかっている。わかっているからこそ、朱里には言わない方がよかっただろうな。
「いたたたたたたっっっ!!!! 朱里ちゃん痛いよ!!」
無言でコブラツイストをかけた朱里。百合香ちゃんは結構天然で空気読まない所があるかもしれないな。そこが癇に障るんだろうな。
一分近くコブラツイストをかけられた百合香ちゃん。なんとか解放されたものの、完全に沈んでいる。
「それをこれから解決すんでしょうが。このオタンチン」
「ごめんなさい……」
どんどん不憫に思えてきたな。虐めっ子と虐められっ子の上下関係ってこんななのかな? でもどちらかっていうと、尻に敷いている嫁とその夫ってほうがしっくりくるかも。
「とりあえず。服が欲しいので、あなたの服を一式持って来てください。露出少な目、最低でも長袖でお願いします。あとあればでいいのですが、お兄ちゃんが着れるようなコートと長めのマフラーを一つ。それとバスタオルを」
「え~。寒いよ~」
「帰ってきたら一緒にお風呂入ってあげますから」
「本当!? 絶対だよ!?」
百合香ちゃんは元気になると、何故か玄関からではなく、入って来た窓から外に飛び出していった。台風みたいな子だな。
しかし。朱里と一緒のお風呂に入るので報酬になるとは……朱里と百合香ちゃんが洗いっこするのかな? どこのエロ同人誌だろう。売れそう。
「お兄ちゃん? また変なこと考えてるな?」
「なんのことでしょう?」
相変わらず鋭いなこいつ。
「それよりも。ずっとこの格好じゃさすがに寒いのでお風呂はいりましょう?」
「ああ。それもそうだな。でもバスタオルが……ってそうか、百合香ちゃんに頼んでたのはこのためか」
「そういうことです。じゃあ洗っちゃいますんで、お兄ちゃんは待ってってください」
「ああ」
そう言って、朱里は脱衣所の方に入っていく。少しして、シャワーの音が聞こえ始めた。
僕は取り敢えず、立っているのもなんだったので座ることにした。
しかし風呂か……まあ寒いし丁度いいっちゃ丁度いいが。服がない今の状態で入って、もし出てくるまでに百合香ちゃんが来なかったら、結局湯冷めしちゃうよな。
う~ん。そうなったらさすがに困るな。朱里には先に入って貰って。百合香ちゃんが戻ってくるまで待って貰うのが先決かもしれん。ただ彼女がいつ戻って来るかにもよるんだよな。どうしよう。
そんな風にうんうん悩んでいると。早々に洗い終えたのか、朱里が出てきた。
「早かったな」
「はい。百合香に掃除だけはさせてたので、結構綺麗なんですよ」
「お前、彼女のことこき使い過ぎじゃないか?」
それなのにあの仕打ちは酷いのではないか?
「あの子は友達でありパシリですから。いいんですよ。胡坐にしてください」
朱里は当たり前のように僕の足の上に腰を落ち着けて、最初にここに来た時と同じようにアスナロ抱きをすることになった。
「風呂湧いたらそっち先に入れよ」
「えっ? なんでですか?」
きょとんとした顔で僕を見るので、先程の自分の考えを伝えると。朱里はニヤリと笑った。
「何言ってるんですか~?」
朱里は体勢を変えて、僕に擦り寄るように抱きついてくる。そして耳元で。
「一緒に入るんですよ?」
そう呟いた。
なんか、ヤバいことになったかもしれん。