童女志士
「ふっはっはっはっ!! どうしましたそんなにあんぐりと口を開けて! 百合香のこの魅惑的なボディに誘惑されてしまいましたか! そうでしょうそうでしょう! こんな世界に来るくらいです。どうせそこの人もロリコンなのでしょう! そんで童貞なのでしょう! なので早くその童貞を百合香に捧げるのです!」
中に居る童貞と思わしき人は、驚きを隠せない表情で、百合香のことを舐めまわすようにじっくりと見ていた。その視線に、百合香の中の隠せない欲望がむき出しになってくる。
ああ~。いいですよいいですよその顔! その目! 私を視姦していますね! なんて甘美なのでしょう! もっと見て下さい。淫らな百合香を見て下さい!
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「……あの子は何を言っているんだ? というか何してんだ?」
トラックの荷台では、朱里の友達だという百合香ちゃんが、バックミラー用の覗きガラスからこちらの方を見て何かを言っている。しかしトラックも動いているし、何より外のに百合香ちゃんの声が聞こえる訳もない。
答えを求めるように朱里を見るが、朱里は心底嫌そうに百合香ちゃんを見ている。いったいこの二人の間に何があったのだろう?
「まあ……たぶん。要約すると、私の子供を産んでくれとかそんなところでしょう」
「……はっ?」
僕の聞き間違いだろうか?
「いやだから、私とエッチしてくださいって――」
「いやいや待て。お前は何を言っているんだ?」
「私だってそんなこと言いたかないですよ」
朱里は眉を顰めつつも、「仕方ないんですよ」と続ける。
「彼女は童女志士。童貞を殺す少女の集団の一人なんですから」
「……言っている意味がさっぱりわからないんだが?」
そもそも童貞を殺すってどういうことだ? 実害を与えるってことなら、私の子供をなんて言わないだろう。まあ確かにそれなら童貞という物はなくなるから、殺すってことになるのか? どっちにしろ意味がわからん。
「童貞を殺すっていうのは、まあ比喩ですよ。どちらかと言うと童貞を喰らうって感じです。まあ婚約者か愛人以外の子に手を出したら、その時点で刑務所にぶち込まれますが」
「まあそうだよな……。婚約者と愛人以外?」
それは初耳だぞ?
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「言ってないな」
「じゃあ今言いました」
またこいつは自分の言葉を棚に上げて。
ヒクヒクと頬が引き攣るのがわかるが、今は朱里よりも後ろの子だ。今でも艶めかしく自分の体を撫でまわして、誘いなのかわからない誘いを僕に仕掛けている。正直興奮よりも困惑の方がでかい。どう反応してあげるべきなのか……。
「っで。童女志士だっけ? あの子は俺ともしそういう関係になったとして、どうするつもりなんだよ? もしかしてただのビッチなのか?」
「ただのビッチですよ。だからあの子と友達だと思いたくないんですよね……」
だれだってあんなことしてる子を、友達だなんて思いたくないよな。僕だって願い下げだ。
「でも警察に突き出せば捕まえられるんで、このまま街にいきましょう。お願いします」
朱里のお願いに、萩野さんは渋い顔をしながらも了承してくれた。というより、気にしないようにしてるのかもしれん。まあ僕もできることなら気にしたくない。
「でもさすがに――」
さすがに警察に突き出すのは可哀そうだと、そう言おうとした時、コンコンとバックミラー用の覗きガラスが叩かれた。
そこには百合香ちゃんが歯を震わせながら、口パクで「入れて~」と頼んでいた。まあいくら夏とは言え、外は異常気象でかなり寒い。それは僕たちも既に体感していることなので、よく理解している。
しかしなんとまあ……勝手に表れて勝手に寒がって。なんとも哀れなと思わずにはいられない子だな。
「朱里……」
「……お兄ちゃんの頼みならしかたねぇですね」
結局彼女がどういう存在なのかよくわからなかったけど。とりあえずはまず、彼女をトラックの中に入れてあげるところからだな。