過激な来訪者
それから数十分。遥遠くではあるが、街並みが見えて来た。うっすらとビルのようなものに、僕の世界でも話題となったスカイ○リーのような建造物もある。かなり大きな街なのだろう。だが不安なことが一つある。
先端しか見えない。
ビルも、そのスカイ○リーもどきも、先端だけがチラリと見えるだけで腹部を確認することができない。萩野さんは雪に埋まっているって言ってたし、あの街も同じような状態なのだろう。しかし都市一つがまるまる埋まってるとなると、色々大丈夫なのかと言いたくなる。交通面でもそうだし、生活面でも不都合ありそうだし。
「なあ朱里」
「なんですか? お兄ちゃん」
「お前はこっちの世界の人だからわかると思うんだけど、僕の方で言う完全なファンタジーみたいな世界なのか?」
「ちょっと何言ってんのかわかんねぇです」
「何で煽り方がサンドウィッ○マンなんだよ!?」
見るのは好きだけど実際にやられるとこの上なくウザいな!
「だから、ライトノベルとかの剣と魔法みたいな世界なのかってこと」
「あっはっは! それはそれは!」
「何笑ってんだよ。だからなんでサンドウィッ○マンなんだよ? 好きなの?」
「あれは面白いと思います」
「まあ面白いけどね、そうじゃなくてね?」
こいつと話してると、いっこうに話が進まない。
「まあお兄ちゃんの考えてることはわかりますが、この世界は幼女がいるというだけで、お兄ちゃんが元居た世界と大差ない文明で進んでいます。なので電波もありますし、交通機関も健在です。ただ今はこの大雪の影響で、都市外へのアクセスはできないです」
「いや、それだったらなんでこんな状態になるまで放っておいた」
「さぁ? そこは萩野さんに聞いてみれば?」
朱里は萩野さんを見る。
「君のいた世界ではあり得ないことだろうが、こっちでは異常気象なんてものは日常茶飯事だ。寝て起きたら、本当にこのありさまだったんだよ。でもたぶん、明日には半分くらい雪は溶けてる。なんせ今は夏だからな」
「夏!?」
朱里さんはさっき冬って言いませんでしたっけ? ちょっと朱里さん?
僕が下を見ると朱里は吹けもしないのに口笛を吹いていた。こいつ、適当に言いやがったな。だがさすがにこんな状態だ。僕でさえ冬だと思ってしまうし、夏だなんて思えない。
「萩野さん。冗談こそ寝てる時にしてくれ。この一面銀世界の空間で、寒さに凍えていた僕たちが馬鹿に思えてくるじゃないか」
「実際、君はともかく朱里は馬鹿だと思うぞ」
「それには激しく同意する」
唐突に腹部に肘鉄を食らった。無言の攻撃が鳩尾に入り、内臓がひっくり返りそうになる。胃液出そう。
「おま……」
「私だって別にこんな格好したくなかったですよ。でもほら、視聴者サービスって言う奴です。幼女のスク水姿だけってだけで、大きいお兄さんの息子さんがエベレストです」
「それでなるのはロリコンだけだ」
朱里はお前は違うのかとでも言いたげな目で僕を見る。言っておくが僕はちっぱいより並みが好きなどこにでもいる普通のオタク高校生だぞ?
「まあお兄ちゃんがロリコンなのは知ってますが」
「例え僕がロリコンでも、お前にときめいたりはしない」
「いけず~」
「いけずで結構」
「どうて~い」
「それは言うなよ!」
割と傷ついてるんだからな!
そんな僕たちの、漫才とでも言えそうなやりとりをしていたら、萩野さんが横目で僕たちの方を見ていた。その視線に気づき、視線を合わせる。
「ん? ああ、ごめん。別に何かある訳じゃないんだ。ただ、お前ら仲いいなって思ってさ」
「仲良く――」
「仲いいですよね!!」
僕の否定に喰い気味で入ってくんな。
朱里は嬉しそうに寄りかかって来る。なんでこいつは、そこまで僕のことを好いているんだろう。本当に理由がわからない。
「なあ――」
「あ! 見えました!」
朱里が見る先。いつの間にか街が近づいていた。うっすら見えていただけだから、かなり距離があると思ったんだが。
「ん? なんか様子が変だな~」
萩野さんはトラックの速度を緩める。僕も進む先を見るが、特に可笑しな光景がある訳ではなかった。
「何か見えたんですか?」
「あ、いや。もしかしたら君に嗅ぎ付いたかもしれないと思って」
「はい?」
その時。ドン! っと、荷台の方に何かが落ちた音と振動が響く。
振り向くとそこには、緑色のトレンチコートを羽織った幼女が、仁王立ちで立っていた。
「誰?」
俺の問いに、朱里が答えてくれる。その表情は本当に嫌な者を見るような目だった。
「過激派童女志士。そんで、私の友達である。百合香ちゃんです」
百合香ちゃんはニヤリと笑う。おもむろにトレンチコートを脱ぎ去った。中に着ていたのは、目のやり場に困るようなマイクロビキニだった。