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朱里との距離感

 萩野(はぎの)さんの軽トラに乗らせて貰って10分ほど、緩やかな坂を下っているような感覚が続くが、いまだに雪原を越えられない。

 進んでいるのに、進んでいないかのような錯覚を起こしそうになる。そしてふと思いつく疑問。


「すげー今さらなんですけど、なんでこんなに回り雪だらけなんですか? それに木がない」

「ああ。全部雪の下に埋まってるよ。ここら辺、豪雪地帯だから20mは雪が積もるんだよ」


 萩野さんはそう応える。20mって相当な高さだぞ? てことは今もその積もった雪の上を走ってるってことか? 雪の中に埋まったりしないのかが心配だが……。


 そんな僕の考えを見抜いたのか、萩野さんは「大丈夫だよ」とあっけらかんと笑っていた。とても幼女とは思えない精神年齢だなこの人。

 

「お兄ちゃんは幼女に諭されると」


 不意に、膝の上で大人しくしていた朱里(あかり)がそう言った。


「何か文句でもあるんですか?」

「いえ別に……。向こうでは幼女を膝の上に乗せることもできなかったんじゃないかと思いまして」

「そうれは確かにそうだが……」


 そういえば、なんだかんだで聞きそびれていた。ここが異世界であるということしか、今の僕はわかっていない。


「なあ。聞いていいか?」

「はい?」

「そもそもの話、なんで僕は生きてるんだ?」


 あの時、僕は確実に車に撥ねられた。そんな状態で、今はこうして五体満足で生きている。ラノベとかの異世界転生ものなら、一度死んで、だけども女神とかなんかの力で異世界に行けることができるんだが……。実際に体験してみると、本人はまったく理解できないものなんだな。


「普通に異世界に来ただけです。私のおかげで死なずにね」

「つまり僕は車には轢かれたけど、お前に助けられたと」

「そうですね。感謝してくださいよ?」

「ああ……」


 でも、今考えると変な話だ。何で朱里があっちに居たんだ。本当に偶然、たまたま僕が朱里を助けたのか? 偶然と言えば話は簡単なんだが、僕はかなりの疑り性だからな。何か理由があったのかもと思ってしまう。


「今お兄ちゃんが何を考えてるか当ててあげましょうか?」


 朱里は人差し指を立てる。


「私がなんでスク水姿で現れたのか」

「それは本当に気になるところだけどそうじゃない」

「じゃあ私の胸がなんで大きくないのか?」

「幼女なんだからそれくらいが良いサイズだろ? ロリ巨乳なんて二次元の中でしかねぇよ」

「でも萩野さんDくらいありますよね?」

「嘘だろ!?」


 朱里に言われ、隣で運転をしている萩野さんの胸を注意深く見る。確かに言われてみると、エプロンによって強調されたお胸が綺麗なお山のラインを描いている。それは胸がきちんとなければ描けない放物線だった。朱里の絶壁ではけして真似できないものだ。


「おい。運転中じゃなかったら殴ってるからな?」

「すみません。あまりのことだったので、つい……」


 ふむ。確かにあれはCかDはある体型だな。ロリで巨乳でしかも大人っぽいとか……最高ですかい。


「お兄ちゃん鼻の下伸びてますよ?」

「伸ばしたんだよ」

「うわっ、最低ですね」


 なんとでも言え、いいものはいいんだよ。ってそうじゃなかった。


「胸のことはいいんだよ。お前がなんで僕の居た世界に居たのかが気になったんだ」

「その話しですか」


 むしろそれ以外にない。


「私はお兄ちゃんと結婚するために向こうに居たんですよ?」

「またそれか。なんでそんなに僕と結婚したがるんだ?」

「私は……お兄ちゃんが居た世界で生きたいんです」

「……どういうことだ?」


 朱里は一瞬黙った。喋りたくなかったのか、何か自分の中で思うことがあったのかわからないが、考えるように慎重に言葉を出していく。


「結婚すれば、私はお兄ちゃんの世界に行くことができます。お兄ちゃんもその時に、一緒に元の世界に戻れます。そうすればほら、winwinじゃないですか。だから結婚したいんです」

「つまりはあれか? お前が僕の世界で一生暮らすために、僕と政略結婚みたいなことをするってことか?」

「まあそんなところですけど、結婚は文字通り結婚です。もし結婚したら、最後まで面倒みてくださいね?」


 こいつと本当に新婚さんしなきゃいけないのかよ。それは嫌だと心から言えそうだ。でもそれなら、別に朱里と結婚しなくても、今ここにいる萩野さんでもいいのでは……?


「今、お兄ちゃんが何を考えてるか当ててあげましょうか?」

「なんだ? 再挑戦か?」

「はい。私でなくとも、他の人でもいいんじゃないか?」


 ばっちり当たっていたので、押し黙ってしまった。それが答えを言っているようなもので、朱里はニヤニヤと僕に笑いかけてくる。


「駄目です。お兄ちゃんは私と結婚してください。そして、私という人間を愛してください。それにお兄ちゃんが思っている以上に、婚約者以外と恋をするのは難しいんですよ?」

「どういうことだよ?」

「私以外の女の子とエッチなことをすると、速攻で牢屋にぶち込まれます。それがこの世界の決まりごとです」

「幼女に手を出した時点ですでにアウトだと思うんですが?」


 むしろそうじゃないのかよ。お前がさっき言ってたと思うんですが?


「私とエッチをする分には問題ないですよ? でも他の人は駄目です。他の人と婚約するのも駄目です。ただ、愛人は作って構いません。というか作ってください。最低でも4人は」

「その数字がなんなのかわからないんだが、お前はそれでいいのかよ?」

「私ですか?」


 朱里はきょとんとした顔で尋ねてくる。こいつは、僕と結婚しようと言っている割りには、愛人を作っていいという矛盾したことを言っている。本当に僕が好きで結婚したいなら、普通そんなことは言わない。


「決まりなんで、しかたないです。そうしないと、私がいけないので」


 なんかしらの事情があるのはわかった。だが今そのことにたいして追求したところで、はぐらかされる気がした。何故かはわからないが、そんな予感がしたんだ。


「なのでお兄ちゃんの当面の目標は、愛人契約を4人とするということです! 頑張って元の世界にもどりましょうね?」


 結局話はそれで区切られてしまった。聞きたいことがもっとあったし、この世界のことも詳しく教えられてないけど、朱里がそれ以上話さないと理解はできた。僕もよく、そうやって自分から話を区切った記憶があるから。


 それ以上の追及ができず、なんとも言いがたい空気の中、僕達は街を目指した。

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