こんにちはトラック
「お兄ちゃん」
「……なんだよ?」
「いや、この持ち方はどうなのかと思いまして」
「……」
あのまま二人で凍死するわけにもいかず、とりあえず朱里の道案内のもと街を目指すことにした僕だったが、いざ行こうとした時に「足ちべぇてぇーので歩きたくありません」、とか言うクソガキの意見を聞き入れ、抱っこをして移動している。
いったい何が不満だと言うんだ。
「お兄ちゃん。いくら他に男の人がいないからって、こんな辱しめを受けたのは始めてです」
「よかったな」
今朱里の状態を簡潔にのべるとなると、体育座りをしている後ろから膝裏に腕を回しそのまま持ち上げた状態だ。どことは言わないがおっぴらけになっているし、朱里のスク水姿のせいで余計に目の行き場に困る体制となっている。
まあこうなったのも無理はないな。アスナロ抱きからそのまま持ち上げたんだから、こうなってもしかたがない。全部お前が望んだことだしな!
「せめておんぶにしてくれませんかね?」
「今から体制を変えるのも面倒だ。恥ずかしい格好のまま行くぞ」
「童貞さんって童貞の癖にSですよね? 童貞だからSなんですか? 童貞だから幼女を虐めてみたいとか思ってるんですか? キモいですね」
「落下がお好みなら今すぐにでも落としてやるが?」
「そうやってなんでも思い通りに――ちべた!」
どうやら本当に落下がお好みなので、落としてやった。別に良心なんて痛まないな。
朱里はいそいそと僕の背中に回り背中に飛び乗った。仕方がないのでここからはおんぶだな。
「ほらほら~。小さいとは言えおっぱいが当たってますよ? どうですか? 興奮しますか? 結婚しちゃいますか?」
「誰がするか。それと本当に胸が当たってるのか? 壁しか感じないぞ――待って待ってギブギブ」
徐に首を絞められた。
「お兄ちゃんはデリカシーというものが……すみません。童貞さんには早い話しでしたね」
「童貞でもデリカシーぐらい持ってるからね? お前は例外だから」
「つまり夫婦だからこそデリカシーをかいていると。もう、仕方ないですね」
「お前の頭の中はどうなってるんだ?」
どこをどう取ったら夫婦になるのか知りたいところでもあるな。しかし、スク水姿の幼女を背負う高校生って絵図らは、凄まじい光景だろうな。まあさっきよりはましではあるけど、それでも言い逃れはできない位にやばいことに変わりない。
てか待てよ……? もしこのまま俺が街に入ったらどんな反応されんだろ? 普通に考えればスク水幼女を背負った変態だが、この世界全部が幼女なら問題ないのか? いや、問題なのか?
「なあ朱里」
「はい?」
「この世界って警察はあるのか?」
「ありますよ勿論。ちなみにロリコンは罪なので処刑されます」
「さらっと言ったけど、最低なこと言わなかったか!?」
ロリコンが罪って、今この状態が既に地雷原でタップダンスしてるようなもんじゃないか!
「やっぱお前自分で歩け! そんで僕に近づくな!」
「何でですかー! 私は一分一秒でもお兄ちゃんの傍に居たいですよー! ていうか結婚相手にその言い方は酷いんじゃないんですか!」
「もしお前が本当に僕の婚約者を名乗るなら、僕の身の安全を最優先に考えろよ! このままじゃ僕は何の罪も犯してないのに殺さるんだぞ!
「大丈夫ですよ! 警察って言ったってこんなところに居るわけないじゃないですか! 街の付近ならまだしも、ここは街にいくための道路みたいなところなんですから」
まあ確かに一面銀世界で辺りには何もないし、人っ子一人も……。
ふと辺りを見渡した時に、僕のいた世界でも馴染みのある乗り物のライトがちらついた。
車だった。それも軽トラ。可笑しいな、ここには幼女しかいないんじゃなかったのか? ていうか、もしかしなくても……。
「人……だよな」
「人ですね」
これ、僕に人生終わったんじゃないか?
そんなことを考えていたら、逃げる間もなく軽トラは僕の隣に横づけされた。中から顔を出したのは、美人と言われる部類の、だけれど可愛さを失わない、そんな美女幼女だった。推定12歳前後といったところか。
彼女は、ドアウィンドウを下ろすと、片腕だけ外に乗りだし僕達を見る。
「何してんの? 少年」
少年と言われる年齢ではあるも、それを幼女に言われるとなるとかなり可笑しい。むしろ「お前が言うな」とツッコミたくなる。だが、どうやらそこまで変には取られていないみたいだ。ちょっと安心した。
「この寒空で、しかも一面雪だらけのこんなところに、スク水姿の幼女を担いでるなんて普通じゃないよ?」
「それは僕もそう思っている」
むしろそう思わない方が普通じゃない。
「これはお兄ちゃんが好きそうだと思ってのことでして、決して私の性癖ではありませんからね!」
朱里さん、それだと僕が変態みたいになるだろう。できることなら今すぐにでもその口を閉じてくれ。
彼女は間に受けてしまったようで、僕のことを蔑んだ目で見つめてくる。止めてくれ、そんな目で僕を見ないでくれ、僕だって好きでこんな奴背負ってるんじゃないんだよ!
「まあ人の性癖は人それぞれだからな、あたしがとよかく言うことじゃないし」
まるで今見たことはなかったことにするかのようにドアウィンドウと閉じ始めたので、僕は咄嗟にそのウィンドウを掴む。
「ちょっと待ってください! お願いですからこいつと二人っきりにさせないでください!」
「お前ちょっと怖いどころの話じゃないぞ」
必死の形相過ぎたのか、かなり引かれたようだったが、まあ関係ない。今は情報源と暖まることが最優先だ。それと朱里に服を着せてやりたい。僕の身の安全もかねて。
彼女は一瞬渋ったように見せたが、これも何かの縁だと言って同伴を許してくれた。僕と朱里はそのまま助席乗り込み、暖房の聞いた車内で一息つく。
軽トラなのでかなり狭めだが、このさい文句は言っていられない。それに朱里自身は軽いので、膝の上に乗られてもなんら問題はなかった。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったな。あたしは、萩野。花屋で働いてる」
「僕は浅木昭晃です」
「私は朱里です」
「昭晃に朱里だな。よろしく」
そう言って萩野さんは、ニカリと笑った。