お買い物の時間
朱里に連れられ、付いた場所は大型のショッピングモールだった。駅近くに設計されている割には、雪のせいなのかあまり賑わっていない。ショーウィンドウにも、今が夏なんだということを思わせる水着を着た、子供のマネキンが並んでいる。
そのちぐはぐさ加減が、少し可笑しく思えた。
「ガラガラだね」
中に入る前に百合香ちゃんがそう呟いた。その気持ちはわかるが、突然の大雪で外に出る方が普通じゃないと思う。大抵は必死になって冬ものを引っ張り出して、暖を取るものだ。
「まずは家具類から揃えましょうか。ここニ○リがあるんで」
「僕の世界にもあったぞその名前。もしかしなくても、名称自体は同じだったりするのか?」
異世界だからといって、全てが全て違う訳ではないのかもしれない。名称が同じなのは、正直助かる。
「そうですね。比較的お兄ちゃんがいた世界と変わらないと思いますよ? ただ幼女しかいないってだけです」
それが一番の問題だとは思うけど。この年頃の女の子しかいないから、皆姿の割にはしっかりしているのかな。きっと教育の方法もかなり違っていうのだろう。
「……百合香ちゃん」
「なんです?」
「百合香ちゃんはどこまで勉強が進んでいるのかな?」
唐突な質問に、百合香ちゃんは首を傾げたが、少し考えた後に「数学Ⅰまでかな」と言った。年上としての尊厳が守られて少しだけ安心する。どうやら、百合香ちゃんくらいの年齢では、中学一年生の問題をやっているようだ。
「ちなみに私も同じです。よかったですね、お兄ちゃん」
僕の考えを見抜いてか、朱里はニンマリと笑顔を見せた。こいつは勉強云々よりも、その勘の鋭さをどうにかしてほしいところだ。
中に入ると、当たり前だが暖房が入っていた。いくら着こんでいたとしても、比較的薄着に入る部類しか着ていない僕たちなので、外はかなり寒い。
寒暖差が激しいので、指先が意識を持ったみたいにジーンと震えていた。滞っていた血がちゃんと指先まで向かっている証しだろう。ただ僕はこの感覚が好きではない。
「さすがに熱いね」
「くっついているからだと思いますけどね。早く離れなさい」
朱里がマフラーを外して、自分のものを百合香ちゃんに巻いていく。完全に顔が隠れてしまった百合香ちゃんは、「熱いよ~」と言いながら笑っていた。ただ現状その大きなマフラーをどこか別の場所に置くことはできないので、百合香ちゃんはこのショッピングモールを出るまではその姿と言うことになる。
最悪、僕が腕に持っておくか。
自分のマフラーを腕に持って。百合香ちゃんのは彼女がぐずるまでは放置することに。
中に詳しくない僕は、大きな案内図の所に行き、このショッピングモールの中に何が設備されているのか確認した。
思ったより僕のいた世界と酷似していて、飲食店も服屋も書店も同じ名前だった。
「とりあえず3階にいきましょう。ニ○リがあるのはそこなので」
「おう」
朱里がエスカレータに向かうので、その後ろについて行く。買い物なんて久しくしていなかったので、少しだけ楽しみだ。