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朱里さんは大人

「くっ…まさか自分の策を使われるとは、朱里(あかり)一生の不覚」

「暖かいね、朱里ちゃん」


 苦虫を噛み潰したような表情で歩く朱里と、彼女と腕を組んで歩く百合香(ゆりか)ちゃん。端から見たら姉妹のような、または恋人のような……そんな安定感のある絵図らだった。

 結局あの長いマフラーは、僕と朱里では使うことができず、身長差もない朱里と百合香ちゃんの二人で扱うことに。僕はと言うと、朱里が最初っから付けていたマフラーを使わせて貰っている。ちょっといい匂いがするから困る。

 ……にしても本当。


「お似合いだな、お前ら」

「どこがですか! お兄ちゃんの目は節穴ですか!? フジツボですか!?」

「フジツボではない」


 そんな目があったら絶叫ものだ。気持ち悪いなんてレベルじゃない。


「本当やめてください。私は百合香ちゃんと友達だと思われている時点で、かなり嫌なんですよ」

「百合香は朱里ちゃんのこと大好きだよ」

「それを止めろと言っているんです」


 本当に嫌な顔をするから、こいつのことがよくわからない。でも振り払わないところを見ると、心の奥底では嫌いではないのかもしれない。百合香ちゃんの泣きそうな顔で折れるくらいだし。


「朱里と百合香ちゃんって、いつごろから友達なんだ?」


 ふとした疑問を口にすると、百合香ちゃんの表情がさらに嬉しそうになる。花が咲いたって感じだ。


「聞きたい!?」

「……まあ、聞きたいかな」

「じゃあ教えて差し上げます!」


 なんか一気に面倒になったな。得意気な顔とその上から目線とかがなんか癪に触るんだが。

 隣で聞いていた朱里も、同様に心底うざそうな顔をしている。確かに今の感じはうざかった。


「百合香がまだ幼稚園の時でした、同じ幼稚園で一緒にいた朱里ちゃんが、虐められていた百合香を助けてくれたんです」


 へ~。人は見かけによらないとはこの事かもな。朱里にも百合香ちゃんに優しい時期があったのか。


「おしまいです」

「早いな」


 わざわざ溜めてまで話すような内容じゃなかっぞ?

 さすがに説明不足が過ぎるので、朱里に視線を送る。渋々といった表情で話し出した。


「虐められていた原因は、露出狂だったからです。それが原因で他の子からはバカにされ、軽蔑の目で見られてたんです」

「その頃からバカだったんだな」

「それで、私はあまりそういうとこに興味がなくて、百合香ちゃんが虐められていたことさえ知りませんでした」


 あ~居るよね、クラスに一人くらいそういうやつ。独自の世界観を持ってるから、回りやことに意識が向かないって。


「その日は塗り絵なんかで遊んでいたんです。それで、たまたま百合香ちゃんが部屋の隅っこでうずくまっているのが見えて、なんとなく気まぐれで、話しかけちゃったんです」


 朱里は付け加えるように、「それが地獄の始まりでした」と言った。察するに、それから毎日百合香ちゃんの相手をしていたのだろう。そりゃちょっとした地獄だ。


「だから百合香ちゃんを助けたとは思ってませんし、友達になった覚えもないんです」

「百合香は友達だと思ってるよ!」

「本当に黙ってくださいませんか?」


 なるほどな。朱里がそうやって邪険にする理由もなんとなく頷けるか。ただ普通に百合香ちゃんの相手をしてるところを見ると、単に押しに弱いだけなのかもな。

 今度から強気に出れば、僕もなにかと有利になるかな?


 そんな僕の考えを予感したのか、朱里は「下手に出るからって侮らないでくださいよ?」と、ちょっとドスの効いた声で呟いていた。だからお前のその直感スキルどうなってんだよ。


「そういや朱里」

「はい?」

「お金とかどうすんだ? 僕は一文無しなんだけど」


 一応この世界に来る前に財布は持ってたんだけど、ここに来る時にそれが入っていた鞄はなくなっていた。完全に身一つだったので、お金など持ち合わせていない。

 こんな状態で買い物などできるはずもない。見たところ朱里や百合香ちゃんも手ぶらのようだし。


「大丈夫ですよ。私のパスを使えば、自動的に引き落とされますので。こう見えて結構稼いでますから」


 得意げに見せてくれたのは、朱里の顔写真が着いたカードだった。僕らの世界で言う免許証みたいなものなのかな。


「取りあえずはこれで買い物をしましょう。今日は私が持ちますので」


 幼女のくせになんて大人なセリフを言うのだろうか。いつか僕も言ってみたいセリフだ。

 しかしなんだ……年下に奢ってもらって、かつその相手が女の子で、仕方がないとはいえ完全にヒモ野郎だな僕は。どこかでちゃんと稼がないと、男として情けない。


「そういえば、朱里はどうやってお金を稼いでいるんだ?」


 素朴な疑問だった。朱里は言うか言わまいか逡巡してから、ところどころあやふやに話しだす。


「なんといいますか……これがすでに仕事と言いますか。お兄ちゃんと一緒にいることでお金が入るといいますか。私もよくはわかってないのですよ」

「なんかよくわからんが、お前が僕よりも働いているんだということはわかったよ」


 早くヒモを脱せるように、働き先を探さないとな。

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