お買いもの準備
地獄のような……そんなお風呂の時間が終わり、僕は疲れが来たのか部屋の中央で倒れていた。
あの後、対抗意識を向けた朱里が僕に詰め寄って来たのだ。小さいながらも柔らかいもの押し当てて、挙句にはそのままコトに運ぼうとしたのだ。抵抗の末なんとか何もなくすんだが、今後は絶対一緒にお風呂は入らない。次は喰われる。
「大丈夫? お兄さん。膝枕する?」
お風呂上りの百合香ちゃんは、先程の刺激的な服装から変わって、ジーンズにタートルネックのセーターという防御力の高い服装になった。たぶん朱里が布面積の広いやつにしてくれと言ったから、本当にその類のものしか持って来てないのだろう。
「膝枕なんてされたことないよ」
「じゃあ百合香が最初にさせて」
「まあ別にいいけど」
しかし百合香ちゃん。服着ると結構美人さんだな。なんで変態やってるんだろう?
僕は促されるまま、正座をしている百合香ちゃんの膝に這いながら行く。
「いいわけないでしょうが!」
後少しで頭が膝に乗ると言った時に、脱衣所で着替えていた朱里が血相を変えて素早くにしがみついた。
「痛いんだけど!?」
「初めての膝枕は譲りませんよ!? 百合香ちゃんも誘わないでください!」
「え~なんで~?」
百合香ちゃんは唇を尖らせてふて腐れている。僕も良くはわからない。
「じゃあ朱里がしてくれるのか?」
「もちろん私がします」
朱里も正座して膝上をパッパッ、っと払って服の皺も同時に直す。
「ではどうぞ!」
頬を赤らめつつも覚悟の決まった顔でそう言った、しかし僕よりも先に僕の後ろにいた子が、なぜか朱里の膝上に向かった。
「朱里ちゃんの膝上ーー!!」
「百合香ちゃんのためにやってるんじゃないんですよ!!」
朱里が怒りつつ百合香ちゃんを引きはがそうとするが、ガッチリと腰まで手を回してけして離れない百合香ちゃん。鼻息荒いし、呼吸音めっちゃ聞こえる。朱里の匂いを目一杯、肺に取り込んでいるみたいだ。
「百合香ちゃんは本当に朱里のことが好きだな」
「うん。朱里ちゃんは百合香の大切な友達だもん。大好きだよ!」
愛され笑顔。朱里の邪な思いがある愛され笑顔とは大違いだな。
「私は友達だとは思ってませんけどね」
「酷い!」
僕の心内を察したのか、今度は朱里がふて腐れて百合香ちゃんに当たっている。面倒だなこいつら。
「とりあえず、膝枕の件はまた今度にしないか?」
これ以上いくと先に進みそうになかったので、取り敢えず区切ってから話を切り出す。
「買い物いくんだろ?」
「そうでした。百合香ちゃんに構ってる暇なんてなかった」
そう言って朱里は立ち上がろうとするが、どうにも百合香ちゃんが邪魔で立ち上がることができないようだ。
「百合香ちゃん?」
「百合香も連れてってくれるなら離してあげる」
「じゃあ戻ったら一緒に寝てあげますから」
「うえ……? それも魅力的だけど、もうちょっと朱里ちゃんと居たいよ。久し振りに帰って来てくれたんだし」
泣きそうな声でそんなことを言うので、朱里もそれ以上強く百合香ちゃんを離すことができないようだった。何度か逡巡してから、諦めたように項垂れて了承した。
「ただし、私の迷惑になることは避けてくださいね? それと、百合香ちゃんが童女志士だということは絶対に伏せといてくださいね? 私まだ警察に捕まりたくないので」
「まっかせてよ!」
いい笑顔で朱里から離れる。ウキウキと外に行く仕度始めた。本当に朱里のことが好きなんだな。もしかしたら、僕に言い寄ったのも、朱里の気を引くためだったのかもな。
さてと、僕も外にいく仕度をするか。百合香ちゃんが僕でも着れるコートを持って来てくれたし、後はマフラーでも巻けば。
そう思い手に取ったマフラーは、一人で使うにはかなりでかい。二人分は十分にある大きさだ。これ朱里が言ってたやつか。
「お兄ちゃん。私はお願いがあります」
「言ってみろ。ろくなことじゃない気がするが」
「一緒にマフラー巻きましょう」
「だと思った」
でなきゃわざわざ大きめのマフラーを頼む利点が無い。よく漫画やイラストでもその手の画像は見受けられるが、いざ自分でやるとなると気恥ずかしいものがある。
「まあ今回は百合香ちゃんの同行を認めたから、許してやるよ」
「やりました。お兄ちゃんがおっぱい以外でデレた!」
「別におっぱいだけが全てじゃないからね?」
胸の話しばっかだったから、こいつの中で僕がおっぱい魔人になってしまった。どこかで汚名返上しなくては。
「じゃあまあ、ほら巻け」
「はーい♡」
朱里もコートを羽織ってから、首にマフラーを巻いていく。丁度巻き終えた時に、首にある違和感があった。というかこれって。
サイズあってなくて首いてぇ。めっちゃ引っ張られる。
僕と朱里の身長差はだいたい30cm前後。僕はあまり身長が高い方じゃないから、これでも差は少ない方なんだけど、そんなことどうでもよくなるくらい首が辛い。前かがみにあるから腰も痛い。これは困った。
「朱里さん。辛いよ」
「そうみたいですね。抱っこします?」
「それはそれで辛いものがある」
「重いって言いたいんですか?」
「そうじゃない。さすがに長時間は抱えてられないって言ってんの」
いくら朱里が軽くても、僕が駄目なら無理だろ。
「え~…。じゃあこれはどうしましょう」
そこで僕の視線は、身支度を終えた百合香ちゃんに。僕の視線の先を見た朱里は、眉根を寄せる。
何もわかってない百合香ちゃんは、首を傾げていた。