百合香ちゃんは空気を読まない
結局一緒に入ることになった僕。朱里は来ていた水着を脱ぎ捨て、中に入って行く。僕はなるべく見ないように努め、服を洗濯機の中に突っ込み中に入った。
「さてお客さん? お背中お流ししましょうか?」
「お前もうわざと言ってるだろ?」
それこそ本当にそういういかがわしいお店の台詞だぞ。ただ色気も減ったくれもない寸胴ボディの子に言われても、ピクリとも反応しないが。
「まずお前から洗ってやるよ。外寒かったんだから、先にシャワーを浴びろ」
「本当になんで私にだけはそういう塩対応なんですか? もっとこう……お前! 前ぐらい隠せ! とか言えないんですか?」
「だから、お前の体を見たって、何とも思わないって。何度も言うけど、僕はロリコンじゃない」
朱里はプクーっと頬を膨らまして、「もういいです」とそっぽを向いて風呂椅子に座った。
背中を見せてくれるので、洗っていいということなんだろう。
シャワーは最初は冷たい水が出るので、まずはそれを温める作業からだな。シャワーの水を出しっぱなしにして、温まるのを待つ。その間朱里は、手持ち無沙汰なのだろう、髪を弄っていた。
温まったことを確認してから、まずは背中を流してやる。
「お湯加減いかがですか~?」
「いい感じですよ~♪」
上機嫌にそう返事をする。ませてはいるが、なんだかんだやっぱ子供だな。
充分体を暖めたら、次は髪を流してやる。
「そういや、ちゃんとシャンプーとかあるんだな」
「そりゃありますよ。百合香ちゃんに掃除させるついでに、そこらへんも完備させてたんです。やっぱり持つべきものは下僕――友達ですね」
さすがに下僕ってのは酷いと思うぞ。
こんなに馬鹿にしてんのに、なんで百合香ちゃんは朱里と一緒にいるんだろう? 今度訊いてみるか。
百合香ちゃんと言えば。
「あの子、何時くらいに戻って来るんだ?」
「さあ? でもすぐに帰ってくると思いますよ」
シャワーを止めて、シャンプーを手に取ってポンプをプッシュする。掌で充分泡立ててから、朱里の朱色の髪を丁寧に洗っていく。
「なんだか手つきが嫌らしいんですけど?」
「普通にやってるが?」
「いえ、これは手馴れてる手ですね。まさか、彼女の変わりにドール人形とかで練習していたんですか?」
「どんな変態だよ僕は!」
それもうただのヤバいやつだから!
「まあ冗談ですけど。なんだか上手いのが癪に障るんですよね~」
「じゃあもう洗ってやらね」
「ああ、すみません。もう言いませんから続けてください。地味に泡だって目が見えないんです」
朱里は髪は細いが長めなので、洗ってる途中で放置すると泡が垂れて顔を覆う結果となる。
しょうがないので続けて洗ってあげる。シャワーでなるべく痒くならないように洗剤を落としてあげて、次は体を洗う感じになったのだが。
「さあ、前も洗ってください!」
「馬鹿言ってんなお前。僕を本当の犯罪者にするつもりか?」
朱里は是非にとでも言わんばかりに、腕を広げて全てをさらけ出していた。僕はさすがに直視するのはいけないと思ったので、しかたないので目を瞑る。
「百合香ちゃんのおっぱいは揉んだ癖に!」
「それを言われると弱い!」
でもあれは百合香ちゃんが、勝手に僕の手を胸に当てただけなんだよ! だから僕は無実だ!
「やっぱり大きいおっぱいの方が好きなんだなこのおっぱい魔人! けだもの! 変態!」
「大きい胸が好きなのは男の性という物もある。こればかりはどうしようもない」
「開き直った! 胸が好きだって開き直りましたね!? なら揉んでください! 揉んで私のお胸を大きくしてください!」
朱里は僕に詰め寄り、僕の手を自分の胸に押し付けようとした。
「やめて! 僕の純情を傷付けないで! 僕はそんな貧相なお胸は好みじゃないの!」
「有に事欠いて貧相と言いましたね!? まだ発展途上で育ってないだけです! 百合香ちゃんや萩野さんが可笑しいんですって!」
まあ確かに萩野さんのお胸はとっても可笑しい。あの歳であの大きさ、これかもし育つとしたら、どこまで行っちゃうんだろう。
「今萩野さんの胸のこと考えましたね!? ちょっと反応してましたよ!? 何がとは言いませんが反応してましたよ!?」
「どこ見てんだお前! この変態!」
「自分だって変態でしょこの変態!」
いつのまにか推し合いになってしまった。本気で押す訳にもいかないし、なにぶん風呂場じゃ危なすぎる。
「ただいまー!! 朱里ちゃんとお風呂~……」
ガチャリと、風呂場の扉が開け放たれる。まるで突風のように帰って来た百合香ちゃんは、ポカンと口を開けて僕と朱里を見た。
「……ずるい! 百合香も入る!」
布面積のない服を脱ぎ捨てる。その行動に吹き出した僕は、カーッっと顔が熱くなるのを感じた。
いや何て言うか、朱里の体よりも発育が進んだ百合香ちゃんの体ってさ、なんていうか……エロスを感じてしまうんだよね。
でも取り敢えず。
「前を隠せ!」
朱里には言わなかったその台詞を、百合香ちゃんには言ったのだった。