そう上手くいかない
とうとう別れの朝が来た。ハンナさんは玄関で私はめいいっぱい抱きしめてくれた。少々苦しい。
「ハンナもうその位にしといてやれ。」
私が苦しそうにしてるのに気付いたのかロベルトがハンナさんを離してくれた。
「ハンナさんいろいろよくしてくれてありがとうございました。」
「鏡香ちゃん…またいつでも遊びに来ていいからね…」
別れの挨拶も終わり私はロベルトと一緒に馬車で街に向かった。中にはデニス君もいた。一礼されたが終始無言だった。窓が付いてるがカーテンがかかって外は見えない。
「あのかーてんあけてもいいですか」
「そっと覗くくらいなら構わない」
覗き見をするように覗いてみた。
「おぉ…!」
外にかなり活気に満ちていた。王都ということもあり人数も多い。ドレスを着て歩いている女の人たち、家族や恋人同士らしき人も歩いている。お店も服屋やレストラン、カフェみたいなところもあり遠くでは市場が開かれてるのが見える。
「あっ、公園だ。」
大きな噴水と綺麗に選定された木々や草花が見える。一度行ってみたいものだ。
さらに進んで街のはずれに着いた。郊外なのだろう人数は少ない。馬車は一軒の小さな家に着いた。
「ここがお前の家になる。掃除もしてあるし、必要なものは用意させてある。」
「ありがとうございます。」
あぁ、と言いながらロベルトは手を差し伸べていた。握手をしたが痛い。
「困ったことがあったら頼ってくれても構わない。あとこれ、」
見覚えのあるカバンを渡してきた。
「これって…」
「お前のだろう。捨てられそうになっていたらしいデニスが回収してきたそうだ。」
「…………」
てっきり捨てられたかと思ってた。よちょとクタクタになってるけど中身は無事だ。
「ありがとう…」
ロベルトは行ってしまった。寂しくなるな。最初は腕掴まれて嫌な思いしたけど私のこと心配してくれていい人だとわかった。
「おい…」
デニス君が話しかけてくれた。
「これ、元帥から預かったものだ。」
小さな箱を渡された。なんだろこれ?開けてみると中にはブレスレットが入っていた。細い金のチェーンにパールが付いているシンプルなデザインのものだ。
「きれい…」
「ハンナ様が元帥に渡すように言ったらしいんが元帥はああいう方だ。俺で許してほしい。」
あの人らしいね。
「デニス君もありがとうね。カバン守ってくれて」
無言で頷いて帰ってしまった。
「さて、家はどんなんだろう。」
入ってみると簡素な造りの1人暮らしにはぴったりの家だった。
「結構いいじゃん。」
水や食料の必要最低限のものが置いてあった。
「あれ、でもこれがなくなったら新しい配給くるのかな」
もって2、3日の量だ。ロベルトの家からここまで半日かかった。城からだともっとかかるだろう。すぐ届くとは思えない。
見捨てられたのだろうか。延びる術を知らない小娘と思ってのたれ死ぬのを願ってるのだ。
「騙された……」
考えてみれば虫のいい話だ争いの火種になりうる者を生かして理由はない。しかし罪のない人間を殺すことを知られればどこからか批判が起こる。なら郊外ある程度の配慮はしてやり勝手に死んでもらうのが一番なのだろう。あるいは事故死に見せかけて殺されるかもしれない。まずい。非常にまずい。今すぐここから逃げた方がいいのか。考えに夢中になり私は家の周りが怪しげな集団に囲まれてるのに気付かず。抵抗するよりも先に捕まり意識を失った。
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