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  作者: リケルメ
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全ての行動の中に

問題ない。全てうまくいく、、、

吉田寛太は真夏の日差しが降り注ぐ中、タバコを吸いながら何度も自分に言い聞かせていた。

寛太は八巻商事に勤める会社員だ。会社の業績のことなどよくは知らないがある程度給料が貰えて平凡に暮らせていければいい。そんなことを昨日まで思っていた。

「くそっ!なんで俺が、、、」

そう吐き捨てるように呟くとタバコを捨て車に乗り込んだ。


「おい、本田。職場体験の行き先決まったのか?」担任の前田に問われて読んでいた小説から目を離した。

「いえまだ決まってないです、、、」桜子は戸惑いながら答えた。東和大学は一年生の夏に職場体験を行うことになっている。今まさにその時期になっており、周りのクラスメイトたちはすでに体験先を決めていて、桜子はクラスの中で一人だけまだ体験先が決まっていなかった。

「わたしは慎重に決めているだけです!来週には決めますから」将来が決まるかもしれないこの職場体験の行き先をそう簡単に決められる周りがおかしい。そもそも職場体験させるのが早いのよ、、、桜子は心の中でぼやきながらそう答えた。

「まったく。決めてないのはお前と法学部の奴だけだぞ」

「え?法学部にも職場体験があるんですか?」

「まぁ形だけな。だから他の奴らはほとんど適当に体験先を決めるんだが、一人だけ決めない奴がいるんだよ」私と同じようにこの職場体験を真剣に考えてる人がいるんだ!桜子は少し嬉しい気持ちになりつつ聞いた。

「誰なんですか?その法学部の一人って」

「あいつだよ。小鳥遊祐一郎。」桜子の気持ちが沈んだ、、、



「ゆえに君は緊張すると肘をさする癖がある!僕のシャーペンを勝手に使ったのは君だな?図星かな?」桜子は沈んだ気持ちを抑えつつ法学部の教室の前に差し掛かったとき高笑いが聞こえた。

「あ、あの小鳥遊祐一郎君だよね?」

「ん?誰だい?君は」背は低く、黒く少しウェーブがかかった、、、もといボサボサの髪の毛をくるくると指に巻きつけながら祐一郎はこちらを振り返りながら聞いてきた。職場体験の件で訪ねたことを伝えると興味がないとばっさり切り捨てられた。

「だいたい法学部の僕がなぜわざわざ時間を割いて無駄なことをしないといけないんだ。僕は他の連中のように暇じゃない。くだらないことなんてしている場合じゃない」なんだこの人、桜子は少し怒りを覚えた。そんなこと言われると思わなかったしそもそも桜子にとってみれば重要な学校行事なのだ。親しくもない祐一郎にここまで言われるのは心外だった。

「ああそうですか!聞いた私が馬鹿でした!」そう言うと桜子は教室を後にした。

やっぱりあんな奴に聞くべきではなかった、、、桜子と祐一郎は初対面だがその性格についての噂なら聞いたことがある。話をしていると難癖を付けてきてふてぶてしい態度を取る。面倒くさいし相手を馬鹿にするような態度を取るため友人がまともにいないらしい。今日少し話してみて全て納得がいった。やっぱり自分で行き先を決めなきゃ、、、そう桜子は決意した。


森本敬はイラついていた。何せ全くと言っていいほど成果が上げられず、上からこっ酷く叱られたからだ。

「今のやりかたじゃうまくいく訳ねぇだろうが!」会議室の横の壁を蹴っとばした。

森本は世田谷警察署の刑事課一課に所属している警察官だ。ある殺人事件の捜査を任されている。今はその捜査中の事件の報告で署長の下地を訪ねていた。進展した報告も出来なかったが。しかし気にくわない。

「凶器すらまだ見つかっていない。恐らく犯人がまだ所持しているのだろう。凶器を処分するところを押さえるしかないだろ。お前は聞き込みをして俺に報告すればいい。」下地が言った言葉、、、森本には納得出来るものではなかった。

「もういい。俺の考えで動いてやる」

そう呟くと早足で警察署を後にした。


祐一郎のいた教室を後にした桜子は家に向かおうとしていた。途中忘れ物に気づき、田園風景の帰り道をまた戻っていた。そして曲がり角を曲がった所でスーツ姿の男と同じ学校の生徒を見かけた。すれ違う瞬間に何気なく生徒を見てみるとと先ほど悪態を吐いた祐一郎が何やら複雑な表情でスーツ姿の男と話していた。するとスーツ姿の男はいきなり祐一郎の胸ぐらをつかむと「たまには俺の言うことを聞け」と怒鳴り始めた。

「ちょっと何してるんですか!」たまらず桜子は間に入り仲裁した。

「どういう訳かわかりませんがこれ以上小鳥遊君に何かするつもりなら警察呼びますよ」

「なんだ君は。これはこいつと俺の問題なんだ邪魔をしないでくれないか」

「だったらその手を離してください。本当に警察を呼びますよ」

「警察を呼ぶだって森本さん。面白いね。」

祐一郎はこんな時にも指で髪の毛をくるくると回しながら笑っている。

「なんで小鳥遊君は笑ってるの!この人は誰、知り合いなの?」

「んー、知り合いっていうか腐れ縁?」

「もう我慢ならん。殴らせろ」

今にも殴りかかりそうな男を見て祐一郎はまたヘラヘラと笑っていた。

「本当に警察呼びますよ」桜子が叫ぶと、祐一郎がまたヘラヘラしながら「大丈夫。この人警察だから」と言った。

えっ?と桜子は自分でもびっくりするような拍子抜けた声で聞きき返した。


「少し騒いでしまったが、世田谷警察署刑事の森本と言う」さっきとは打って変わって落ち着いた表情で自己紹介をしてきた。

「本当に警察の方だったんですね」と口にした所で疑問が浮かんだ。

「警察の方が小鳥遊君に何の用があったんですか」

「まぁそれは民間人には関係ない話だ」

「僕もその民間人なんだけどね」

「お前は黙ってろ!」クスクスと笑う祐一郎を今にも殴りかかる勢いで森本が怒声をあげた。

「まぁ別に民間人1人や2人に話を聞かれるくらい問題ないでしょ」祐一郎は森本に諭すように語りかけた。その言葉あってか、しょうがねぇなとボヤきながら頭を掻いて「ある殺人事件をこいつに調べてもらうことにしたんだ」と溢した。

「え?殺人事件を調べる?」

「そうだ。この祐一郎に一緒に調べてもらうことにした」当の祐一郎は「まだ調べるなんて一言も言ってないけどね」とクスクスと笑っている。

「なんで小鳥遊君が?」疑問に思った。それはそうだ。一学生の祐一郎が殺人事件の捜査を行うなど普通ではない。

「一度捜査に協力してもらったことがあるんだ」

「え?そんなことしていいんですか?」

「もちろん極秘事項だ。警察の捜査を一般人に協力してもらうなど許されていることじゃないからな」森本がしれっと言ってこう続けた。祐一郎には能力があると、、、


少し前まで炎天下だったが厚い雲に覆われその暑さはいくらか引いていた。祐一郎は森本の運転するパトカーに乗せられ、ある会社に向かっていた。

「さっきの女の子は彼女か?」森本はからかうように質問した。

「やっぱり観察眼がないですね森本さんは。よくそれで警察やっていけてますね」

「へいへい相変わらずの減らず口だな。お前は。」そうこうしているうちに目的地に到着した。4階建ての殺伐としたビルの3階に目的の会社が入っている。八巻商事と書かれた扉を開けると受付嬢が驚いたような顔を見せてきた。どうやら普段この時間に訪問してくる者はいないらしい。

「警察の者だが吉田さんはいるか?」警察手帳を見せながら森本は受付嬢に聞いた。

「あのー、どういった件でしょうか?」

「それは言えない。吉田さんはいるのか?いないのか?」

「少々お待ちください」受付嬢は慌てて奥に消えていった。

「森本さんまるでヤクザですね」例に漏れず祐一郎は髪の毛をくるくるともてあそんでいる。

「うるせぇ、礼儀がなってないやつに喝を入れただけだ」

「喝を入れたというか、恐喝じゃないですか?」クスクスとバカにするような態度を取る祐一郎を見て森本は我慢の限界が来た。

「うるせぇ!お前なんか連れてこなけりゃよかった!」

「あ、あのー、、、」いつの間にかそこには目的の人物がいた。祐一郎とのやり取りで気がつかなかったようだ。

「あんたが吉田さん?」

「そうですが、警察の方が私になんの用ですか?」

「ここじゃ話しにくい。会議室みたいなのはないのか?」

「でしたらこちらに」吉田に連れられ、小規模の会議室に連れてこられた。普段ここで会議が行われているとなるとこの会社の価値がそれほどじゃないということが伺える。

「笠岡修二さんって人は知ってるよな?」会議室のドアが閉まった所で森本が切りだした。

「ええ。以前この会社で働いていた先輩ですが、、、笠岡さんがどうしたんですか?」

「死んだ。2日前に殺されたみたいだ」

「そ、そうだったんですか。誰に殺されたんですか?」

「それはまだ捜査中だ。それに」と、言いかけた所で会議室のドアが開いた。するとそこには見たことのある人物が立っていた。



桜子は母親から荷物を預かりそれを届けてほしいとお願いされたので、届け先に向かっていた。

「久々だな叔父さんに会うの」高まる気持ちを抑えられず、笑顔が溢れた。

しばらく歩くと目的のビルが見えてきた。叔父の会社はこの4階のビルの3階にある。中に入ると相変わらず殺風景な仕事場だなと感じた。今日は受付の人いないんだ。そう思いながら奥に進むと、小部屋の中に誰かいるようだ。覗き込むように中に入ると森本と目が合った。

「あ!さっきの刑事さん!なんでここ?あ!それと小鳥遊君も!」

「いちいち声が大きいですよ。まったく、本当に女の子なのか疑わしくなってくるね」嫌味たらしく祐一郎はそう言うといきなり「吉田さん。今日のお昼ご飯何を食べましたか」と聞き出した。

「は?」吉田はマメ鉄砲を喰らったかのような顔で聞き返した。

「なに?小鳥遊君は叔父さんと世間話でもしに来たの?」

「君は少し黙ってろ」祐一郎の顔が険しくなった。だが一切こちらを見ようとはせず、まっすぐ吉田を見つめていた。

「お昼は近くの牛丼屋で済ませましたけど、、、、」

「じゃあ次質問。笠岡さんが死んだと聞いてどう思いましたか?」

「そんなに深い関わりはなかったけど、同じ職場で働いていたし、人が亡くなったと聞いたら少し悲しいです。」

「最後に、、、気にならないんですね。笠岡さんがどうやって殺されたか。」祐一郎が少し笑みを含みながらそう言うと吉田の息が荒くなった。

「そりゃ気になりますけど、そっちがどんどん質問してくるし、こっちだって気が動転してるんだ!もういいだろ。これから大事な取り引き先に行かなきゃいけないんだ。これで失礼する」そう言うと会議室の扉を強く閉め出て行った。少しの静寂の後、桜子は祐一郎に尋ねた。

「さっきの話はなに?殺された?叔父さんが関係してるの?」桜子は不安そうに聞くとショックな内容の答えが返ってきた。

「吉田さんが殺したのかどうかはこの使えないおっさんが調べるとして、彼は何かを隠してる。僕の目からは逃げられない」祐一郎がそう言ったとたん森本は「なんだとてめぇ!」と祐一郎の胸ぐらを掴んだ。しかし祐一郎は何事もないかのように髪の毛をくるくるしながらあくびをしている。

「あっ!さっき森本さんが言ってたやつ!?小鳥遊君、特殊能力があるんだよね!」

「は?君はバカか。人間に特殊能力なんてある訳ないだろ」

「え?だって僕の目はごまかせないって言ったでしょ?なにか人には見えないものでも見えてるんじゃないの?」桜子が言うと祐一郎ははぁーと長いため息をつきながら「行動心理」と呟いた。

「え?」と桜子が聞き返すとこう言い放った。

「もう面倒くさい奴だな。自分で考えることは出来ないのか?」と言った所で何か深く考えて込んだ。ねぇと話かけてみたがまるで聞こえてないのかまったく反応がない。

「無駄だよ。桜子ちゃん。祐一郎は考え込むと周りが見えなくなるんだよ。」

「さっき小鳥遊君が言ってた僕の目からは逃げられないってどういう意味なんですか?」

桜子はさっき祐一郎が言ったことが気になり、そのことを訊ねた。

「こいつには人の動揺とか焦りとかその人が今抱いてる感情が手に取るようにわかるらしい。こいつは人の話を聞いてそいつが今どんなことを思ってるかを瞬時に感じ取れるらしいんだ。あれ、、、なんて言ったかな、、、言動論理だっけ」

「行動心理です。森本さんいい加減覚えてください。脳みそあるんですか?」先ほどまで考え事にふけっていた祐一郎が髪の毛をくるくるしながら鼻で笑った。

「全ての人間はそのとき抱く感情で普段とは違う行動をする。僕はそれを見抜くプロだ」勝ち誇ったかのようにそう言うと会議室から出て行こうとした。

「どこに行くんだ」森本が祐一郎に聞くと秘密と言って出て行ってしまった。


桜子は気になり後を追うと道で空を見上げ立ち止まってる祐一郎を見つけた。

「なにやってるの?」小走りで追ってきたので息が少し切れている。

「また君か。なんで君はいつも僕の思考を妨げるんだ!」そんなこと言われても、、、桜子はめげずに聞いた。

「さっきの事で何かわかったの?」

「人の話も聞かないとは、、、末期だな」祐一郎の言葉にいちいちイライラしてても始まらない。桜子はふぅーと少し息を吐いて改めて質問した。

「小鳥遊君は行動心理学で人を分析するのが得意なんでしょ?何かわかったことがあるなら教えてほしいな」

「まったくしょうがないな。そこまで言うなら教えてやろう」勝ち誇ったかのような笑顔を桜子に向けてくる。しかも少し煽てたらこの変わり様、、、なんだかおかしく思えた。

「吉田さんは嘘を吐くと必ず手を腰にやる癖が出る」祐一郎は髪の毛をくるくるしながらそう言った。正直まったく気が付かなかった。あの会話の中でそんな所を見ていたのか。

「後は何かを思い出したりするときは爪を見る。つまり、さっきの会話でおかしな点が浮上してくる訳だ」そう言うと桜子の目の前に人差し指を突きつけた。

「君にはそれがわかるか?」

「おかしな点って、、、吉田さんが嘘をついてたってこと?」

「それだけじゃないが、君にはわからないか、、、」額に手をやり、やれやれと言わんばかりの態度を見せてくる。いちいち腹が立つがそれよりも気になった。

「小鳥遊君は何がわかったの?この事件の犯人は吉田さんなの?」桜子は問い詰めた。もし叔父さんが犯人だったら、、、母の悲しむ顔、世間の目を考えると違うと言ってほしかった。

「事件?ああ。事件の解決は森本さんに任せる。僕はなぜ、吉田さんが嘘をついているのか。そこが気になってるだけだ。あ、あともう一つ気になることがあるが、いい機会だ。君も調査に加わるかい?まぁ僕の使えない助手として、森本さんには紹介しておくから」

「そんなこと言う必要ないじゃない!まぁいいわ。そこまで言うなら協力してあげる」捜査の行方が気になるのはもちろんだが祐一郎にこれ以上バカにされるのは癪だ。あとは叔父さんは犯人じゃない、、、それを証明したい一心だった。

「それでこれからどこに行くの?」

「笠岡さんの実家に行く。少し話が聞きたい。」祐一郎は桜子の歩幅など気にせずズカズカ歩いていく。それに着いて行くのがやっとだった。

そのあと特に話すこともなく、黙々と歩いて行くと急に祐一郎が足を止めた。どうやら目的地に着いたようだ。

「カバン、、、」ぼそっと呟いた。あまりの声の小ささに聞き返してみたが、そんなことはお構いなしに門の中に入っていった。

笠岡の実家は広くはないが綺麗に手入れが施されている庭に色とりどりの花が咲いていて上品な印象を受ける。ドアの前に立ちインターホンを鳴らすと少しして「はい、、、」と小さな声が聞こえてきた。

「笠岡さんすいません。警視庁の行動心理課の小鳥遊と申します。少しお話をお伺いしたいのですがよろしいですか?」ペラペラと話す内容があまりに衝撃で思わず「嘘ばっかり言って大丈夫なの?」と言ってしまった。祐一郎はただ黙ってドアが開くのを待っていた。ガチャッとドアが空き、中から笠岡の母親が出てきた。叔父さんより年上の息子がいるということは50歳は超えているのだが顔のやつれからかもっと老けている印象を受ける。

「警察の方がなんの用ですか」顔をしかめ、明らかに警戒している。気持ちも落ち着いていないだろうし、おそらく警察からたくさん話を聞かれたに違いない。顔にもうお前らに話すこともないし話したくもないと書いてある。

「実は息子さんの事件で進展がありましたのでこうしてお伺いした次第なのですが、、、」

「何かわかったら連絡くれるって話じゃなかったかい?」

「事情が事情なので、直接ご報告させてもらったほうがいいと思いまして。実は容疑者が見つかりました」そう祐一郎が言うとさっきまでのしかめっ面が消え、中に入ってくれと案内された。リビングの通されて、待っててくれと言われたのでイスに座ってなんとなく眺めてみた。意外と綺麗にしてるなー。顔の表情からするともっと散らかってるイメージがあったけど、、、と思っていると、麦茶が入ったグラスを持って笠岡の母親が戻ってきた。どうぞと言って麦茶を桜子と祐一郎に渡してくれた。

「さっきの話なんですけど、容疑者が見つかったとか、、、」

「ええ、かなり重要人物に目星を付けています。その前にお話をお伺いしようと思いまして。」かなり険しい顔をして笠岡の母親をじっと見つめている。さっきも確か同じ顔をしていた。あれは確か吉田の事務所で考え事をしていた時と同じ顔だ。桜子は緊張しながら2人を交互に見つめた。

「あのー、私はなにをお話すればよろしいのですか?」

「簡単です!息子さんとは最近お話しましたか?」

「いえ、もう息子は家を出ているので最近は、、、」私は何もしてあげられなかった、そう思っているのか下を俯いたまま動かない。

「そうですか。では息子さんは中学生の時部活は何をしてましたか?」祐一郎の突拍子もないことを言うと笠岡の母親は顔を上げた。おそらく何を聞いているのかと怪訝に思っているに違いない。

「息子はバスケ部でした。それが何か関係あるのですか?」

「いえ、まったく事件とは関係ありません。」祐一郎はきっぱりと言った。そしてさらに続けた。

「さっきの質問は事件とは関係ないですが、行動は関係あるみたいですね」

「関係ないなら何でそんな事聞くんですか!!さっきから刑事さんは意味のないことばかりしてる気がします!用がないなら事件を調べて早く犯人を捕まえてください」明らかに取り乱している笠岡の母親を落ち着かせる訳でもなく、祐一郎がくすっと笑った。

「早く事件を解決してほしいならまずあなたが隠していることを全て明かしてください」鋭い眼差しを向けたままそう言った。何を言ってるのかわからないという態度を見せる笠岡の母親だったが明らかに動揺していた。

「何を言い出すの、、、?私が嘘をつけていると言うの?」

「ほらまた左上を見ながら肘をさすった。」桜子はえっと声を漏らした。なんと祐一郎はこの短時間に相手をそこまで観察して、嘘をついているのか否かを判断していた。しかも癖まで見抜いて、、、桜子が呆気にとられていると祐一郎が得意げな表情を見せた。

「人間は思い出そうとしているときは僕からみて右上を見る。考えだそうとしているときは逆の左上を見るものなんだ。」髪の毛をくるくると回しながらも真っ直ぐ笠岡の母親の目を見つめている。その目はまるで全てを見抜いているような錯覚に襲われる。桜子がそう思うくらいなのだから実際に目を見つめられてる方はもっとその感覚があるに違いない。

「あなたは息子さんの中学生の時の部活を思い出している時はもちろん右上を見ていた。しかし最近息子と話をしたかどうか聞いた時、あなたは左上を見ていたんだ」

「そんなのたまたまに決まってるじゃない」耳まで赤くして反論する笠岡の母親を尻目に祐一郎はこう続けた。

「そう。さっき僕が言ったのはあくまでその可能性が高いと言うだけ。しかしあなたは動揺すると肘をさする癖がある。僕たちがこの家を訪問したとき、さらには僕が息子さんと話をしたか質問したとき、あなたは肘をさすっていたんですよ」祐一郎がそう言い放つとがっくり肩を落として「わかりました。お話します」と消えそうな声でそう言った。


笠岡の母親は息子の修二が最近借金の事で相談してきたこと、さらには会社の金を使っていてそれが最近明らかになってクビになったことなどを話してきた。そのことを話したら息子の印象が悪くなるから話したくなかったそうだ。それを本当に聞いているのか疑問な態度だった祐一郎は「最後に最近変わった様子はありましたか」と質問した。笠岡の母親が首を横に振ったのを確認すると「わかりました。ありがとうございました」と家を後にした。

「これからどうするの小鳥遊君」

「君はもう帰ってくれ。僕は1人で考えたいことがある。君がいると邪魔なんだ」と遠慮無しに言ってきた。少し頭に来たがぐっと堪え「ああ、そうですか。じゃあ帰らせて頂きます!」と舌を出しながらしかめっ面で返したが華麗にスルーされた。事件の事も気になるし、祐一郎がどんなことを考え、事件を解決してくれるのか気になったが、邪魔と言われたし、正直疲れていたので帰ることにした。「じゃあ明日また学校でね。」と言い残し、歩き出した。

ー行動心理学か、、、私の癖も何か見抜かれてたりするのかな。と考えてながら。


祐一郎は桜子が帰ったのを確認すると、森本に電話をかけた。

「おう。なんだ」

「色々調べてあげているんですからなんだはないでしょう。まったく、その年になってお礼も言えないんですか」

「うるせぇ。なんかわかったのか」

「ええ。とりあえず証拠隠滅される前に八巻商事に戻りましょう」そう言うと祐一郎は電話を切った。

少し歩くと八巻商事のビルが見えてきた。時間は夜の8時を回っていたがビルの明かりはまだ点いていた。万が一のことに備えてビルの入り口付近の壁に寄りかかり、森本の到着を待った。すると寛太が入り口から出てくるのが見えた。

ーまずいな。祐一郎は壁に背を当てて様子を伺っていると寛太は車に向かって歩いていった。

ーこのまま逃げられて、証拠隠滅をされるのも面倒だな、、、。しょうがない。ふぅーと軽く息を吐くと走って寛太のもとに向かった。

足音に気づいた寛太が振り返ってきた。祐一郎の姿を見つけると不敵な笑みを浮かべてきた。

「これはこれは。さっきの刑事さんじゃないですか。こんな時間に何の用ですか」

「実は1つ謝らなければならないことがあります。実は僕は警察じゃありません。行動心理を学んでいる学生です」祐一郎がそういうと寛太は眉間を皺を寄せて怪訝な表情を浮かべた。

「学生だと?行動心理?」

「そうです。あなたの行動を観察し、あなたが隠していることを暴きに来ました」

「なんだかよくわからないが、君は邪魔みたいだな」そう言うと小さなカバンの中からスタンガンを取り出した。

「少しの間だけ眠ってもらうよ」勢いよくスタンガンを片手に突進してきたのを祐一郎はなんとかかわした。

「反射神経はなかなかいいな。でもいつまで逃げられるかな」

「森本さん今です!!」祐一郎が叫ぶと寛太は後ろを振り返った。しかしそこには誰もいなかった。その隙に祐一郎はスタンガンを持っている手を蹴り上げた。その衝撃でスタンガンは寛太の手から離れた。

「くそっ!」寛太が落ちたスタンガンを取りに行こうとした瞬間「吉田寛太だな。そこを動くな。話を聞きたいから署まで来てもらおうか」ちょうどよく森本が登場し仁王立ちで寛太を見下ろしていた。寛太はがっくりと肩を落とした。


取り調べで寛太は笠岡修二の殺害を認めた。会社の金で借金を返したのが笠岡にバレて、金を巻き上げられていたそうだ。笠岡は寛太と同じ職場で働いていたがリストラに会い、それ以降仕事はしていなかった。なので、寛太が会社の金を使っているのを知った笠岡は寛太を脅して生活費を巻き上げていたが、最近は多額の金を要求するようになった。あまりに多額の金のため難しいと話したら

「会社に言っていいんだな。そしたらお前は何もかも終わりだ」その言葉を聞いた瞬間気がついたら会議室にあった鉄アレイをカバンの中に入れ殴ってしまっていた、、、との事だった。

ちなみに祐一郎に言われてカバンはもう調べてあった。会議室で祐一郎と寛太が言い合っている隙をみて、カバンの端を少し切り鑑識に回した結果被害者の血液反応があった。全て祐一郎が指示したことだった。

ー食えねぇ奴だな。森本は鼻で笑いながら今ごろ髪の毛でもクルクル回してる祐一郎の事を思っていた。


桜子は法学部の教室に向かっていた。数日前の事件から関わって以来久しぶりに祐一郎に会う。叔父が捕まったという事を森本から聞いたときはショックだったが、少しスッキリした気持ちもあった。ちゃんと罪を償ってほしい。そう思っていた。そんなことを思っていると数日前と同じような言葉が聞こえてきた。

「隠しても無駄だ。僕の行動心理学は外れないからな。正直に話してはどうかな」恐る恐る教室のドアを覗くとやはり祐一郎がまた生徒と言い合ってる。

「あのー、祐一郎君?」声をかけると「また君か、、、」とため息をつきながら近づいてきた。

「なんの用だ。今僕は忙しいんだ。世間話なんてしてる暇ないんだぞ」

「この前はありがとう。事件を解決してくれて。森本さんから全部聞いたんだ」

「あの阿呆刑事は、、、一般人に情報流すとは終わりだな」

「1つ聞きたいんだけど、なんで叔父さんが犯人ってわかったの?」

「吉田さんが犯人という目星はもともと警察がつけていた。だが凶器もわからなかったらしい。僕は凶器とか動機とかそんなのはどうでもいい。気になったのは『笠岡さんが死んだときどう思いましたか』と聞いたとき彼は一瞬だったが左上を見た」桜子からむかって右上を指差した。

「人は考えると左上を見る。つまりどう感じたかとい質問なのに何かを思いつこうと考えるのはおかしいだろ?この前も言ったように吉田さんは嘘を吐くとき必ず腰に手をやる。だから僕はあえて吉田さんを怒らせた。心を乱せば必ずボロが出る。そして決定的な事が起きた」祐一郎は得意げにそう言うとぐいっと近くに寄ってきた。

「君は気付いたかい?吉田さんは自分のカバンに目をやったんだ。そのカバンが吉田さんにとって致命的なものだったんだろう。だから森本さんに調べてもらったんだ」

「そうだったんだ。でも叔父さんはなんでそのカバンを捨てなかったのかな」カバンさえ処分してしまえばもしかしたら犯罪が明らかにならなかったかも知れないのに、、、桜子不思議に思った。

「人間はいざ自分に不利な証拠があって処分しようにも何かが不安になってそう行動するのが難しくなるのさ。捨てようにもその瞬間を見られたらとか、燃やしたりするにも目立つとかね。あえて自分で持っていればいざとなったらすぐどこかに隠せたり、そんな大事な証拠をわざわざ持ってる訳がないという固定観念を逆手にとって堂々としていられる」

「なるほど。さすが行動心理学だね。祐一郎君本当にありがとう」桜子がそう言うと祐一郎はバツの悪そうな顔をして、そっぽ向いてしまった。

ー意外と可愛いところもあるんだな。と思っていると祐一郎があっと声を上げた。

「なに?どうしたの」桜子が聞くと、

「君も来るか?面白い事を思いついたんだ」

祐一郎は目をキラキラさせてそう言うと廊下を勢いよく走って行った。

ー本当に同い年なの?と思ったりしたがやはりなの観察眼と洞察力には驚かされた。

「私も少し勉強してみようかな」そう呟くと祐一郎の背中を走って追いかけた。

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