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【episode4 〜出会いの刃〜】

 第二実習室で行われた模擬戦は第10班の圧勝だった。本物の武器や魔法は使用されず、授業用のそれぞれの武器が使用された。その武器は柔軟性のあるゴム製であり、銃弾もゴム製の物で身体への衝撃を減らせるものだった。


「何か生温い戦闘だったな」

「まさか二人対六人で勝ったつもりにならないよね!? アイツら、デカい顔したら私が喰ってやるんだから! 」

 模擬戦の戦闘の様子ではなく、ミルはツバサ達が不利な戦闘を強いられたことに腹を立てている。確かに人数差は3倍。圧倒的不利な状況だった。しかし、真の戦場を知っているハルトにはその考え自体が生温さを感じていた。それは数々の修羅場を潜り抜けて来たからだ……



 5年前。


 毒染虫に侵略されたエターニア王国から脱出したハルトは、軍事国家タタロスへと向かって歩いて行った。幸いにも家に戻り、お金を持ち出す余裕はあった。

 タタロスはエターニア王国に隣接する国であり、人も多い。しかし、タタロスでは軍事が最優先される。つまり、力のある者が上に立ち、力のない者が下となる。

 ハルトにとってタタロスは都合の良い国だった。要は力さえあればいいのだ。自分の力を試すため、そして成長するためには好都合だった。


 エターニア王国からタタロスまで、3日も歩けば辿り着いた。ミルと出会ったのはタタロスに着く当日の、丁度日が昇った時である。


「おい! お前大丈夫か!? 」

「……お腹……空いた」


 タタロスの手前にあった森の中で倒れていたミルにハルトは持っていたパンを食べさせ、水を飲ませた。ミルは見知らぬ男に警戒するどころか、むしろハルトに着いて行く、と言い出したのだ。


「俺は遊びに行くんじゃないんだ! 」

「私も遊びじゃないよー! ミルはハルトの手伝いしに行くのー! 」

「……勝手にしろ! 」


 とりあえずタタロスまで連れて行く、という形で一緒に向かった。



 タタロスに着くと、街は人でごった返していた。

「すっげえ! 見ろよミル! この人の数! ……エターニア王国よりも人が多いぞ! 」

 多くの建物、店や屋台が並べられた商店街。商人や町人、そして兵士が大勢いる。普段はクールなハルトだが、その時の興奮は抑えられなかった。


 ハルト、やっと笑ってくれた!


 ミルは会って間もないハルトに対し、既に親近感を覚えていた。そして、ハルトの左腕に抱き着く。ミルがハルトの左腕に抱き着くのは、この時からだった。

 それから街の中を歩いていると、広場に出た。中心には噴水もある。ハルトが興奮して辺りを見回していると、ミルが何かに気付いた。


「ハルト、あそこで戦闘が起きてるよ? 」


 振り返ると、広場の隅に人集りが出来ている。ミルの言葉に気になり観に行ってみると、

「やれやれー!! 」

「こんなクソガキぶっ倒せー!! 」

 と観衆がヤジる中、身体付きの良い中年兵士とハルトより2、3歳ほど年上の青年が剣を手に取り、構え合っていた。ハルトは隣に立つミルに小声で、

「何で戦闘だって分かったんだ? 」

 と聞いてみた。するとミルは、

「え? だって、ここから凄い殺気を感じたからだよ? ハルトも感じたでしょ? 」

 とあっさり言ってみせた。その時ハルトはミルに少しだけ興味を持った。鍛錬を積み、何でも身に付けたつもりだったが、自分が感じられなかった殺気をミルは感じていたからだ。


 うわぁぁぁー!!


 剣をあまり使いこなせていない青年は、すぐに剣を弾き飛ばされてしまった。中年兵士は剣の矛先を青年の顔に向け、言い放つ。

「さあ、国の兵士様に楯突いたんだ! 貴様ら平民の安全を守ってやっているこの俺達にな! 指の2、3本切り落としてやろうか!? 」

 中年兵士が高らかに笑うと、観衆の民間人も笑い出した。本気で笑っているわけではなく、恐らく力を持つ兵士を立ててのことだろう。しかし、ハルトは耐えられなかった。


 この国は何て腐っているんだ!?


「……ハルト? 」


 ハルトは観衆を掻き分け、中年兵士の前に立った。そして、青年の剣を持った。

「何だてめーは? 邪魔するんじゃねー、さっさと消えろガキ」

 ガキ、と言われ益々カチンと来た。

「この剣借りるよ。……おい、おっさん」


 ひいぃー!!

 やめろお前ー!!


 小声で観衆はハルトに怒っている。どうやら観衆からすれば、この中年兵士を怒らせるのはマズいことなのだろう。案の定、40程も歳の離れた少年におっさん呼ばわりされたことで、中年兵士は怒りでワナワナしている。そんなこと知ったことではないハルトは益々挑発した。


「偉そうに剣振り回しやがって、そんなにてめえは偉いのか? てめえは他人を罰せるほど偉いのか? 」


 いい加減にしろお前ー!!


 またも観衆は小声で怒っている。

 そして、ハルトが「てめえ」と呼んだことで中年兵士の怒りは爆発した。

「小僧……貴様は打ち首の極刑だ!! 」

 大きな動作で中年兵士は剣を振り下ろした。

「ハルト!! 」

 咄嗟にミルの声が聞こえた。ハルトは切っ先を中年兵士の剣のしのぎに当て、軌道を変える。中年兵士の剣は地面に突き刺さり、ハルトはその瞬間、僅かの隙に中年兵士の懐へ入り剣を首に突き付けた。

 中年兵士は降参の証に両手を挙げ、膝を地面に付けた。

「ゆ、許してくれ……」

「偉そうなことすんじゃねえよ。……さっさとどっか行け」

 中年兵士は尻尾を巻いて広場から走り去って行った。その瞬間、観衆から大きな歓声が沸いた。


 すげーぞ坊主!!

 あの兵士、正直面倒だったんだよな!!


 しかし、ハルトは幾ら感謝されても微塵も嬉しくはなかった。それでも、

「ハルト凄いよー! あんなに強いだなんて、カッコ良かったよー! 」

 ミルにそう言われると、悪い気はしなかった。



 観衆が広場から離れて行くと、中年兵士に挑んで負けた青年が二人の下へ来た。

「先程はありがとうございました! ……あの兵士、いつも街の人々を威嚇する様に大きい態度とっていて……本当にありがとうございました! 」

「いいよー! ハルトは正義の味方だもん! 」

 何故かミルが勝手にお礼を受けていた。

 青年が去って行くと、

「……感謝されるのも、悪くないんだな」

 ハルトがそうボソッと呟いた。ミルは目を輝かせ、ハルトの両手を握った。

「そうだよハルトー! ハルトは強いんだから、これからも皆をもっともっと助けなくちゃ! 」

 ハルトは表情を崩し、ミルと笑い合った。



「……彼には……殺しの才があるわね」



 物陰からハルトを見つめていた一つの黒い影はそう呟くと、奥の暗闇へと姿を消して行った……





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