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【episode2 〜転入生の刃〜】

 それから5年後。


「やあぁーっ!! 」


 ツバサが放った2つの弾丸は、最後の仮想毒染虫バーチャルドルソの頭部を貫いた。

「さっすがツバサ! もう本物の毒染虫も倒せちゃうんじゃない? 」

 ツバサとら同じ授業、上級実戦訓練を受けている女子生徒がそう言ってツバサにタオルを渡した。


 ここはクアトル大陸にある学園都市「シュベルツ」。人口の7割が学生で成り立っている。

 5年前に起きた毒染虫の出現。それはシュベルツも被害を受けた。しかし3人の優秀な魔法使いにより、毒染虫だけが侵入を許されない結界を築き上げられ、被害はほんの僅かに収まった。

 そして万が一に備え、シュベルツは毒染虫に対抗するために戦闘教育機関「シュベルツ学園」を設立した。

 今現在も結界は張られたまま、シュベルツは平和な日々を過ごしている。


「本物の毒染虫ね……一体どんな敵なのかしら? 」

 ツバサは受け取ったタオルで額の汗を拭った。

 ツバサを含めシュベルツの人間は、ほとんどが毒染虫を知らない。結界に守られた平和を信じ、シュベルツ学園での戦闘訓練は生温いものになっている。今までツバサが戦っていた仮想毒染虫も、本来の毒染虫とはかけ離れた弱さだった。


「おーい! ツバサー! 」

 同じ班の班員であるレオルがやって来た。

 レオルは逞しい身体付きをした好青年。陽気な性格で誰からも人気がある。他人嫌いなツバサも、レオルとは仲良く出来た。

「どうしたのレオル? 」

 レオルは膝に手を着いて息を切らしながら言った。

「他国から新入生が来たらしいぞ! しかも二人もだ! 」

 ツバサはそれを聞いた途端目を見開いた。瞳が輝いている。

「本当なのレオル!? なら早速アタシ達の班にスカウトしに行くわよ! 」



「……はい。では失礼します」

 ハルトはこの5年間で完全に大人びていた。革の黒い服を着て、腰には剣を差している。そしてその隣には、白のワンピースを着た白髪のロングヘアの美少女が立っていた。その少女は肌も白く、手足が細々としている。


 シュベルツ学園の学園長が出張中のため、副学園長に今日から転入する旨を伝え、会議室から出た。その瞬間、隣に立っていた少女がハルトに抱き着いた。

「ハルトー! 私もハルトと同じ部屋が良いー! 」

「ダメだ。俺は男子寮、お前は女子寮って言われただろ? そもそも男と女が同じ部屋はマズいからな」

 ハルトは冷静に少女を自分から引き離した。


 少女の名前はミル。5年前、エターニア王国から軍事国家タタロスへと向かう際に通った森の中で二人は出会った。大木の下で餓死しかけていたミルを助けたことが二人の関係の始まりである。二人の関係と言っても、二人が恋人というわけではない。ハルトに恩を感じたミルが片想いなだけなのだ。


 学園内を二人で歩いて見回る。相変わらずミルはハルトの左腕に抱き着いて離れようとしない。楽しそうに頭を左腕に擦り付けるミルを見ていると、どうしても突き離すことが出来ない。ミルは今のハルトにとって、唯一の家族のような存在だ。


 座学の教室を見終わり、ハルトとミルは芝が整えられた広大なコロシアムに向かった。コロシアムは縦70m、横120mもの大きさで、戦闘訓練は主にこのコロシアムで行われているという話だ。


 観客席からコロシアムを見渡すと、何やら争いが起こっていた。一方は二人組の女子生徒、もう一方は六人組の男子生徒。お互いが武器を手に取り、一触即発の戦闘が始まりそうだ。


「……ミル」

「分かってるよハルト! 」


 観客席からハルトとミルは芝の上に飛び降り、生徒達の間に割り込んだ。

「何だてめーら? 」

「邪魔するんじゃねーよ! 」

 女子生徒達は武器を構えているが、男子生徒達に怯えている。その一方、男子生徒達はハルトとミルが間に割り込んだことに腹を立てている。


「喧嘩は構わねえけどな、やるなら2対2で正々堂々戦えよ。女二人に対して男六人はダセえぞ? 」

「そうだそうだ! それでもキン○マ付いてんのかー!?」

 はしたない暴言を吐き出したのはミルだ。その言葉が癇に障った男子生徒達の矛先は完全にハルト達に向けられた。


「だったらてめーらが相手してくれよ? こっちは相手してくれる奴がいなくてうんざりしてたんだ」

 男子生徒達はニヤついて武器を構える。その言葉を待っていたハルト。

「全員でかかって来いよ。こっちは二人で十分だ」

 そう挑発した瞬間、男子生徒達はハルトとミルに向かい、一斉に襲い掛かって来た。ハルトには二人、ミルには四人。見た目から見て、明らかにミルの方が倒しやすいと考えたのだろう。


 あーあ、……ご愁傷さま


 ハルトはミルに襲い掛かる男子生徒達を見てそうボソッと呟き、目の前の男子生徒二人に向けて構えた。一人は魔法使い、もう一人は短めの剣と銅製の盾を装備している。対するハルトは何一つ武器を手にしていない。しかしあらゆる観察力に長けているハルトは、至って冷静に攻撃を回避した。

 まずは剣と盾を持った男を狙った。剣を振り下ろす時には、男は盾を自分の身体に引き寄せる。人間の身体の作りがそうなっているのだ。戦闘に慣れている戦士でさえほんの僅かだが盾を引き寄せてしまう。それを見切ったハルトは剣が振り下ろされると同時に後方に避けた。そして剣が芝に突き刺さると、男の懐へ瞬時に入り込み腹部へ強烈な拳を突き刺した。その男は気を失い白目を剥いて倒れ込んだ。


 もう一人の魔法使いの男は、杖を振ると男の目の前に円状に並べられた術式が出現し、そこから無数の火の玉が飛び出した。ハルトは先程倒した男の剣と盾を手に取り、火の玉を盾で防ぎ、剣を男の術式に目掛けて投げ付ける。術式は剣が突き刺さり破壊した。男はすぐに別の術式を組み直そうとしたが、それよりも早くハルトがその男の脇腹を蹴り飛ばした。


「おいミル……ってもう終わってたか」

 ミルを見てみたが戦いは既に終わっており、ミルの周りには腹部を押さえてうずくまる男達の姿があった。

「ハルトー! ハルトの言う通り、人間は殺さなかったよー! 」

「そうだな。よくやったぞ」

 褒めて褒めてと言わんばかりにミルはハルトの左腕に頭を擦り付けている。


「あ、ありがとうございます! 」

「これから友達と戦闘の練習しようとしていたところをこの人達に場所を横取りされそうになってて……あの、お名前聞いてもいいですか? 」

 男子生徒達に襲われかけていた女子生徒二人が感謝して来た。正直感謝されることに慣れていないハルトは、

「いや、こいつらがムカつくから倒しただけだ」

 と言ってコロシアムから颯爽と出て行った。



 それから10分後。


「どこだー転入生ー!? 」

「さっさと出て来なさいよ! 」

 学園中を走り回ってハルト達を探すツバサとレオルがコロシアムに着いた。そこには二人の女子生徒がいる。

「ねえアンタ達、二人の転入生を見ていないかしら? 」

 ツバサが女子生徒に尋ねると、

「あ、さっき私達を助けてくれた人達のことかな?」

「その人達ならついさっき、ここから出て行っちゃったわ」

 それを聞いたツバサとレオルは肩を落とした。しかしすぐに、

「落ち込んでいる場合じゃないわよレオル! すぐにまだ探していない場所に向かうわ! 」

 ツバサは息を切らしているレオルの腕をお構い無しに引き、強引にまだ知らないハルト達を探しに再び走り出した。


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