【episode1 プロローグ 〜復讐の刃〜
平和な日常。
そんなものはたった一瞬の出来事で奪われる。
5年前
クアトル大陸の4ヶ国の1つであるエターニア王国。それが香月ハルトの故郷だった。
ハルトは子供ながらにして、エターニア王国では名が知れた剣術使いであった。
女手一つで育ててくれている母を守るためにも強くなる。そのために、一日たりとも剣術を磨くことを怠らなかった。
そう、あの日も同じ……
いつもと同じ様に家の庭で竹刀を振っていると、突然雲行きが怪しくなって来た。それを不審に感じたハルトは急いで1km程離れた場所にある、母の勤める町工場へと向かって走り出す。
走っている最中、街のあちこちで爆発音や建物の崩れる音が聞こえて来た。その中には微かだが悲鳴も混じっている。
やはり何かあったのだろう。余計に母が心配になり、ハルトは走るペースを上げた。
「母さん! ……母さん!! 」
3分もしない内に町工場に着いた。しかしそこは、ハルトの知っている以前の町工場の姿ではなかった。
天井は崩れ落ち、工場内には火の手が上がっている。
「母さん! 何処にいるの!? 」
何が起きているか分からない恐怖心から、ハルトは火が回っていない場所を見つけ、近くにあった鉄パイプを持って工場内に入った。
中に入った途端、全身が青く変色している老婆や血だらけの若い女性が倒れていた。その光景に怯えていると、奥の方から誰かの悲鳴が聞こえた。
ハルトだけにはそれが誰の声なのかはすぐに分かった。
「母さん!? 母……さん? 」
それは信じられない光景だった。全長5mを越す程の巨大な蜈蚣がハルトの母を捕食しているのだ。母は全身血だらけになりながら悲鳴を上げている。既に両脚が喰い千切られている。悲惨な光景を目の当たりにしたハルトは、我を失った。
鉄パイプを握り締め、上段から巨大蜈蚣の頭部に鉄パイプを叩きつけた。しかし強靭な硬度を誇る蜈蚣の甲羅には傷一つ付かない。巨大蜈蚣はハルトを睨みつけた。
母はハルトの存在に気付いた様だ。
「ハル……ト、逃げなさい……」
母は意識が朦朧とする中、ハルトの顔を見てそう言った。
「嫌だ……嫌だよ母さん! こんなの……」
ハルトが母に駆け寄ろうとするが、自分の獲物だと言わんばかりに母の前に立ち塞がる。
「逃げなさいハルト……! あなたは……生きて……」
その瞬間、巨大蜈蚣は母に向けて口を大きく開けた。そしてそのまま母へ襲いかかる。
止めなければ!
そう思いながらもハルトはその場から動けずにいた。巨大蜈蚣が母に襲いかかろうとしたその時、母はハルトの顔を見て満面の笑みを見せた。
その瞬間……母は巨大蜈蚣に襲われた。
ハルトは無残な母の姿から目を背け、その場から逃げ出した。目に涙が浮かび上がり、今にも立ち止まって泣き出したい。それでもまずは逃げ延びることが先決だ。
町工場から離れ、街に戻ろうとしたが街中が巨大蜈蚣の仲間と思われる巨大な昆虫や寄生虫に襲われ崩壊していた。
この王国は既に巨大生物に汚染されている……
母の死に様を思い出したハルトは泣き出した。声を上げて泣いた。そして、悲しみと共にあの巨大蜈蚣に対して怒りが込み上げて来た。
「あの巨大蜈蚣!! 絶対俺が喰ってやる!! 」
生き延びるにはこの王国から出なければならない。そう悟ったハルトは母の復讐を胸に、隣国である軍事国家「タタロス」へと向かって歩き出した……。