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【episode11 〜衝突の刃〜 】

 無数の毒染虫の侵略……


 倒壊していく建物の数々。

 斬り裂く度に飛び散る毒染虫の血飛沫。

 人間の遺体の山。


 目の前でゼノビアが蟷螂型毒染虫に身体を斬り裂かれる。


「ゼノビア!? ……ゼノビアー!! 」





 咄嗟に起き上がると、そこは病室の中だった。


「……また夢か…… 」


 毒染虫侵略の日から2日後のことだ。



 昨日見舞いに来たイシュダルから聞いた話だが、学園都市シュベルツの三分の一の土地を毒染虫によって奪われた。

 毒染虫の侵略を止められない、と判断した学園長は、自らの手で再び対毒染虫の結界を張ったという。

 これによって毒染虫の侵略を妨げられたものの、奪われた土地はシュベルツの食料生産地であり、中心地には蓄えが少ない状況に陥っている。



 窓の外をぼんやり眺めていると、ドアをノックする音がした。


「……ハルト、大丈夫? 」

「見舞いに来たぜ」


 病室に入って来たのは、ツバサとレオルだった。

 ツバサは白い薔薇の花束を持ち、レオルは多くの果物を持っている。


「ああ、お前らか」

「気分はどうだ?

 ……ったく、ビックリしたぜ。ミルから連絡聞いて出撃したら、すぐに蟷螂型毒染虫の死骸の隣でお前まで倒れてたんだからな」


 レオルの言う通り、ハルトは蟷螂型毒染虫を倒した直後、気を失って倒れたのだ。



 昨夜は、ゼノビアの「死」を受け入れられず、病室をめちゃくちゃにした。

 注射された麻酔も効かず、仕方なくアリシアを呼び、加減をした雷でハルトを強引に眠らせたのだ。


「レオル……ミルはどうしてる? 」

「……ゼノビアさんを守れなかったことを悔やんで、お前に会いに来るのを拒否してる。

 ……お前から声掛けてやった方が良いんじゃないか? 」

「俺もそうしたいんだが、何てったってミルは頑固だからな。無理やりにでも話をしないと駄目だ」


 ミルはゼノビアが死んだことを自分の所為だと自分を責め、ハルトに会うのを拒んでいる。


 自分がいれば助けられた……


 しかし、ミルのその考えは、ハルトを逆に苦しめていた。

 それはハルトの力を完全に信頼し切れていない証拠である。

 レオルの報告を聞いたハルトは自分の弱さ、そしてミルからの信頼の足りなさを痛感した。


「まあとりあえず今は休んどけよ。主任の先生も考慮してくれるらしいからな」

「何かあったら私達に言ってね! 」


 ハルトに対して親切にするレオルとツバサ。

 ハルトは二人を無表情で見送った。

 そして再び窓の外をぼんやり眺め始めた……



 *********************



「こんな所にいたのか」

「あ、レオル」


 ハルトの病室から帰ったレオルは、ミルが心配になり探していた。

 ミルはコロシアムの中心にポツンと一人、佇んでいた。

 何処と無く力の抜けた様子は一目で分かる。


「ハルト、昨日より元気だったぞ。お前もそろそろ会いに行ってやったらどうだ? 」


 しかしミルは黙ったまま首を横に振る。

 その様子を見兼ねたレオルは、ミルに対してある提案をした。


「ミル、俺と……本気マジで勝負してくれないか? 」

「えっ? 」


 ミルは少し驚いた表情を見せる。


「お前の本当の力を見せてくれよ。ハルトにも勝てない俺だけど、いずれはお前も越したいんだ」


 悩んでいるようだが、やがてミルは、

「後で後悔しないでねレオル。私、ハルト相手でさえも加減できないから」

 と、渋々承諾した。



 レオルは今までに無い程、力を込めて身構える。

 対してミルは、ただ直立しているだけだった。

 身構えながら様子を伺う。

 しかし、その瞬間レオルは突然僅かに意識が飛んだ。


 目の前に火花が散る様にチカチカする。

 どうやら身体が宙に舞っている様だ。

 気付いた頃には、レオルはコロシアムの内壁に強く打ち付けられていた。


「……だから言ったのに、レオル」


 心配になったミルは、レオルの下へ走って来た。

 レオルはフラつきながら立ち上がり、ミルの頭に手を置いて言う。


「この力があれば、いつだってお前はハルトを助けてやれる。お前だけなんだよ、ハルトを助けてやれるのは。

 ……自分を責めちゃ駄目だ! とことん現実と思いっきりぶつからないとな! 」


 身体はボロボロになりながらも、レオルの言葉には強さがあった。


 それに対してミルは、

「……ありがとうレオル! やっぱりいつだってハルトは私が助けないとだよね!

 ……ハルトの所に行って来るね! 」


 元気を取り戻したミルは、いつもの様な明るい笑顔を見せてハルトの下へと駆け出して行った……





「誰だてめえら? 」


 その頃、ハルトは病室で5人の何者かに囲まれていた。

 シュベルツ学園の制服でも、他の学校の制服でもない。

 それぞれがバラバラだが、全員が地味な服装をしている。


「先日の毒染虫の迎撃は見事でした。よって、貴方を私達の同胞として迎い入れます」


 背の高い細身の眼鏡をかけた男が丁寧な口調でそう言った。

 何を言っているのか、ハルトにはさっぱりである。

 身構えているのがハルトだけで、ハルトを囲む5人はまるで無防備。

 こちらを襲う気は一切無さそうだ。


「俺は他の奴らより、少し毒染虫との戦闘に詳しいだけだ。何も認められる様なことはしてねえぞ」


 ベッドに腰を下ろし、対話を続ける。


「いやいや、この前俺も少しお前の戦いぶりを見てたんだけどな、あの蟷螂型毒染虫との戦闘は凄かったぜ! 」


 赤い髪を真っ直ぐに立てた、つり目の男は少し興奮気味だ。


「その話を……その話を住んじゃねえ!! 」


 ゼノビアのことが頭に浮かんだハルトは、頭に血が上り、その赤い髪の男に殴り掛かろうとした。

 しかし、

「まあまあ、少し落ち着けよ! 」

 と、小柄な男がいつの間にかハルトの背後に回り、右腕を掴んでいる。


「フォルテ、君も軽薄な言動はよせ」

「あー悪い悪い! 」


 病室の空気が落ち着くと、改めて眼鏡の男が右手を差し出し、ハルトに向かってこう言った。


「香月ハルト君。

 ……貴方を……シュベルツ学園警衛隊の隊員に任命します」




 静かに闇が動き出す……


活動報告でも言いましたが、これは第1章としての完結です!


「ロスト」というシリーズで描いて行くつもりなので、今後も第2章連載開始した際には是非ともご拝読よろしくお願いします!

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