コンビニ
「いやぁ昨日はヤバかった」
客が誰もいないのをいい事に、俺は夜勤の店長に愚痴をこぼした。
深夜のコンビニ。時刻は二時を回っており、客足が途絶え始める時間帯だ。
季節も寒くなり、おでんや肉まんが売れる時期。店長が肉まんの準備をしている。
俺は昨日あった事を店長に愚痴っていた。
「昨日あれですよ、なんか困ってた女の人がいたんすけど、声かけたら痴漢と間違われて、ギャーギャー騒がれちゃって」
「あ~あれだよ君ぃ、最近ここら辺で変質者が出るって言うからねぇ」
「ホント勘弁してほしいっすよ。こっちは善意で声かけただけなのに」
「あれじゃない。君その時下半身丸出しだったんじゃない。ダメだよ男は下半身丸出しじゃ、出していいのは頭だけだからね」
「出してねえよ、それただの変質者じゃん。てか頭出すって意味解らないんだけど」
「カツラなんか邪道だよね。髪の毛なんか邪魔だよね。男なら太陽反射させるくらいじゃないと」
「でも店長あれですよね、まだ期待持ってますよね。だって微妙にスダレだもん。まだ髪の毛集めてるもん」
俺は店長の頭部を見る。
そこにはバーコードが見えた。
「は? 何いってんの? ちょっとちょっと~それじゃああれじゃん、俺がまだ執着あるみたいじゃん。やめてよもう本当に~俺そういうの気にしないんだから」
「いやでも店長まだ三十代ですよね? 三十代でその頭部結構ヤバいんじゃないですか?」
「おいおい世の中の三十代はみんなこんなもんだって。みんなスダレ隠すためにカツラ被ってるんだって。あいつら見ろよ、毎朝鏡見てチェックしてるんだぜ? もうさ、諦めが悪いって言うかなんて言うか、見てて哀れだねホント」
そんな店長だが、商品陳列の時に育毛コーナーでいつも真剣に商品を見ているのを俺は知っている。
「そういう君こそあれじゃない、下半身丸出しじゃない?」
「出してねえよなんでだよ」
「いや、そのズボンもペンキとかそんな感じで描いてるんじゃない?」
「どんだけ芸術家なんだよ。どうしてそんなに俺を変質者にしたいんだよあんた」
「いやいやはっはっは、ごめんごめん」
「まったく冗談もほどほどにして下さいよ」
「いや~本当にごめんねぇ。あ、ちょっと電話かけてくる」
「あい~」
店長が裏に行った。
こんな時間にかける相手とは、誰だろうか?
家族・・・こんな時間に迷惑だろう。
友達・・・上記に同じく。
会社・・・上記に(略)
じゃあ誰だ?
気になり俺も裏に行ってみた。
ちょうど電話かけるところで、番号が見える。
番号は「1」「1」・・・
「いや、ちょ、何やってんすか」
「ん? あれどうかしたの?」
「いやどうかしたのじゃねえよなんで110番かけようとしてんだよ」
「いやほら、変質者とか危ないじゃない」
「いないじゃん今、変質者いないじゃんかける必要ないじゃん。俺か? 俺の事かこの野郎」
「何かあってからでは遅いのだよ」
「遅いじゃねえよ! なんであんたは俺を変質者扱いしてんだよ!」
「誰も君の事なんて言ってないしぃ~」
「なんで女子高生口調? ムカつくんだけど、なんか凄いムカつくんだけどこの人」
「あ、お客様が来たぞ」
振り返ると若い男が入ってきた。恐らく弁当辺りを買いに来たのだろう。
俺はレジに戻る。
店長は電話をかける。
「おいぃぃぃぃぃぃ!! なんでだよ! なんでまだ諦めてないんだよ! そんなに変質者にしたいのかあんたは!」
「諦めたらそこで終わりだって先生が・・・・・・」
「意味が違うからね。全然用途間違ってるからね。俺は変質者じゃないからね」
「いやでも、下半身丸出しで言われても・・・・・・」
「いい加減にしろよ! ほら、お客さんが来たんだから仕事して!」
「ああはいはい」
店長は電話を置いてレジに戻った。
俺は用心の為に裏口の近くに待機する。
店長がレジを打つ。
「680円です。温めますか?」
「あ、お願いします」
「解りました」
店長はそう言うと、お弁当と飲み物が入った袋を持ちあげ電子レンジに行く。
そしてそのまま入れ温め出した。
「っておいいいいいいいいいいいいいい!! なんで飲み物まで温めてるんだあああああああああああ!!」
「いや、お客さんが温めるって」
「弁当だけえええええ! 弁当だけだからあああああ! そこは普通そう捉えるだろうがぁ!」
「いや、今更言われても、最初からそう言ってもらわないと解らないし」
「常識だろおい。何処の世界にコンビニで缶ジュースの炭酸温める奴がいるって缶んんんんんん!?」
電子レンジを見る。
火花が散っていた。
「ん? 誰だ線香花火入れたのは?」
「お前だあああああああ!! なんで缶を入れたああああああああ! 常識で考えろおおおおおおお!」
「え? 何か間違えてた?」
「何それマジ顔やめてくんないマジ疲れるからやめてくんない」
「我儘だなぁ・・・・・・変態が」
「おい今最後になんて言ったコラ。最後に変態とか言っただろ聞こえてんだからなこっち向けおい」
「なんか焦げ臭い」
「人の話しを聞けぇ! つか早くレンジを止めろおおおお!」
「ちょっとお客さんの前だからあまり騒がないように」
そう言い店長が電子レンジを止めたが、時すでに遅し、中の弁当は悲惨な事になっていた。
「おいおまこれどうすんだよ、どんな状態? なんか缶があり得ないくらい膨張してるんだけど。炭酸の面影ないんだけど」
「680円になります~」
「出すなああああああああああああ!!」