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56テールズ ~聖杯の伝説~  作者: 曽我部穂岐
第一章 始まりの物語
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第四十六話 二度は、成らず

「帝国は当時連盟に加盟してなかったんだろ。だったら古代兵器を取り締まる何とかって条約の制限を受けていなかったわけだから、古代兵器を幾つか持っていたんじゃないのか? 魔術や銃弾が効かないのならそれを使えばよかったのに」


 突然のレイの質問にロベルトは意外そうな顔をした。


「ほう、よく知っていたな、遺物管理条約だ。確かに帝国はこの条約の制約を受けていなかったから、当時はかなりの数の古代兵器を保有していただろうな。

それにあれ程の軍事帝国なら当然、古代兵器を扱える人間の養成もしていたはずだ。実際にウィーグ共和国侵攻の際も『タンデムキャノン』を数門持って行っていたのが確認されている」


「何だ、『たんでむきゃのん』って。食えるのかそれ」


「……食えるかよ。二頭馬車砲(タンデムキャノン)、大世界連盟指定遺物B2階級の古代兵器。大気中に存在する電子を凝縮、砲弾化させて横二連の砲口から発射する、対聖銀(ミスリル)兵装用に造られた荷電粒子砲だ。

ミスリルって魔法金属は頑丈で熱にも強いが、電気抵抗が全くないから電気を引き寄せて完全に通してしまうんだ。普通の大砲より少し小ぶりだが、その数十倍の殺傷能力があって頑丈な城壁でも簡単に吹き飛ばすくらいの威力がある。

人間に直撃すれは間違いなく死ぬ、というか蒸発するな、身体が」


「それを使わなかったのか?」


「戦争に使わないものを持って行ったとは思えんね。フェルディナントがそこで死ななかったってことは、使っても効かなかったんだろうよ」


「ええっ、そいつ人間かよ」


「魔剣で防いだんだろうな。電子に反発する磁場を発生させて電界を無効にしたか、あるいは何らかの因子崩壊を起こさせて電子自体を強制消滅させたか……」


「専門用語で喋られても全然解らないんですけど……」


 憮然とするレイを無視してロベルトは話を続けた。



 その後、フェルディナントは帝国軍本隊十九万の前にたった一人で姿を現した。

待ち構えていた帝国軍は砂漠の竜騎士団(デザート・ドラグーン)の誇る長銃槍(フリュクティ)三千丁の集中砲火を浴びせた。


 この帝国が独自に開発した兵器は、その名の通り長銃(ライフル)長槍(ランス)を組み合わせたもので、拳大の流線形鋼鉄弾を火薬で撃ち出すという重火器である。


 元々、対人用としてでなく、高火力の攻城兵器を極限まで小型化、携帯できるようにした兵器だ。

 弾丸の巨大さから単発式であるがその破壊力は凄まじく「竜騎士団の一斉射撃(ドラゴン・ロアー)に耐えられる城壁は存在しない」とまで言われていた。


 一斉射撃の際の轟音と射撃煙の凄まじさを「竜の咆哮」に例えたものだが、煙の中から現れたフェルディナントは全くの無傷だった。


「ま、いずれにしろ奴にはいかなる攻撃も効かなかったわけだ。デニス・ザグレブ、通称『魔銃のデニス』って奴がいてな。こいつは今じゃハンターギルドの副長なんだが、当時は竜騎士団(ドラグーン)の総隊長をやっていて、A3級古代兵器『魔銃デザイア』の使い手だった」


「この古代兵器は『欲せよ、汝の望むままに』って古代文字が銃身に装飾がされている虹彩鉱(アイリスメタル)製の長銃でな。『欲望(デザイア)』の名が示す通り、所持者のイメージを銃口内に物質化して、それを弾丸として撃つというとんでもねえ古代兵器だ。なんせAランクだからな」


「随分後になってデニス本人から聞いた話だが、具現化した火炎弾や魔法金属弾はおろか反物質弾すら結界に入るなり真っ二つに斬られて消滅したってんだから、鋼鉄弾や荷電粒子砲ごときが効くわけがないんだが」


 竜騎兵隊は標的に銃弾が当たらないと解るや否や命令を待たずに撤退し始めた。彼らは殆どが賞金稼ぎの出身で傭兵も多かったから、勝ち目のない戦闘を放棄したのだ。


 三千の竜騎士団(ドラグーン)を失って、もはや帝国軍に勝ち目はなかった。誰の目にもそれは明らかだった。


 しかし皇帝は退却を許さなかった。当時世界最強と呼ばれた、誇り高き不敗の帝国軍が、たった一人の人間に敗戦し撤退するという事態が彼には信じられなかったし許せなかった。

 だから退く者は斬ると叱咤し、無意味な突撃を繰り返して死傷者の数をさらに増大させた。それはもはや戦争ではなく一方的な殺戮だった。


 最終的に帝国軍は二十万の軍隊のうち三万を失い、ついに大世界連盟に助けを求めざるを得なくなった。


 連盟は機敏な対応を見せた。原罪の騎士団を派遣しフェルディナントを始末する条件として、ウィーグ共和国からの即時撤退、ガスフォボス帝国の大世界連盟加盟とそれに基づく全ての国際条約の締結を皇帝に突きつけたのだ。


 今まで連盟を歯牙にもかけず、世界の覇者を自負していた軍事帝国が連盟の元に束縛される。それらの条件は皇帝にとって屈辱的なものだった。


 国際条約の中には古代兵器の管理を全て連盟に任せるという条目や他国領土への永久不可侵条約も含まれていたから、彼の最終目的でもある世界帝国建立という野望も断たれてしまう。


 だが、選択肢は他になかった。このままフェルディナントを放置しておけば帝国軍二十万が全滅しかねない。皇帝は苦汁を飲む思いで連盟の送ってきた全ての書類にサインをした。


 条約締結を受けてすぐに治安機構はフェルディナントの首に史上最高額、金貨百万枚の賞金を懸けた。これは本来なら「帝国の不法侵攻に抵抗する一般人」であるフェルディナントを連盟が公的に討伐するための処置であった。


 派遣された原罪の騎士団員は六名。

 そもそも彼らの任務内容は魔剣の回収であってフェルディナント討伐ではなかったのだが、彼らが戦う必要はなかった。


 フェルディナントはほとんど抵抗もせずに拘束されたからだ。フェルディナントにすれば憎むべきは帝国であって連盟ではなかったからだろうか。


 真相はどうであれ、フランク・フランクリン・フェルディナントは魔剣の精神汚染から解かれ正気を取り戻し、「三万人殺しの超大量殺人犯」として王都ミクチュアの連盟本部に送致され、諸侯会議で裁かれることになった。


 本来、連盟が罪人を裁く場合、いかなる重罪人であってもその処置の全ては治安機構に任されるのだが、この場合は帝国からの何らかの働きかけがあって、諸侯会議による裁判という異例の処置が取られたと考えられる。


 そして諸侯会議は、彼に古代兵器の不法所持及び使用、そして大量殺人の罪状で処刑という裁定を下した。


 ウィーグ共和国はこの処置に強く反対した。共和国からすればフェルディナントは国を救った英雄で、攻め込んできた帝国に全面的に非があるので彼は罪人でもなく、処刑される謂れはないという主張だ。


 しかし、三万人殺害という度の外れた事態と大幅に譲歩した帝国への配慮もあって、処置は覆らなかった。

共和国とは逆に帝国は公開処刑を強固に要求したがこれも諸侯会議で否決された。


 この事件は世界情勢の勢力転換点とも言える出来事だった。


 当時大世界連盟と対等の力を持ち、同時に最大の対立者であった帝国が連盟の傘下に組み込まれ、連盟の力は一気に増大し、世界情勢は現在に至るまでの安定期に入った。


 さらに最強と呼ばれた帝国軍さえ全く歯が立たなかったフェルディナントを一滴の血も流さず拘束したことで、連盟と治安機構は世間から最大の評価を得た。


 そして、わずか十二名の原罪の騎士団は二十万の帝国軍に代わって世界最強の名を手にした。

【更新情報】

『56テールズ人物紹介』に№5【ニコラ・スタール】を追加しました。

併せてご覧くださいませ。

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