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56テールズ ~聖杯の伝説~  作者: 曽我部穂岐
第一章 始まりの物語
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第四十四話 資格と適性

 レイに魔剣についての説明をするのは一苦労だった。


 彼を治療した老医はセント・クレドのペンダントを彼の父親の形見だと聞いたと言っていた。

 ロベルトは二日前の夜、九郎にそのことを確認していた。


「…ふむ、その点に関してはわしも疑問じゃ。老医にそう説明したのはわしじゃが、妙なことにレイはあれを見つけた瞬間から、父親の形見だと言っておる。彼の父親はあれと似たような装飾品を身に着けていたのか?」


 九郎もロベルトもそのことについては分からない。

 しかし、ペンダントを身に着けていたのならば、その上司であったニコラがセント・クレドを手にしたときにグリム・アイバーソンとの関連性に気付くはず。


 いずれにしてもレイは幼少の頃、どこかであのペンダントを見た、ということになる。


 だが、そこには大きな矛盾が生じる。


 セント・クレドがあのペンダントに封印されてから、仮面の男がニコラに手渡すまでずっと連盟の管理下にあった。

 遠く離れたアイオリス大陸のテト王立孤児院にいたレイがペンダントを見ることはあり得ない。


 ひとつ考えられるとすれば、主となるべきものを見つけたセント・クレドが自らを身に付けさせるために、レイに精神支配をかけて親の形見だと錯覚させているということだ。


 レイにも、身に付けているペンダントが魔剣の入れ物であったことを説明したうえで確かめたが、彼はそれが到底そんな物騒なものだとは信じられないようであった。


 だが、それが父親の形見だという記憶はあっても、肝心の父親であるグリム・アイバーソンについての記憶は全くないと言うから、彼がセント・クレドの精神汚染を受けている可能性は高い。


「いいか、古代兵器は持ち主を選ぶ。特に『魔剣』と呼ばれる類の古代兵器は意思を持っている。人格といった方が正しいかもしれんな。自分を最も理解する人物の心の深層に語りかけてくる。つまり、お前に剣の声が聞こえたということは剣がお前を資格所持者として認めたということだ」


 ロベルトは首から下がったペンダントを手に取ってしげしげと眺めているレイに言った。



 一般的に古代兵器と呼ばれている遺物は、大世界連盟によってその危険度に応じた階級(ランク)付けが成されている。上から順番にA、B、C、Dの四階級で、さらに各階級ごと三段階に細分化される。


 先にも述べた通り、売買、所持に制限のないのはD階級の遺物のみで、『聖弾(スピリット)』をはじめとする量産された魔法金属の銃弾や武具などが当てはまる。


 それ以上の階級の遺物は所持に連盟の認可と所持者としての登録が必要となる。


 その基準として、C階級の遺物は固有品(ユニーク)と呼ばれる一品物の武具で何らかの特殊な効果が付与されたもの、B階級はそのうちで殺傷能力が極めて高いもの、最上のA階級は伝説級(アーティファクト)と呼ばれ、太古の伝承にもその名が見られるような武具が名を連ねている。


 C階級以上の古代兵器の所持者もしくは拾得者は大世界連盟の遺物管理局に届け出を行い、適性試験を受けなければならない。


 所持者として適格と見なされれば正式に登録され、その大半は所属国の正規部隊に採用されるか、連盟の職員として採用される。逆に適性が無いとなると、いくばくかの召し上げ金を支払われて古代兵器は連盟に没収される。


 ロベルトにとって厄介だったのは、セント・クレドが資格所持者の意志を媒介に具現化する古代兵器であり、適性が無いからといって回収できる代物ではなかったということだ。



「資格所持者になったとはいえ、お前は魔剣の完全な主となったわけじゃあない。今、剣を具現化しようと念じてみろ。剣に問いかけてみろ」


 言われて彼はペンダントを握りしめて目をつむり、精神を集中する。


 病み上がりの精神状態での具現化は魔剣の精神汚染を一層悪化させる可能性があった。

 一種の賭けであったが、それでもやらせたのは何も起こらないだろうと考えていたからだ。


 そしてその通り、しばらくの沈黙を破ったのはロベルトの声だった。


「何も起こらないし何も聞こえないだろう? それはセント・クレドがお前に従っていないからだ。あくまでお前を都合のいい寄生主として利用しているに過ぎない。

古代兵器というのはそういう点で極めて危険なんだよ。資格所持者といっても完全に古代兵器をコントロールできていないと、やがては彼らに精神を操られるようになる。俺たちは心を喰われる、と表現しているがな」


 ロベルトはどっかりと腰をおろして再びレイの向いに座りなおした。


「古代兵器……彼らは一人でも多くの命を奪うために造られた。彼らはいつも死を求め、常に血と争いに餓えている。だから、古代兵器に精神を乗っ取られてしまうと、自身が兵器としてしか機能しなくなる。血と破壊を求めて殺戮を繰り返することでしか心を満たせなくなる。こうなってしまえばただの殺人鬼だ」


 原罪の騎士団(ペカド・オリジナルズ)の主な任務は古代兵器の回収だ。

 その中で資格の有無にかかわらず、古代兵器の精神汚染によって狂ってしまった者たちを彼は多く見てきた。


「古代兵器の資格所持者になるということは強大な力を得るということと同時に、自分の心の奥底に危険極まりない化け物を飼うということなんだ。しかも、セント・クレドの場合はなおさら性質(たち)が悪い。今までその魔剣の完全な主となった人間は存在しねえ」


「存在しない…って、一人もか?」


「ああ。それ以前にセント・クレドの資格所持者になれた人間がお前を含めて今までに三人しかいないんだがな」


 セント・クレドは古代兵器としては比較的発見が遅い遺物だ。ロベルトが今回の回収任務にあたって調べた記録では、連盟設立初期の今からおよそ二百年前の遺物管理リストに初めてその名前を確認することができた。


 しかし、その二百年間で資格所持者として登録された者は二人しかいなかった。


「その、他の二人って誰なんだ」


「…まあ知りたいだろうな。一人目は連盟が最高機密に指定しているから俺も知らないが、二人目、先代の資格所持者ならお前も聞いたことのある人物だ」


「誰だ? 有名なのか」


「ああ。本人にとっちゃ不名誉だが悪名高いと言ったほうが適切だな。名前はフランク・フランクリン・フェルディナント」


「ええっ、フェルディナントって……」


 流石のレイもその名には聞き覚えがあるようで、大きくのけ反って驚いた。壁際で静かに話を聞いていた九郎も、その名には何か思う所があるようで複雑な表情をしていた。


「ああ、『神の鉄槌(カール・ハンマー)』だ。『聖信者(セント・クレド)』ってその魔剣の名前も、一つの意味は彼に由来している。お前に『聖信者(セント・クレド)の魔剣』の威力を解ってもらうために少し昔話をしようか」

【更新情報】

『56テールズ人物紹介』に№3【烏丸 九郎】追加をしました。

併せてご覧くださいませ。

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