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56テールズ ~聖杯の伝説~  作者: 曽我部穂岐
第一章 始まりの物語
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第十二話 決死の抵抗

 ニコラの視界の端で、もう一人――バンダナの男が左側面から長剣を振りかぶった。


 押さえつけられていた軍刀を捻って外し、刃を真横へ弾く。半歩退いて、左から飛んできた一文字斬りをかわす。


 そのまま踏み込み、バンダナの男の右肩を斬り上げた。


 空を切った長剣は、男の手に握られたまま――腕ごと地面に落ちる。

 肩口から血しぶきと短い悲鳴が上がり、男は後ろのめりに倒れた。


 ニコラはそれを見届ける間もなく、踏み込んだ足を軸に反転する。勢いのまま背後の顎髭の男へ逆胴を払った。無防備な腹へ刃が吸い込まれる――はずだった。


 鈍い金属音。刃が弾かれ、欠片が月光に散る。

 顎髭は右へ数歩よろめいたが、片足で踏みしめて体勢を立て直した。


(くっ……鎖帷子かたびらか)


 刀身の中程が刃こぼれした軍刀を血振りし、ニコラは構え直す。


「思ったよりできるな。今の一撃も見事だった。元軍人かと思っていたが、それ以上に戦闘に慣れている――騎士団の元隊員、といったところか」


 推測は鋭い。王国のではないが、ニコラはかつて騎士団にいた。


 顎髭の男は一メートル半はあろう長剣を、棒きれでも扱うかのように片手でくるりと回し、突きつけた。


 この顎髭――元はアイオリス大陸で名の知れた賞金稼ぎだった。だが、どういうわけか今は野盗団の遊撃隊長に成り下がっている。

 賞金首を追うより、賞金首になったほうが稼げると踏んだのかもしれない。


 賞金稼ぎの大半はその日暮らしの生活で、金がある者は腐るほどあるが、ない者は全くない。そういう安定のない職業だから、彼のようにそれなりの腕を持つ者でも、野盗などに落ちぶれるといったことは珍しくない。


 ニコラの耳には、男の蘊蓄など入っていなかった。考えているのは一つだけだ。


(やはり、三十人相手に勝ち目はない。さっきの一手は一度きり。次は警戒され、間合いを取られ、大勢で一気に来る――だが、市街地にだけは入れられん。まだ避難していない者もいる)


 顎髭の男が不意に剣を振りかぶり、地面を蹴った。


(九郎とロベルトが来るまで、私が時間を稼ぐ。二人ならこの程度の野盗、軽く掃き払える。それまでは――)


 速い。顎髭は一足で間合いを侵した。


 振り下ろされた長剣を、ニコラは顔面の直前で辛うじて受け止める。

 だが剣圧が前の比ではない。踏ん張る右足が石畳を ずるずると滑り、後ろへ押されていく。


 捌こうとしても、軍刀の平が押さえつけられて刃を返せない。息が上がった。


(く……本当に衰えた。まだ数分だというのに……十六年前なら、この程度――)


 顎髭の背後から、剣を持った二人の野盗が駆けてくる。

 ニコラがそちらへ視線を割った瞬間――顎髭は長剣を引き、軍刀の下へ滑り込ませた。


 そして、一気に振り上げる。


(しまった!)


 軍刀が弾き上げられる。両腕が上がったままの無防備な瞬間に、二人は左右へ割れて回り込んだ。


 同時に、脇腹へ剣が走る。


 肉を裂く音。両脇から鮮血が吹き出した。


 ――それでも、ニコラは倒れない。


 最後の執念で軍刀を斜めに振り下ろし、右の男の首を刎ね落とした。

 噴き上がった血しぶきが町長の横顔を染める。


 激痛を噛み殺し、反対側へ踏み込む。もう一人の胸へ軍刀を突き立てた。


 だが引き抜こうと力を込めた瞬間、両脇から血があふれ返った。

 指が、ゆっくりと柄から離れていく。体から力が抜け、膝をつき、うつ伏せに倒れ込んだ。


 首から上を失ってなお数歩進んだ男が、次いで倒れる。

 串刺しにされた男も、口からかすれた音を漏らして崩れた。


「……ふん。無駄な足掻きだ」


 顎髭の男は鼻で笑い、倒れたニコラを見下ろした。


 血だまりの中で、ニコラはまだ――かすかに呼吸をしている。


 顎髭は顔を上げ、周囲を見渡した。

 石畳には手下がいくつも転がり、死体と負傷者が月光に照らされている。首の断面からは、ときおり細い血が跳ねた。


「しかし、派手にやってくれたものだ」


 背後でバルバリッチャが腹立たしげに言った。最初に斬られた者も含め、広場の周辺には戦闘不能が六名。そのうち死者は二名。本隊ではないとはいえ、この小さな町の襲撃としては予想外の痛手だ。


 顎髭の男は長剣を逆手に持ち直し、切っ先をニコラの背へ向けた。


「町長。最後に聞く。この町にある“古代兵器”について、何か知っていることはあるか」


 ニコラはわずかに顔を上げ、かすれる声で答えた。


「この町に……そんなものは、ない……。あったとしても……貴様らのような、心の弱い者に……古代兵器は、扱えん……」


 顎髭の男は口の端を引きつらせ、切っ先の狙いを定める。


「最後まで無礼な年寄りだ。まあいい。この程度の町、しらみつぶしに探せば――すぐ見つかる」


 その背で、バルバリッチャが右手を振った。早く、とどめを刺せという合図だ。


 顎髭の男は一度だけ振り返り、こくりと頷く。

 そして掲げた長剣を――振り下ろした。

『用語解説』


賞金稼ぎポットハンター

連盟管轄下のハンターギルドに登録された追跡・捕縛業者。活動にはギルド発行の許可証ライセンスが必要で、取得には試験の合格を要する。


業務は賞金首の追跡・拘束・引き渡しを基本とし、報復を受ける危険もある。特に高額の賞金首ほど徒党や装備が充実しているため、単独での捕縛や賞金の独占は難しく、複数名で組んで山分けする形が一般的。


そのため、多くは確実な小中規模の対象を積み重ねて稼ぐが、滞在費・装備費・治療費・情報料などの経費がかさみ、手取りは安定しにくい。懸賞金額上位には金貨一万枚超の賞金首も存在するが、国家級の反逆者や著名な殺し屋が多く、対応は実質的にごく一部の超腕利き、もしくは正規組織の案件となる。

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