第十一話 古代兵器
状況はさらに悪化した。少々の傷なら痕さえ残さず治してしまう魔術士と、三十人以上の野盗を同時に相手にしなければならない。
しかも、彼らの目的は『古代兵器』だ。
それが何か――『セント・クレド』だということまでは知らないようだが、この町に古代兵器セント・クレドがあると知っているのは、ニコラと烏丸九郎を除けば、保管を依頼した名前のない男と、回収任務を受けたロベルトだけのはずだった。
彼らは、どこでこの情報を得たのか。
だがニコラは、その疑問よりも――この場で一秒でも長く時間を稼ぐ策を探すことで必死だった。
古代兵器とは、悠久の太古に起こった支配者族と他種族との戦争で造り出された、危険な遺物の総称である。
たとえば古代遺跡から比較的よく出土し、市場でも流通する『聖なる弾丸』――通称『聖弾』もその一つだ。
聖弾は聖銀と呼ばれる“魔法金属”でできており、着弾時の衝撃を異様なほど増幅させる。そのため、普通の銃弾の十倍近い殺傷力を持ち、大型の四頭獣退治などで用いられる。
大世界連盟は全加盟国に遺物管理条約を批准させ、古代兵器を危険度に応じて五段階で分類し、管理・保管している。
最低のDランクのみ売買が許可されるが、それ以上は連盟の許可なく所持・売買・使用すること自体が禁じられ、罰則も極刑が適用されるほど重い。
厳しい規制がなされているのは、それらがあまりにも破壊的な力を秘めているからだ。
もし高ランクの古代兵器が流出すれば、秩序は崩れ、国々は滅び、奪い合いの紛争が連鎖し、世界は太古の混乱へ逆戻りする――ニコラはそう理解していた。
「僕は誰だ」
バルバリッチャが、町長を見据えた。
「はっ。マッシュウ野盗団、副団長――バルバリッチャ・マッシュウ様です」
傍にいた顎髭の男が即座に答える。
「そうだ。あの町長とやらは、我々を少しなめているようだな」
「おっしゃる通りでございます。我らマッシュウ野盗団を相手に、一人で立ち向かうとは――愚弄しているとしか考えられません。さらにバルバリッチャ様に斬りかかり、恐れ多いそのお体に傷を負わせるとは」
バルバリッチャは満足げに頷き、視線を町長へ戻した。
「では――侮辱した者の末路を、見せてやれ」
「仰せのままに――」
顎髭の男と、その背後の手下数人が、各々の武器を振りかざしてニコラへ駆け出した。
ニコラは腰を落とし、両足で大地をつかむ。軍刀を正眼に構え、腹の底から息を吐いた。
「何があろうと、ここを通すわけには――」
言葉が途切れる。
顎髭の男が振り下ろした長剣が、ニコラの脳天へ落ちてきたのだ。
ニコラは刀を振り上げ、それを受け止めた。
鈍い金属音。両腕にずしりと重みが乗る。
月光を受けた刃と刃の間から覗く男の顔は、だらしなく緩んでいた。殺戮に快楽を覚える口なのだろう。
ニコラは一瞬だけ、丘の上の道場の方角を見た。
(広場周辺の住人は大方逃げ切れた……。九郎とロベルトも、この異変に気付いたはずだ。私がいつまで持ちこたえられるか分からないが――とにかく、彼らが来るまでここで食い止めねば)
中天に差しかかった下弦の月が、何も言わず広場の喧騒を見下ろしていた。




