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56テールズ ~聖杯の伝説~  作者: 曽我部穂岐
第一章 始まりの物語
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第十話 襲撃、マッシュウ野盗団!

「ふむ、なかなかやるな。――年寄りの割には」


 茶髪で、キノコの笠みたいな髪型をした男は、馬上から広場の戦いを眺め、客観的に言った。

 頬はこけ落ち、眼下がくぼんで全体的に貧相な顔つきだ。黒っぽいローブのようなものを何重にも着込んでいる。


 男は革手袋の手で手綱を引き、馬の向きを変えた。

 視線の先には、手下の男が三人、斬り伏せられて石畳に倒れている。


 男は倒れ伏す者たちから目を離さぬまま、馬の脇に従う徒歩の顎髭の男に問うた。


「この町に、あのような者がいるという情報は入っていたか」


「いいえ、ございません。我々にもたらされた情報は一つのみでございましたので」


 顎髭の男は、片手に持った長剣を肩に担ぎ、馬鹿に丁重な口調で返答した。


 彼の背後には、上部がほとんど焼け焦げ、内側からぶすぶすと不快な音を立ててくすぶっているケヤキの大木。さらに、武器を持った数十人の手下が広場を囲んで待機している。


 馬上の男はその答えに満足したように、細い顎をさすりながら次の問いを続けた。


「では、あれは何者だ」


「剣の扱いに慣れています。剣筋から見て軍隊剣術――元軍人、といったところではないでしょうか。退役軍人が警護のためにいる町は、そう珍しくありません」


 完璧な答えだ。

 彼らの視線の先には、薄黒い肌の、頭の少し禿げた小太りの中年の男が軍刀を構え、市街地への通路に立ち塞がっている。


「僭越ながら、私が片付けましょうか? バルバリッチャ様の手を煩わせるまでもございません」


 顎髭の男は長剣を正眼に振りかぶり、立ち塞がる男を睨みつけた。


「いや、かまわん。いきなり力で訴えるのは野蛮だ。美しくない。僕の美学に反する」


 バルバリッチャは矛盾たっぷりにそう言い、優雅にひらりと馬を下りると、町長の前まで歩み寄った。


「なぜ君は我々の邪魔をする。人の仕事を妨害するのは、失礼というものじゃないか」


「失礼だと? ふざけるな。わたしは町長だ。この町を守る義務がある。貴様らごとき悪党の思い通りにはさせん」


 言い終わるより早く、町長が大きく踏み込み、バルバリッチャめがけて軍刀を斬りつけた。


 しかしバルバリッチャはローブを翻し、宙返りで刃をかわす。

 低く着地した彼は、にやりと笑った。


「そうか。君は町長か」


 呟き、立ち上がる。そして声を上げた。


「僕は君に聞きたいことがある。今回の仕事はいつもの襲撃とは少々異なる。我々はある人物から、この町に『古代兵器』があるという情報を得た。極めて確かな情報だ」


「……古代兵器だと」


 町長は軍刀を構えたまま、無表情で聞き返す。

 バルバリッチャは芝居がかった仕草で、空に浮かぶ下弦の月へ両手を伸ばした。


「そうだ。太古の偉大な種族たちの遺産。古の戦争の時代に、我々人間には到底及ばぬ技術で造られた強大な武器――いや、名の通り兵器だ」


「大半は大世界連盟の管理下にあるが、まだ連盟が把握できていないものも多いと聞く。その一つが、この町にあるのだろう?」


「馬鹿な」


 ニコラは一笑し、軍刀を顔の右横に寝かせて構える。


「こんな小さな田舎町に、そんな物騒なものがあるはずがないだろう」


「ふ。嘘は身のためにならんぞ。いくらごまかそうとも無駄だ。繰り返すが、我々が得た情報は絶対なのだからな。おとなしく古代兵器を渡せば、町の八割の略奪で許してやる。残った二割の財産を持ち寄れば、町を立て直すことぐらいはできるだろう。どれほどの時間を要するかは知らんがな」


 言い終わると同時に、町長が八相に構えた軍刀の刃を返した。


 刀身に反射した月光が、バルバリッチャの目を刺す。


「――っ」


 意表を突かれたバルバリッチャは、咄嗟に片手で光を遮った。

 だが、大きく踏み込んだ町長の軍刀は、すでに彼の左肩めがけて振り下ろされている。


 太陽や月の光を刀身に反射させ相手の視界を断ち、その隙に斬り伏せる。

 二条流剣術の「反閃」と呼ばれる技である。


 二条流剣術は烏丸流剣術と並ぶ、ナカツの帝可御流の一つ。刀工の名門、二条家に代々伝わる鍛冶屋剣術だ。ニコラはこの流派を少しかじったことがあった。


 バルバリッチャは地面を蹴って後方へ跳び退すさる。

 だが完全な回避には至らず、刃がローブと肩の肉を斜めに裂いた。血の滴りとともに、軍刀は地面へ届く。

 町長は「しまった」という表情で顔を上げた。


(く……私の腕も鈍ったな。今の不意打ちでさえ仕留めきれんとは……)


 ニコラは焦燥を噛み殺し、軍刀を構え直す。


 町長職に就いてから、盗賊の類の襲撃を受けたことは何度かあった。だが、すべて彼一人で撃退できる小規模のものだった。これほどの人数での襲撃は初めてだ。


 しかも明らかに訓練された統率がある。後ろに控えた連中は、先だって指示なく襲いかかることはない。ニコラを取り囲む陣形も崩さない。


「大丈夫ですか、バルバリッチャ様!」


 顎髭の男が慌てて、血で赤く染まった肩口を押さえるバルバリッチャの傍へ駆け寄る。

 だがバルバリッチャは、空いた片手でそれを制した。


「――心配ない。たかがこれしき、たいした傷ではない。それより、この僕に不意打ちをかけるとはいい度胸だ。初太刀で仕留められると踏んだのだろうが、僕はそれほど甘くない……」


 バルバリッチャはそう言って、片手を月に掲げた。


白の礼讃ホーリー・プライズ


 短い言葉を唱えると同時に、掲げた掌から白い光が溢れ出し、彼の全身を包み込む。

 光はえぐられた肩の傷口へ流れ込み、肉の組織と組織を繋ぎ合わせていった。


「――魔術士か!」


 ニコラは、完全に塞がった傷口を見て小さく叫ぶ。


 そして思い出した。

 ここ数年、エクベルト王国を騒がせている新興野盗団の名を。

十話にしてようやく魔術士登場です。

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